第21話 呪縛封印法
翌朝、帆夏は電車に乗って来なかった。やはり、休みのようだ。まあ、昨日の今日だから無理もない。
そんな訳で、時雨は久しぶりに一人で九号車に乗っていた。そしたら、幽馬が現れた。理由を聞かれたので、昨日帆夏に起こった出来事を話した。
これを聞いた幽馬は、いつになく真顔になって問いかけてきた。
「帆夏は、幽剛の声を聞いたって言ったの?」
「うん。そう言っていたわ。」
「それって、霊力が上がっている証拠だよ。」
「どうして?」
「時雨は、人より霊力が強いから僕が見えるし、話もできる。でも、普通はできないよね。その帆夏に聞こえるってことは、幽剛の霊力が上がったからに他ならないだろ?」
「確かに。やっぱり、そうなるよね。ねえ、幽馬。これって、マズイんじゃないかな?」
「ああ、そうだね。ただ、ロープを操れても結ばなかったのは、そこまで力がないからだと思う。それなら、まだ捕まえられるよ。」
「早く、幽霊退治の方法を考えないとね。」
「冗談抜きに、そう思う。急いだ方がいいよ。実はね。昨日の朝も幽剛を電車の中で見掛けたんだ。ウロウロと回遊していたけど、皆を監視しているのかもしれない。」
時雨は、幽剛が近くにいることに不安を感じた。
「そっかあ。幽剛は近くにいるのね。」
「そう思っていた方がいいよ。ちなみに、幽霊って言うは、皆が気づいてないだけで結構いるんだ。あちこちに。」
「そうなの?私、気づかないけど。」
「波長があるんじゃないかな。」
「波長?」
「相性みたいなものだよ。上手く説明できないけど、波長が合うと、人と幽霊が接触できるのかもしれない。」
「私と幽馬みたいに?」
「多分ね。その辺は、僕もよく分からないよ。なんなら、晴馬にでも聞いてみれば?」
突然、桜木先生が出て来たので、時雨は戸惑った。
「なんで?」
「晴馬は、化学の先生だから。」
「幽霊は、信じてないでしょ。」
「だからさ。現代の科学で証明できるものなんて、ほんの一部なんだよね。大部分は、解明できてないだけなんだ。なら、幽霊は何ってこと。」
「分かったわ。時間があったら聞いてみる。」
時雨としては、桜木先生はお堅いからなあと、あまり気が乗らなかった。
「まあいいさ。実際、僕と時雨はこうして会話しているんだ。これは、紛れもなく事実だよ。そう思うでしょ?」
「ごもっともで。」
「それで話を戻すけど、幽霊は未練があるからこの世に存在しているんだ。」
「蓮沼部長も、そんなこと言っていたわ。」
時雨は思い出した。
「そうか。大抵は、その未練の対象物の近くにいるんだよ。つまり、時雨達に近づく幽霊は、時雨達に恨みのあるモノってことになる。」
「なるほど。だから、幽剛なのね。」
「高い確率で。」
「幽馬が言うなら信じるわ。」
「信じてもらえて嬉しいよ。それと、悪霊退散の護符を身に着けるといいかも。」
幽馬の方から有効手段の一つだと言って、アドバイスをもらった。
「護符?」
「霊媒師が作ったものがいいって聞くよ。」
「霊媒師かあ。分かったわ。」
時雨は、護符はいいかもと思い、素直に受け入れた。でも、どこにあるんだろう。
「あと、もう一つ提案がある。幽剛を封印するのはどうかな?」
「封印?」
「そう。成仏や除霊は無理でも、封印ならできるかもしれないよ。昔からある話だし。例えば、霊媒師が呪縛霊を封印したとかね。」
「なるほど。封印かあ。それ、調べてみるわ。」
「どう?少しは役に立った?」
「うん。ありがとう。」
「じゃ、そろそろ行くよ。幽剛は霊力を増しているから、身を守る方法も考えてね。」
「そうする。」
ここで、国立駅に到着した。幽馬がいなくなり、代わりに世里奈先輩が乗ってきた。
「おはよう、時雨。」
「おはようございます。世里奈先輩。」
「帆夏は休み?」
「今日は、乗ってきませんでした。」
「昨日の様子じゃ仕方ないか。」
「そう思います。」
時雨も世里奈先輩も想定していたことだった。
「私達も気をつけようね。」
「はい。」
「それでね。昨日の帰りに神社へ行ったら、悪霊退散の護符があったの。これあげる。」
時雨は、タイミングよく世里奈先輩から護符をもらった。
「ありがとうございます。さっき、幽馬と話していたんです。護符を身に着けるといいって言われました。」
「そうなんだ。調度良かったわ。皆の分もあるから心配しないで。」
時雨は頷いた。世里奈先輩の優しさと機転に、ちょっぴり憧れてしまった。
そして、放課後。
警察の現場検証は終わり、オカ研の部室は封鎖されることなく入ることができた。
時雨達三人は、部室内を奇麗に清掃し、棚などを元の位置に戻した。
それから時雨は、先輩二人に相談してみた。
「大和先輩。幽馬が、幽剛を封印してはどうかと言ったんですけど。どうでしょう。」
「封印?除霊とかじゃなくて?」
「はい。霊媒師が霊を封印するのは、昔からある話だそうです。」
「そうか。そう言えば、蓮沼部長も言っていたな。古くから伝わるもので、呪縛封印法と言うものがあるとか、何とか…。」
「何、それ?」
世里奈先輩が聞いてきた。
「えーと。つまり、幽霊を封印することができる呪文だよ。」
「そんなことができるの?」
「どこかに、その書物があったと思うんだ。この部室のどこかに。」
「でしたら、三人で手分けして探しませんか?」
時雨が、投げかけてみた。
「そうね。」
「探してみよう。」
世里奈先輩と大和先輩は、既に何十冊も読み漁っていったので疲れ切った顔で同意した。
これより、三人で手分けして部室内の本棚にある書物を、再度調べ直すことになった。
ちなみに、世里奈先輩は大和先輩にも護符を渡していた。更に、部室内の至る所にも貼りつけていた。
翌朝、いつものように時雨は電車に乗った。少しすると、幽馬が現れて話しかけてきた。
「おはよう、時雨。今朝は、元気そうだね。」
「おはよう。実はね。昨日、世里奈先輩から悪霊退散の護符をいただいたの。」
「そう言うことか。」
「これ、幽馬は大丈夫なの?」
そう言って、護符を見せた。
「僕は、幽体分離だから大丈夫じゃないかな。まあ、悪霊じゃないってことかも。」
「そうみたいね。良かったわ。」
「…。」
幽馬は、複雑な気分だった。
「それと今ね。皆で幽霊を封印する呪文、呪縛封印法って言うのを調べているの。」
「呪縛封印法?それで、幽剛を封印するんだね。」
「そう。ただ、それが書かれた本がまだ見つかっていないのよ。」
「ふーん。見つかりそう?」
「オカ研の部室内にあるみたい。それで、今、頑張って探しているところよ。」
「そっかあ。早く見つかるといいね。」
「うん。見つかったら教えるから、その時は協力してね。」
「もちろん。」
ここまで話すと、幽馬はまたどこかへ行ってしまった。
これより、大和先輩と世里奈先輩と時雨の三人は、毎日放課後になると部室にこもり、棚にある書物や資料などを、片っ端からチェックした。
最初は、直ぐに見つかると軽く考えていた。しかし、古い文献ほど読み難く、目次がなかったり、翻訳が必要な文章だったりで、中々進まなかった。
特に、時雨は古文や漢文が苦手だった。なので、菊名先生に頼ることを提案した。
だけど、先輩二人は、自分達でやろうと言い出した。意思が強く、その場で却下されてしまった。
故に、一つ一つチェックして行くのが大事だと、地道に、丁寧に調べることとなった。
更に、数日が経過した。
前日に大和先輩が、蓮沼部長のお見舞いに行ってきた。未だに呪縛封印法の書かれた書物が見つからなかったので、聞いてみようと言うことになったからである。
オカ研の部室に三人が集まると、大和先輩は世里奈先輩と時雨に話し出した。
「蓮沼部長の話では、呪縛封印法の書かれた書物は、古文書と言う感じの古い書物だと言っていたよ。それと、分厚い本だと。」
「古文書って言われてもねえ。古い本ばかりだから。でも、そんな感じよね。」
「その本は、厚みがあるんですね。それなら、分厚い本から調べてみます。」
再び三人は、古い書物を重点的に調べ始めた。
時雨は本棚を見て、とりあえず分厚くて古そうな本に着目した。
その中で本棚の一番下にあった、背表紙に「奇怪霊怨記」と書かれた、とても古そうな本を見つけた。しかも、色褪せていて、如何にも怪しそうな本だった。
その本を手に取って開いてみると、文章が漢文になっていた。レ点やカナはあるけど、基本、漢字しかない。非常に読み難い。頭が痛くなってきた。翻訳機が欲しいとも思った。
時雨の頭の中のもう一人が、違う本に変えようと言っていた。本に対する拒否反応、嫌悪感しかなかった。しかし、誰かがこの本を調べなければならないのも事実。
大和先輩と世里奈先輩の方を見ると、真剣に読みふけっていた。話しかけるスキもない。時雨は諦めて、その書物を持って自分の椅子に戻った。
さあて、どうやって調べよう。一つ一つ読んでいくのは、どう考えてもシンドイ。眠くなるし、テストも近い。参ったなあ。
そこで、キーワードなる「呪縛封印法」と言う文字に絞ることにした。つまり、他は読まないと決めた。まあ、読んでも解らないと言うのもあるけど。
この方法でいいとは言えない。けれど、これなら早くページがめくれた。
それにしても、分厚い本だ。ページをめくっても、めくっても、進んでいる気がしなかった。しかも、筆文字で、見知らぬ漢字が次々と出てくる。文字サイズが大きいのが、唯一の救いかもしれない。
蓮沼部長は、こう言うのを解読しているのよねえ。凄いなあ。
そんなことを思いつつ、調べ始めることにした。
最初のページを開いてから、一時間が経過した。欠伸が出た。涙も出て来た。
「あれ。これかな?」
時雨にしては熱心に耽読(たんどく)していたら、「呪縛封印法」と書かれた文字が出て来た。
もしかして、見つけたのかしら。その文字に、目が張りついた。
更にページをめくると、今度は「呪縛封印」と言う文字があった。また、所々に「呪縛」や「封印」と言う文字も表記されていた。
蓮沼部長が言っていた本って、これじゃないかな?
時雨は、まだ疑心暗鬼だった。だけど、可能性に賭けてみたくなった。それで、一度深呼吸してから、大和先輩と世里奈先輩に話しかけてみた。
「あのー、この本に、「呪縛封印法」と言う文字を見つけたんですけど…。」
「何、ホントか?」
「本当に?」
時雨の言葉に反応し、先輩二人がやって来た。それで、まず一度本を閉じて、表紙の文字を見せた。
「この書物なんですけど。かなり古そうなので、古文書と言うのでしょうか。表紙には、「奇怪霊怨記」なる文字が書いてあります。これ、何て読むのでしょうか?」
「きかいれいおんき、かな?」
「多分ね。」
先輩達もハッキリとは解らないようだった。時雨は、さっきまで開いていたページを再度開き、気になった文字を指差した。
「ここに、「呪縛封印法」とあります。」
「おおーっ。」
大和先輩と世里奈先輩は、目を丸くして驚嘆した。そして、顔を近づけて、その文字を食い入るように見入っていた。
時雨は続けた。「呪縛封印」や「呪縛」「封印」と言う文字についても、指していきながら話をした。
「これだな。この奇怪霊怨記って題名からも、いかにもって感じがするよ。」
大和先輩が言うと、世里奈先輩も同調した。
「うん。霊界に詳しい書物って感じよね。とにかく、見つかって良かったわあー。」
そう言って、二人共椅子に座り込み、上を向いて、大きく口を開けて息を吐いた。
時雨も、役に立てて良かったと安堵した。
但し、漢文では直ぐに理解することができなかった。なので、大和先輩が申し出た。
「これ、解読する必要があるよね。やってみるから、少し預からせてもらえないかな?」
世里奈先輩と時雨は、目をウルウルさせながら言った。
「もちろん、いいよ。」
「お願いします。」
時雨は、解読する役でなくて良かったと心底思った。それと同時に、どっと疲れが出た。
翌朝、時雨は幽馬にこれらのことを話した。
「それでね。私が、呪縛封印法が書かれた本を見つけたのよ。」
「本当かい?それは良かったね。で、なんて本?」
「奇怪霊怨記と言って、もの凄く古そうな書物だったわ。今、大和先輩が解読中なの。」
「そんなに難しいのかい?」
「漢文で書かれていたの。私には、ちょっと無理かも…。」
「それでも、見つかって良かったじゃないか。これで方法が分かれば、封印できるよ。」
幽馬も嬉しそうだった。
「そうね。あと少しよ。」
「ところで、その後、被害は出てないかい?」
「出てないわ。護符のおかげかも。」
時雨は、護符の力を改めて悟った。
「何にしてもいい事だな。でも、油断はするなよ。」
「分かっている。幽馬は親切ね。」
「唯一、話ができる友達だからね。」
「そうなんだ。私しか話せる人、いないの?」
「幽霊仲間はいるよ。でも、生身の人間は、時雨だけだから。」
「そっか。そうそういる訳じゃないんだね。知らなかった。私は、ずっと幽馬の友達だから、これからも仲良くしようね。また、何かあったら教えてくれる?」
「もちろん。僕も友達だと思っているよ。じゃあ、もう行くよ。またね。」
幽馬は、テレていた。だからか、そそくさと去っていった。
そして、放課後のオカ研の部室。
五人いた部員は、今は大和先輩と世里奈先輩と時雨の三人になってしまった。蓮沼部長は入院、帆夏は自宅休養と、二人欠ける寂しさがにじみ出ていた。
加えて、ここもだいぶ雰囲気が変わった。部室内に無数に貼られた護符が、異様な雰囲気を醸し出して、不気味さが際立っていた。いかにも、オカルト研究部って感じだった。
オマケに、護符の数が日に日に増えている。ここまでしたのは、世里奈先輩である。時雨は、こんなに貼らなくても良いのではと、口には出さなかったけど思っていた。
幽剛が入らないように貼ったのよね。家にも貼っているのかな?
色々と想像していたら、大和先輩が話し出した。
「ちょっと、いいかな。この古文書なる、奇怪霊怨記を調べてみた。読んで、奥が深い本だと思った。まだ一部に過ぎないけど、呪縛封印法の部分は一応解読できたよ。」
「おおーっ。」
世里奈先輩と時雨は、歓喜を上げて拍手した。続いて、時雨が大和先輩に聞いてみた。
「この本で、正解でしたか?」
「合っていると思う。時雨、見つけてくれてありがとう。それで、呪縛封印法を話す前に、とりあえず幽霊の基礎知識から話そうと思うんだけど、どうかな?」
「そうね。先のことを考えると、幽霊の知識は、三人で共有した方がいいわね。」
「はい。お願いします。」
世里奈先輩と時雨が前向きに返したので、大和先輩は話を続けた。
「まずは、幽霊について話すよ。実は種類があって、大きく八つに分類されるんだ。」
「へえ、そうなんですねえ。」
時雨が意外そうに言った。
「ああ。危険度の低い方から言うと、守護霊、浮遊霊、地縛霊、動物霊、憑依霊、悪霊、生霊、怨霊となる。」
それからは、大和先輩がそれぞれの霊について説明し出した。
守護霊は、ほとんど無害で宿主を守ってくれる霊。
浮遊霊は、死んだことに気づかず、現世を彷徨っている霊。関わらなければ大丈夫。
地縛霊は、浮遊霊と同じだけど、固有の場所にいる霊。
動物霊は、死んだ動物の霊。ここまでの人間の霊力より強い。摂り憑かれると大変。
憑依霊は、未練を晴らすために人に憑依する霊。
悪霊は、人に悪さをする霊。通常の幽霊より強力。
生霊は、生きた人間の体から出て悪さをする霊。
怨霊は、恨みを晴らすために現世に残った凶悪な霊。最も危険。
「へえー、幽霊って言っても、霊力で分類されるみたいね。」
大和先輩が一通り話した後に、世里奈先輩が口を挟んだ。次に、時雨が質問した。
「ちなみに、幽剛はどれになるんですか?」
「多分、怨霊だと思う。」
大和先輩が答えると、世里奈先輩が愚痴った。
「それって、一番危険ってことよね。どうするの?」
「この護符は、役に立っていると思う。幽霊には、苦手なものがあるんだ。」
「苦手なもの?」
「ああ。例えば、光。太陽光は、霊力を弱める効果がある。」
「それ、聞いたことあります。」
時雨が言うと大和先輩は頷き、更に話を続けた。
「他に苦手とするものは、火や金属音、尖ったもの、塩やアルコール、お香など。石や文字には良し悪しがあり、護符は幽霊の苦手な文字を使っているんだ。」
「大和、凄いじゃない。これ、一人で調べたの?」
尊敬の眼差しでキラキラした目で見ていた世里奈先輩が言うと、大和先輩は謙遜してテレながら答えた。
「まあ、前から知っているものもあるけどね。」
「あのですね。幽馬はこれの、どれに当てはまるのですか?」
今度は、時雨が聞いてみた。すると、大和先輩は自分の考えを伝えてきた。
「幽馬は、幽体分離って言っていたよね。幽霊なのか微妙な位置なんだけど、強いて言えば、守護霊になるんじゃないかなあ。」
「守護霊かあ。なら、いい幽霊ってことですよね。」
「まあ、そうなるかな。」
大和先輩は、返事に困っていた。これを聞いて、世里奈先輩が不満そうに言った。
「幽体と霊体は、違うんじゃないの?ちゃんと調べといてよ。」
「ああ、そうだね。勉強不足で申し訳ない。調べとくよ。」
「ところで、呪縛封印法は解ったの?」
「ああ。これから、説明するよ。」
世里奈先輩に押され気味だった大和先輩は、気持ちを切り替えて話し始めた。
これより、大和先輩曰く、呪縛封印法を使って霊を封印するには、次の方法で行う必要があった。
用意する物は、丸みのある不透明の小瓶、鍵付きの金属ケース、布などの梱包材、小瓶を包む正六角形の白い布、護符。
そして、以下の手順で行う。
正六角形の白い布の頂点六ヶ所に護符を置き、結界を作る。
白い布の中央に、小瓶を置く。
小瓶の蓋を開ける。蓋は結界の外に置く。
霊力のある者が呪文を唱え、幽霊を小瓶に押し込める。
直ぐに蓋をして、閉じ込める。
小瓶に護符を貼る。
その小瓶を、梱包材の入った金属ケースに入れる。
金属ケースに鍵をかけ、護符を貼る。
その金属ケースを最初の白い布で包む。
「ここまでで、質問はない?」
大和先輩は、一通り説明して聞いた。すると、時雨と世里奈先輩がそれぞれ質問した。
「はい。呪文は分かるんですか?」
「他に、やる事は?」
大和先輩は、これに答えた。呪文は、書物に載っていたから解るとのことだった。
また、この他には、霊力を弱めるために、太陽光の代わりにLEDライト、酒の代わりにアルコール除菌スプレー、それと食塩水を持つことを提案した。
「何だか、やれそうな気がして来たわ。」
「私もです。」
世里奈先輩と時雨がやる気を出したので、大和先輩はホッと一息ついてから続けた。
「ありがとう。まずは、必要な物を準備しようと思うんだけど。」
「護符なら用意できるわよ。あと、アルコール除菌スプレーも任せて。」
「じゃあ、白い布と塩水と小瓶は、私がやります。」
「助かるよ。鍵付きの金属ケースと梱包材、LEDライト。これはやるよ。これなら、準備の方は何とかなりそうだな。」
こうして、分担して用意することになった。
しかし、問題はまだあった。時雨と世里奈先輩が、それを口にした。
「あのー、大和先輩。呪文は、誰がやるんですか?」
「これは、さすがにプロの霊媒師でないと難しいんじゃない?」
「そうだね。ただ、霊媒師にお願いしたいんだけど、幽剛がいつどこに現れるか分からないだろ。それに、お金もないし。頼むこと自体、難しいと思うんだ。」
大和先輩が困った顔で答えると、世里奈先輩も悩みながら相槌を打った。
「そうよね。霊媒師が問題よね。」
「いや、そうでもないんだ。呪文に関しては、打って付けの人がいる。」
「ホントですか。それ、誰ですか?」
時雨が早く聞きたそうに言うと、大和先輩はシラッと呟いた。
「時雨だよ。」
思わず、意表を突かれて唖然となった。そして、思いっ切り嫌そうな顔をした。先輩二人がこっちを見ていたので、自分を指して、信じられないと言った表情で聞き返した。
「えーっ、私ですか?そんなこと、できませーん。」
「この中で霊力が一番強いのは、時雨だと思う。幽馬が見えて、会話ができるんだから。世里奈もそう思うだろ?」
「そうね。大和も私も、霊力ないから。」
「確かにそうですけど…。他の幽霊は、見たことないです。」
「そんなことないと思うよ。以前、金縛りにあったって言っていたよね。あれが、幽剛なら何か感じていたはずなんだ。それに、幽馬も助けに来てくれたじゃないか。」
「ええ。ですけど…。」
時雨が自信のない声で返すと、世里奈先輩が後押ししてきた。
「私もこの三人の中で一番可能性が高いのは、時雨だと思う。皆、自信なんてないわよ。私からもお願いするわ。」
「時雨には、幽馬と言う協力者がいるじゃないか。頼むよ。」
二人の先輩にお願いされ、物怖じした。少し考えた。ここで、嫌とは言えないなと思った。それで、自信はなかったけど、仕方なく答えた。
「先輩達がそう言うなら、やってみます。」
これ、こう返さざるを得ない雰囲気だったよね。あーっ、気が重い。
「ありがとう。時雨。ところで、幽馬は協力してくれるのかな?」
「はい。幽馬は協力すると言っていましたので、大丈夫です。」
世里奈先輩も言った。
「良かった。時雨、よろしくね。」
「はい。頑張ります。」
もうやるしかないよねと諦め、自棄気味に返事をした。
完全に、任された感じになった。それでも、ようやく三人そろって笑顔が出た。時雨は、引きつった笑顔だったけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます