第19話 食事会②

 キリトは、真面目な、いかにも深刻そう顔をして口を開いた。


「ニャムニャさんの言うとおり、あれはワタル君の本心じゃない。ワタル君は、本心に反してあのような発言をせざるを得ない状況にあるんだ」


「どういうことだ?」


 ニャムニャが聞いた。キリトは続ける。


「どうも良識派の上層部は、この旧ミャウミャウ共和国を内戦状態におちいらせ、帝国の南方侵攻を阻止しようと企んでいるようなんだ。それでワタル君に工作を指示してきた」


 キリトはワタルをちらりと見た。ワタルは悲しそうな表情で下を向いている。


 キリトは再びニャムニャの顔を見た。


「当然、ワタル君はそんなことをしたくない。だが、ワタル君が何もしないと、良識派はワタル君を切り捨てて更に過激な手段に出る可能性がある……」


「……ワタル君は悩んだ末、あのような発言をしたんだ。自分が工作を進めているように見せかけるためにね」


 キリトの説明を聞いて、ニャムニャは深いため息をついた。


「そういうことか……まあレジスタンスには良識派と個別に繋がっている者も多いからな」


 ニャムニャは、苦笑しながら、うつむいたままのワタルに言った。


「それにしても、水くさいぞ、ワタル! 事前に相談してくれれば上手く話を合わせられたのに」


 そう言ってニャムニャは笑った。


「ごめん、ニャムニャ……」


 顔を上げたワタルが涙目になった。ニャムニャは優しい笑顔でワタルに話しかける。


「ワタル、お前はホント真面目で優しいから、何でも背負い込んでしまうんだよなあ。辛かったな」


「ホントごめん……」


 ワタルが涙を流して謝った。ニャムニャは立ち上がってワタルの横にいくと、ハンカチを手渡し、そっと肩に手を置いた。


「それにしても、ワタルにこんな思いをさせて、ミャウミャウ共和国をまた戦禍に巻き込もうとするなんて……何が良識派だ! ジョージ理事官がいなくなった途端に酷いことを始めやがって」


 ニャムニャが怒って言った。ジョージ理事官が誰かは分からなかったが、おそらく皇帝や良識派幹部に物申せるような人だったのだろう。


「とはいえ、俺たちレジスタンスは、良識派の援助なしに活動は不可能だ。だからといって良識派の思いどおりに内戦を引き起こす訳にもいかないし……」


 そう言って席に戻ったニャムニャは、ネコが顔を洗うポーズに似た動作を何回かした。


 ニャムニャの言動を見聞きした限り、彼は信頼に足る人物だろう。人を見る目にそこまで自信がある訳ではなかったが、そう判断したキリトは、ニャムニャに話しかけた。


「それについては、良識派の思惑に乗っかりつつ、自治権獲得を目指す手があるんじゃないかと思ってるんだ」


 キリトはそう言うと、「第三の道」について話し始めた。



 † † †



「……なるほど、ミャウ族のためにはなるが、短期的には不満に感じる施策を押し進めるという訳か」


「うん。そして、その不満を内戦ではなく自治権拡大運動につなげられないかと考えてる」


「確かに、上手くいけば内戦という最悪の事態は避けられそうだな」


 ニャムニャが腕組みをしながらつぶやいた。


 キリトが苦笑しながら続ける。


「ただ、その後どうやって帝国内の厭戦えんせん感情を高めるのか。それが難問でね……」


「そこは記者や帝国情報網の配信を使えばいいんじゃないかな」


 ニャムニャがイチゴのような果物を食べながら言った。


「こっちじゃまだ新聞やテレビ放送が中心だが、帝国だと帝国情報網を使ったニュース配信や個人の情報交換が進んでるよな。あれを上手く使えばいいんじゃないか?」


 確かに、帝国は「帝国情報網」が整備されていて、個人もアクセス可能だ。


 日本のネットと違って検閲等があるのが厄介だが、上手く活用すれば帝都の世論に訴えかけることができるかもしれない。


 それに、帝国には複数の新聞社や通信社がある。こちらも日本と違って検閲等があるものの、上手く利用できるかもしれない。


 キリトは、日本にいる頃もネットやマスコミ関係には疎かったので、この世界に来てもほとんど意識していなかった。ニャムニャの言葉に、まさに目から鱗が落ちたようだ。


「ニャムニャさん、それだ! 記者や帝国情報網を上手く活用できれば、ここから帝国の世論を動かすことができるかもしれない。ありがとう!」


 キリトが大喜びする様子を見て、ニャムニャが笑った。


「ははは、そんなに大したこと言ってないけどな。まあ、俺は商売で記者と接することも多いし、レジスタンスの仲間にも記者がいるしな。必要があれば紹介するよ。帝国情報網については、俺も勉強しとくよ」


 そういうと、ニャムニャが笑顔でグラスを手に取った。


「良識派を出し抜き、ミャウ族を守りつつ、帝国の南方侵攻を阻止するには、俺も今のところ『第三の道』以外に思いつかない。苦難の道になるのは間違いないが、協力するぜ」


 ニャムニャはワタルの顔を見た。


「これでワタルの心労も少しは減るかな。内戦に向けた工作のフリについては、俺に任せろ」


「あ、ありがとう……」


 ニャムニャの言葉を聞いて、ワタルがまた涙ぐんだ。ニャムニャが笑う。


「ほんとワタルは涙もろいなあ。さあ、涙を拭いて。第36区のトップや俺たちの苦労が分かる奴が仲間になってくれたんだ。明るい未来に乾杯しようぜ」


 そう言うと、ニャムニャはキリトの方を見てニヤッと笑った。キリトも嬉しくなって笑顔で返す。


「今日はニャムニャさんに会えて本当に良かった。これから先、皆さんには苦労をかけることが多々あるかもしれないけど、ミャウ族のため、帝国臣民のため、そして世界のために頑張りましょう! それじゃあ乾杯!」


 キリトは酔った勢いで皆にそう言うと、乾杯の音頭をとった。一同は乾杯した。

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