マネキンと堕天使
Kay.Valentine
第1話
十二月上旬の或る寒い日のことでした。ここは山手線のターミナル駅前です。
目の前に聳え立つデパートの婦人服売り場は時節柄、大勢のご婦人が行き交い大変混雑しておりました。
店員はお客の対応ばかりでなく、間もなく始まる年末商戦の準備もしなければなりませんので大忙しです。
でも閉店時間が過ぎると、明かりは最小限に抑えられますし、人間は一人もいなくなりますから、薄明かりの中の静寂とでも言いましょうか、とにかく昼間とはうって変わった世界になるのです。
するとマネキン達は本来の自分に戻り、昼間の間に疲れ切ってしまった心を癒します。
さて、このお話の主人公のマネキンです。
彼女はとても美しいので、他のマネキンから離れた特別なブースの中にいました。
もちろん店一番の高級服を着せられて、得意げにポーズをとっています。
彼女は閉店後、心を伸び伸びと開放して長い夜をエンジョイしていました。
静寂の向こうから靴音が聞こえます。
何人かがマネキンのブースの方に歩いてきます。
このデパートの監視システムはしっかりとしているはずなのですが、どうやって忍び込んで来たのでしょうか。
男三人と女二人が辺りを窺いながらブースの前に来ました。
みんな酔っぱらっているようです。
女がマネキンを見て怒りの声を上げました。
「美人ですましている女ってむかつくのよね。特別誂えのブースの中にいるし、マネキンのくせに超高級服着てるし」
男達はブースの中のマネキンを見てほくそ笑みました。
「まあ、そう言うなよ。コイツを肴にして酒飲もうぜ。」
もう一人の女が怪訝な顔で言いました。
「でも担いでいったら目立つじゃん」
皆は口々に言い始めました。
「首のところからへし折っちまえよ」
「そうだ、そうだ」
「こんな女なんて、ぶっ壊しちゃえ」
その話を聞いていたマネキンは震えあがりました。
(誰か助けて! 壊されちゃう!)
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