第35話 背後にいる者
「ち、違う! 嘘じゃない! レジスタンスのガデナって奴から頼まれたんだ! 信じてくれ。お願いだから、家族とニャッチュには手を出さないでくれ!」
キリトとエルンの話を聞いて、シニャクが叫んだ。ニャッチュとは恋人だろうか。キリトが笑いながら答える。
「君が嘘をついていないことは分かっているよ。だからこそ、レジスタンス以外が犯人だと言ってるんだよ」
「ど、どういうことだよ?」
シニャクが不思議そうに言った。キリトが説明する。
「だって、暗殺の依頼者が正直に素性を明かす訳がないでしょ。暗殺に失敗したらバレちゃうんだから。普通は、君が暗殺に失敗したときを想定して、素性を隠すはずだよ」
「それを隠さずに堂々とレジスタンスだと言ったということは、少なくとも犯人はレジスタンスじゃないということだよ」
そもそも、レジスタンスのニャムニャやワタルがキリトを暗殺しようとする訳がない。
おそらく暗殺の依頼者は、レジスタンスが背後にいると誤解させて、レジスタンスと軍や司政官を対立させたい者、すなわち皇帝・良識派とみて間違いないだろう。
そして、皇帝・良識派は、少なくとも暗殺を依頼した時点では、キリトとニャムニャ達との関係に気づいていないということか。
キリトはそこまでは言わずに、
「でも、いいのかい? シニャク君。このままだと、君、消されちゃうよ?」
「消される?」
シニャクが驚いた顔をして言った。キリトが真面目な顔になって言う。
「だって、君は暗殺に失敗したんだよ。君に暗殺を依頼した組織がどういうものかは分からないけど、このまま君を放っておく訳がない」
「君、口封じに殺されるよ。もしかすると、君だけじゃなく、君の大切な家族や『ニャッチュ』も危ないかも」
シニャクが慌てた顔で言った。
「ど、どうしたらいいんだよ!」
「暗殺に成功したら、どうすることになっているの?」
「今晩、大通りの酒場で会って、金を貰うことになってる」
「相手が暗殺の失敗をすでに把握しているかもしれないけど、今晩、会いに行ってみてよ」
キリトがシニャクにそう言うと、警備課長の方を振り向いて言った。
「おとり捜査をお願いできないかな。上手くいけば、背後の組織に一歩近づくことができるかもしれない。あと、私が実は死んでいるという偽情報を流すことは可能かな?」
「や、やってみます」
警備課長が驚いた顔のまま言った。
† † †
「夕方、大通りに買い物に行ったのですが、大晦日に司政官がニャミー海岸で暗殺されたのを第36区が隠蔽しているらしいって噂を聞きましたよ」
「日の入り岬から突き落とされたとか、屋台の食べ物で毒殺されたとか、色々なバリエーションがありましたけど」
その夜、公邸の応接室。ティムが皆にお茶を淹れながら言った。キリトが驚いた顔で言う。
「情報操作って、本当にできるんだね。警保局って凄いなあ」
「今の警保局の職員の多くは、旧ミャウミャウ共和国の国家警察が横滑りで異動していますが、人員不足で旧共和国軍の憲兵や諜報局職員も相当数が配置転換されたようですので、そういったプロの仕業かと」
エルンが苦笑しながら言った。エルンは、お茶を一口飲んでから思い出したようにキリトに言う。
「それにしても、警察署でのキリト様の演技にはビックリしました。迫真の演技でしたよ」
「ほんと? いやあ内心ヒヤヒヤものだったよ。最近読んだスパイ小説が役立ったよ。でも、エルンさんの演技も最高だったよ」
「お二人の名演技、是非とも見たかったです」
エルンとキリトの話を聞いて、ティムが笑いながら言った。
演技なんて、文化祭の教員の
後は結果を待つだけだ。キリト達は公邸の応接室で待機して、「その時」を待った。
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