第7話 パーティーメンバー募集

 総大司教ザーディスとの面会を終えたセリオスとリンは、宿を取っている竜のアギト亭へと向かった。


「総大司教さまが僕らを応援してくれていることが噂になれば、たぶんもう一度仲間を集められるとは思うけど……」

「はい。それで寄ってくるのは、セリオスさまではなく総大司教を崇める者たちです」

「僕はまあ、崇めて欲しいわけではないけど、できることなら予言に惑わされないような仲間が欲しいところだね」


 かつての仲間たちであれば、予言者がなんと言おうが、セリオスに付いてきてくれただろう。彼らとは勇者になる以前の冒険者時代からの付き合いだった。実に気の良い奴らで彼らとならばどんな苦難でも乗り越えられると信じ切っていたほどだ。

 裏切った戦士ゴウにしても歳の離れた友人だと信じていた。

 いや、今でも彼のことは友人だと思っている。しでかしたことは絶対に赦せないが、それでも憎みきることはできなかった。

 もしセリオスが勇者になどならずに冒険者としての戦いを続けていたならば、彼は今でも背中を守る頼もしい相棒だったかもしれない。

 それを思うと切なくもなるが、セリオスには選べない道だった。


(ロイド……それにルナ。やはり僕は君たちをあきらめきれない)


 セリオスは自分が世界のために戦う立派な勇者などではなく、自分の大切なものを取り戻そうとしているだけの利己的な戦士だと自覚している。それでも、それを為し遂げた暁には魔王を倒して世界も救ってみせると自分に言い聞かせていた。

 その大望を果たすためには、やはり信頼の置ける頼れる仲間が必要だ。


「正直望み薄だとは思うけど、誰か来ていないか、マスターに訊いてみるとしよう」


 なるべく気楽に聞こえるようにつぶやくと、リンは弱々しいながらも笑みを浮かべてくれた。

 今はまだ総大司教に会ったばかりだから、もしこの時点で募集に応じてくれる者が来ていたならば、それは予言を気にしない者のはずだ。

 すっかりお馴染みとなった看板の前まで来ると、ふたりは扉を開けて店内へと足を踏み入れた。

 セリオスの姿を見るなり、食事を摂っていた冒険者たちが気まずそうに顔を背ける。

 やはり彼らはまだ何も知らないようだ。

 気にすることなくカウンターに近づいて、セリオスは気の良いマスターに訊ねた。


「誰か、募集に応じてくれる人はいなかったかな?」

「…………」


 マスターはしばし不自然に間を開けた。


「いや……」


 否定の言葉に落胆するが、そんなセリオスの前でマスターの口元が歪み――次の瞬間、なぜか噴き出した。どうやら笑いを堪えていたらしい。

 セリオスとリンが唖然としていると、マスターは腹を抱えてひとしきり笑ったあと掲示板を指差した。


「と、とりあえず、そこのビラを読んでくれ」


 何がそれほどおかしいのか、マスターはまだ笑いを堪えている。

 訝しみつつも掲示板まで歩いたセリオスは、そこにあるビラを見て、しばしポカンと口を開けたあとで、マスターと同じように笑い始めた。


「はははははははははっ! まさか、こんなことがあるなんて!」


 大きな声を出したため、周囲の注目を浴びるが、そんなことは気にならない。

 一方、リンは思いっきりむくれている。


「イタズラですよ、こんなの! バカにしています!」

「いや、そうとは言い切れないじゃないか。少なくとも、これから来る奴と組むよりは面白そうだ」

「お、面白そうって……」


 不謹慎と言いたげなリンだったが、セリオスは久しぶりに愉快な気持ちになっていた。

 そのビラにはこう書かれていたのだ。


〝パーティーメンバー募集

 やる気のある勇者と聖女一名ずつ〟


 なるほど、これはこの国に勇者が誕生してから初めての珍事だ。普通、勇者が仲間を募集することはあっても、その逆はない。これを書いた者はたいへんなユーモアの持ち主だろう。


「マスター、これを貼った人は?」

「おう。奥にいるあの嬢ちゃんだ」


 マスターが指差す方向で銀髪の少女が大きく手を振っているのが見える。


「やっぱり、イタズラですよ。冒険者にも見えないじゃないですか」


 決めつけるリンだったが、マスターはこれをやんわりと否定した。


「いや、あいつらは間違いなく強いぜ。少なくとも、今いる他の客とは桁が違うはずだ」


 ここのマスターは相手の力量を一目で見定めることを得意としている。それができなければ依頼を受けに来る冒険者に、実力に見合わぬ仕事を斡旋することになりかねない。実際、威勢が良いばかりのひよっ子が、背伸びをして危険なモンスターの討伐を引き受けようとするのはよくあることだ。

 もっとも、他の冒険者の店のマスターは、そんなことは自己責任とばかりに、平然と半人前を死地に送り込んでいるらしい。

 リンもそのことはじゅうぶんに理解しているのでマスターの言葉を疑うことなく、やや不思議そうに相手の娘たちを眺めていた。

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