第17話 救いの手×2と過去への決別

「学人、大丈夫か?」


「終わった。」



朝から元気ないから声掛けてやったら、一声目からからなんだけど、どうしたこいつ?


「ま、学人?」

「終わった。」


ダメだこいつ早くなんとかしないと、、、


「学人元気出せよ、ほらカロリーメイトだぞ」

「終わった。」


学人がカロリーメイトに釣られないだと!?

異常事態だ。友人が『終わった』ボットになる事より大変な事だぞこれ。



……まぁ、原因は大体分かってる気がする。

修学旅行前に殆どの学生の敵、消えて欲しい概念ランキング四位くらいのアレがある。


「お前もしかして……勉強してないのか?」

「うん、正直最近の授業は何言ってるか分からない所まで来てる」


「そっか、どんまい」

「え、それだけ?」


なんだよ、冷たいってか?俺は俺で危ないんだ。人の勉強見てる場合じゃない。


「ほんじゃ、ここらでお暇しやすね」

「まってくれ!頼むまじで!」


「いやだ!落ちるなら一人で行ってくれ!俺を巻き込むな!」

「イヤッ!イヤッ!」


ち◯かわ?


「……あの、もしよかったらなんですけど勉強、お、教えましょうか?」

「えっ」


なんと横から救いの手が伸びてきた。……でも誰だろうか、こんな終わってる俺たちを救ってくれる天使は、


糸間いとまさん?」


どうやら学人とは知り合いらしい。俺は話した事ないが、名前は聞いた事がある。糸間いとま舞香まいかさん、多分うちのクラスで二番目に頭良い。


「い、いいの?糸間さん!」

「う、うん。迷惑じゃなければ」


な、なんと言う事だ。さっきまで人生終了のカウントダウンが始まっていた学人が生気を取り戻しつつある。


「ありがとう!ありがとう!ありがとう!」


結局ボットにはなった学人だが、ハッピーエンドだな。


「じゃあ、今日の放課後とかいい?」

「う、うん!」


あれ?じゃあ俺は?





今日も今日とて、碧ちゃんと帰りますか。

ところで後ろからすごい速度で迫ってきてるのは誰かな?


ムギュッ


この感触!碧ちゃんだな、ってなんで分かっちゃうんだよ俺!


「だーれだ!」

「碧ちゃんでしょ。いつもやってるよこれ」


「んふふっ、そろそろ私の体の感触覚えてきちゃったでしょ。」

「……」


否定出来ないのが辛いな。いや、辛いのか?結構役得かも。あと、そういう言葉は昇降口で使わないでほしい。


「……帰ろっか、碧ちゃん」

「うん!」


春が過ぎ、少しじめじめと暑い空気になっていくのが夏を感じさせてくる。


修学旅行は海だし、気持ちいいだろうな。

……テスト乗り切ったらだけど、、、


顔に出ていたのだろうか、察した様に碧ちゃんが口を開く。


「どうしたの春くん?体調悪い?」

「いや、テストが不安でさ。修学旅行行けるかなって、」


そう、テストで赤点を一つでも取ると……修学旅行中は補習期間となる。厳し過ぎない?


学校のスローガンが文遊両道とか言う変わったものなんだが、『遊ぶ時は遊んで、学ぶ時は学ぶ』

メリハリをつけて欲しいらしい。


だからって修学旅行を懸けるとか、人間のやる事か?


「春くん、そんな事で悩んでるの?」

「そ、そんなこと?」


そらあなたは賢いから余裕だろうけど……


うん?そういえば、碧ちゃんって編入試験余裕で通ってたっけ、


「碧ちゃんってもしかして頭良いよね?」

「うん?分かんないけど、今の授業は余裕だよ?」


そうだった。俺には碧ちゃんがいるじゃないか、俺にもいたんだ救いの天使が!


ガシッ


「へっ?は、春くん?」

「碧ちゃん……」


人に物を頼む時は真っ直ぐ目を見てだよな。


「は、春くんっ!やっとなの?」


んっ、と目を瞑る碧ちゃんだが、いまいち意図がわからん。でもやっとか、そうだよ俺はやっと

テストに希望を持てた。


「俺に勉強を教えてくれ!碧ちゃん」

「は?」




碧ちゃんをこうやって家にあげるのも慣れたものだな。碧ちゃんを部屋に押し込み来客用のお菓子を少し持っていく。


「碧ちゃーん、お待たせー」

「ぶぅー」


ちなみに碧ちゃんは勉強を教えてくれと言った所くらいから、ずっと頬を膨らませている。可愛い


「ご、ごめんって。」


何したか知らんけど


「……ほんとに反省してる?」

「……はい、」

「私が怒ってる理由分かった?」

「はい」

「卒業したら責任取って結婚してくれる?」

「はい、……うん?」


「じゃあいいよ!勉強しよ?」


あれなんか急に人生設計に歪みが生じた気がするんだけど、気のせいかな?


「ほら、早く出来ないとか見せて?」

「う、うん。そうだった」


今は余計なこと考えず、勉強に集中しよう。

今日は聞きたいこともあるし、、、


それから二時間ほど勉強したけど、とても有意義な時間だった。しっかり勉強したことは頭に入ったし、何より碧ちゃんが一つ出来る様になった

度にめっちゃ褒めてくれる。


柏村春の自己肯定感と自尊心がアップした!


「お兄ちゃーん、ご飯だよー」

「うん、今行くー」


今日はビーフシチューかな?香りが二階まで届いている。


「おまたせ、食べよっか」

「うん!春くんこっちね、」

「は?お兄ちゃんは私の隣ね?」


……いつもの食卓碧ちゃんを添えて。添えるだけでこんな事になるなんて、勉強のお礼にご飯食べたいって貰うだけだよ?



それに、碧ちゃんがいるからこそ話したいこともある。


「あっ!そういえばさ、俺の昔のこと聞きたいんだけど」


俺が今最も知りたいことを聞いてみたんだが……

空気が少し重くなった気がする。


まぁ、そうなる理由は俺にあるんだろう。



「……大丈夫なのお兄ちゃん?」

「そ、そうだよ。無理はダメだよ?」



夏樹はともかく、碧ちゃんも知ってるんだな。



俺は過去のことをあまり覚えていない。正確には無意識的に思い出さない様にしているらしい。



俺が人を助けるヒーローに憧れていた時期、小学生の時だ。そして同時にヒーローを辞めた時。


俺が憧れを、夢を諦めて、全部忘れたいと思ったあの事件があるから。



だからだろうか?美波の過去を聞いた時、俺は少し聞きたくないと思ってしまった。


でも、知りたいんだ。碧ちゃんや美波、他にも色んな人との記憶がある気がするのに。肝心な内容が霧がかかった様に思い出せない。


昔の俺がしてたヒーローごっこは、少なくとも碧ちゃんと美波を救えたんだろう。だから、その思い出を大切にしたい。


「……なんでも良いんだ。俺の過去を教えてくれ」





────────────

すいません!遅れましたぁ!

次回は閑話挟んでから

春の過去編を少し書きます!




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