自然の揺らぎ〜魔力とは何か〜

千夢来人

1話 魔物再び

「ヴィンセントさん、ちょっといいか?」

 ドアを勢いよく開けて、レコルさんの声が聞こえてきた。振り向くとレコルさんの腕からは血が流れていた。

 先生はガタっと椅子から立ち上がった。

「オル、包帯をお願いします」 

 先生は少し慌てた様子で、レコルさんの方に近寄っていく。

「どうしたんですか?」

「包帯は自前であるから大丈夫だ。少し椅子を貸してもらえるか?」

「えぇ、どうぞ」

 先生に促されてレコルさんは椅子にどかっと座り、包帯をリュックから取り出した。

「村の外に見慣れない動物?魔物?みたいなのがいたんだ」 

 先生もレコルさんの対面に座る。僕も先生の横に座り直した。

「そいつが、俺とスクさんを見るなり、襲いかかってきたんだ」

 レコルさんは慣れた手つきで、自分で包帯を巻いていく。

「それで私に退治してほしいと?」

 レコルさんは首を振った。

「いや。そいつは俺達で片付けたんだけどな」

 見慣れない生き物を倒すなんて、さすがレコルさんとスクさんだ。伊達に長年ハンターをやっていない。

「見慣れないやつだったからどうすればいいかヴィンセントさんの意見も聞きたいと思ってな。グルッセルの件もあるからな」

 グルッセル、二ヶ月前、突然村の近くに現れた魔物だった。僕はあの時、死にそうになったんだよな。

「ちなみにスクはこの件を村長に伝えに行っている」

「話は分かりました。遺体はどうしました?」

 レコルさんは少し言いにくそうに、目線をずらした。

「そのままにしとくのも危険だから、手持ちの袋に入れて扉の外に置いている」

 先生はすっと立って、扉に向かった。

「流石ですね。魔物だったら動物より感覚が鋭いので、血の匂いで仲間が寄ってくる可能性があるんですよ」

 先生は扉を開けて、壁の後ろに袋を見つけたようだ。

「これですね」

 先生が座って袋を開けたようで、血の独特の匂いが漂ってくる。

「これはホーンラビットですね。強くないですが魔物です」

 包帯を巻き終えたレコルさんが、先生に近寄った。

「危険なやつなのか?」

「数匹だとそんなに厄介ではないのですが、この種は群れで行動するので、群れが近くにある場合は少々厄介ですね」

 血の匂いが収まった、先生が袋を閉めたのだろう。

「分かりました。私も村長のところに向かいましょう」

 先生は立ち上がると、足早に何か用意をする。

「ありがたい」

 先生は机でさっと書いて、僕に渡した。

「オル、これをセイヤの所に今から届けてくれませんか?」

 僕はメモを受け取って頷いた。

「分かりました。セイヤ兄ちゃんに渡せばいいんですね。その後はどうすればいいですか?」

 先生は優しい表情を浮かべた。

「そんなに慌てなくて大丈夫。詳しい話は明日になるだろうから、そのまま帰ってください」

 少し拍子抜けしてしまった。

「それと人に会っても無駄に心配させたくないので、まだ言わないように」

 先生は人差し指を、口元にあてた。

「戸締まりは頼みましたよ。では行きましょう」

 二人は村長の家に薄明かりの中歩いていった。僕は言われた通り戸締まりをすませて村の門に向かった。

 もうみんな火を消して就寝している時間だ。昼間とは違い、静かな時間が流れている。

 時折、冷たい風が頬に当たる。

「夜は少し寒くなってきたな」

 昼間に家の仕事をしている時は、まだ汗ばむのに夜になると冷たい風が頬を撫でる。そろそろ季節も変わる頃なのだろう。

夜道を歩いていると少し明るく光っている所が見えてきた。近づくと、槍を持ったセイヤ兄ちゃんが近づいてきた。

「オル、ヴィンセントさんの使いか?」

 セイヤ兄ちゃんは少し力が入っている様子で、緊張しているみたいだ。

「そうだけど、なんで分かったの?」

「さっきレコルさんがヴィンセントさんの所に行くって、言ってたからね」

「なるほど、これ先生から」

 僕は先生の手紙を兄ちゃんに渡した。読んだ兄ちゃんは少しホッとした様子になった。

「どうしたの?」

「あぁ、いやレコルさんが険しい表情だったからね。気を引き締めてたんだけど、いつも通りでいいよって内容」

 兄ちゃんは手紙をポケットに入れる。

「オルも夜遅いのにありがとう」

 兄ちゃんは村の入口の方に向かっていった。僕もまっすぐ帰ることにした。

 次の日、普段は家の畑の手伝いをして昼前に先生の所に行くが、僕は朝から先生の所に向かった。

「あ、オルだ〜」

 先生の家の近くで聞き覚えのある声が聞こえてきたので振り向いた。

「おはよ〜」

「ディミおはよう。おじさんもおはよう」

 ディミの隣には、目が少し細めのディミの父親も立っていた。

「オル、ヴィンセントさんに朝から来るように言われたけど、なにか知ってるかい?」

 ディミたち親子が呼ばれたのは昨日の件だろう。ディミ親子は薬師ということもあって森に詳しい。レコルさんとは違った森の事を聞くために呼んだのだろう。

「僕の口からは、言えないことです」

 先生からの口止めもあって魔物の事は話せない。しかしおじさんは何かを感じ取ってくれたらしい。

「ふむ。分かった。そしたらヴィンセントさんに直接聞くとしよう」

 僕達は足早に先生宅に向かった。

 先生の家に着くとハンターのレコルさんとスクさん、あとは先生に剣術を習っている四人がいた。

「遅れましたか?」

「いえ、今から説明するところです」

 先生が席に座るように促した。先生は昨日ハンター二人が遭遇した魔物の事を話した。

 魔物の名前はホーンラビット、見た目は白いうさぎに角が生えた魔物で、夜行性で夜目がきき奇襲を得意としているとの事だった。そこまで聞いてスクさんは頷いた。

「あぁね、だから昨日襲って来たのか」

「おそらくそうでしょう。だたホーンラビットは逆に奇襲をされると弱いんです。あと一つ質問です」

 先生は机の上に地図を広げた。地図の真ん中にはこの村の名前リッセルと書かれていて西の先には川、北と南には森、東には街道、分かりやすく書いてある。これは先生が書いた簡易的な地図だ。

「ハープリスさん親子に最近森で違和感があったか聞きたいんです」

「そういうことですか。分かりました」

 おじさんは腕を組んでしばらく考えて、地図上で何箇所か指を指した。

「指をさした場所で木の根っこ辺りに爪のあとっぽいのを最近見るようになりました。ディミはどこかあるかい?」

「あぁ〜。だいたい父さんと一緒だけど、こことここ変な草の食べ方してあったんだよね」

 ディミがさらに指さした

「この周辺になにかあるのですか?」

 おじさんは頷いた。

「私達が管理している薬草の群生地が近くにあるんです。ここにも薬草が生えているんですよ」

 おじさんは地図に指を指した。先生が顎を軽く掴んで考える。

「なるほどホーンラビットは薬草も好んで食べますからね。二人が遭遇したのもここ周辺ですか」

 レコルさんが指を指した。

「俺達が遭遇したのはここより少し街道側だね」

「分かりました。そしたら今から退治しに行きましょう」

 その場にいた全員が先生の顔を見た。先生は澄ました表情をしている。

「あなた達なら大丈夫ですよ。それにメインは私とオルで片付けますから」

「せ、先生!」

 僕は先生の顔を見る。先生は不思議そうに僕を見る。

「どうしました?」

「僕で大丈夫なんですか?」

 火の剣を作れるようになって二ヶ月、訓練はしているものの実戦は初めて使った時の一回だけだ。

「大丈夫ですからお願いします」

 当たり前のごとく先生は言った。

「では説明します」

 先生はレコルさんとスクさんにそれぞれ生徒二人を付けて、目的の場所を挟み込むように指示をした。僕は先生と一緒に中心に向かって奇襲をかける手筈だという。僕達は準備も手短に済まし昼前には森に向かった。

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