第7話 地方部視察
「戦災孤児かあ。やっぱり帝国を、私を恨んでるんだろうなあ」
ニャト市からニャモリ市へ移動する車中、キリトがポツリと
「少なくとも、司政官はあの子の家族に危害を加えておりません」
「まあね。でも、帝国の軍属として、第36区の施政を預かる者として、責任はあるからね」
キリトは頭の後ろで手を組んだ。
「恨まれるのは仕方ないとして、あの子をはじめとした第36区の住民のため、少しでも何か良いことができればいいんだけどなあ」
「キリト様は責任感の強い方なのですね」
エルンが優しい笑顔でキリトに言った。
「私が今までお仕えした軍司令部の幹部や司政官は、占領地域の住民のことをそこまで考えてくれませんでしたよ」
「そっか。まあ単に私が気弱なだけかもしれないけどね」
「いえ、そんなことありません。戦禍から、帝国への恨みから目を背けないキリト様は決して弱い方ではありません」
エルンが真面目な顔で言った。助手席のティムも振り返って何度も
「ありがとう、何だか少し気が楽になったよ」
キリトは笑いながら2人にお礼を言った。
† † †
ニャモリ市は、ニャト市から南に車で2時間ほどの海と山に囲まれた地方都市だ。車窓の右手には美しい海岸線、左手には農園や牧場が広がっていた。
市の郊外、田園地帯のレストランに到着したキリト達は、ふくよかな三毛のニャモリ市長の案内でレストランに入った。
「司政官、わざわざニャモリ市までお越しいただき誠にありがとうございます。ささ、当市名物のゲルンバウをご堪能ください」
キリト達のテーブルに、ステーキのようなものが運ばれてきた。
ゲルンは、牛のような豚のような大きい鶏だ。帝都では、よくゲルングルンというシチューのような料理で食べていたが、この地方ではステーキのように焼いて食べるみたいだ。
スパイスが効いたゲルンバウは、牛肉のような豚肉のような鶏肉のような……とにかく美味しい。
「とても美味しいです」
「お気に召されて何よりです」
キリトが美味しそう食べるのを見て、ニャモリ市長が喜んだ。
キリトはレストランの窓の外に広がるのどかな田園風景を見て、市長に聞いた。
「この辺りは戦争の被害はありましたか?」
「いえ、ニャト市のような北部の大都市は甚大な被害を受けたようですが、南部はほとんど被害を受けませんでした」
「もっとも、徴兵や徴発で多くの人的・物的損失はありましたし、現在は物価高に悩まされているところです。戦時補償債務も悩みの種です」
市長がため息をついた。キリトは気になる点を聞いてみることにした。
「戦時補償債務とはどのようなものなのですか?」
「戦争中、当時の政府が戦争のため調達した物品の支払や、土地・建物を収用した際の補償等の債務が残っているのですが、肝心の政府が消滅したので、我々市が代わりに債務を負担することになったのです」
「敗戦直前に当時の共和国議会・政府がそのような法律を強引に制定、施行させましてね。おかげでどの市も首が回りません。困ったもんですよ」
食事を終えた一行は、ゲルン牧場や果樹園を視察した。エルンは動植物が好きなようで、目を輝かせていた。
その後、一行はニャモリ市西部のニャミー海岸へ向かった。
「うわー、キレイですね!」
夕日の沈む遠浅の美しいニャミー海岸を見て、ティムが思わず叫んだ。
一行は海辺のレストランで海鮮料理を堪能した。キリト達以外の客は皆ミャウ族のようだ。
「これだけの景勝地ですが、観光客はあまり来ないのでしょうか」
「そうですね。ミャウ族の観光客には人気なのですが、
キリトの問いかけに、市長が魚のマリネを食べながら答えた。
「そのミャウ族の観光客数も、まだ十分には回復していません。特に北部の都市部の住民は、皆生きるのに精一杯という感じかもしれませんね」
† † †
「とても有意義な視察だったよ。諸々の調整に随行、あと長時間の運転ありがとう」
帰りの車中。キリトはエルンやティム、あと運転手にお礼を言った。
「そのように言っていただいて何よりです。第36区の各担当にもその旨伝えておきます。喜ぶと思いますよ」
「視察に同行させていただきありがとうございました。とても勉強になりました」
「恐縮です」
エルン、ティム、運転手がそれぞれ答えた。
「フィールドワークの大切さを再確認できたよ。生徒達にも話してあげたいな」
「生徒ですか? 司政官が何か教官をされたときの教え子ですか?」
「え? あ、ああ、以前ちょっとした研修をしたことがあってね。ははは」
少し疲れが出たのか、キリトは教師っぽいことを言ってしまった。
エルンに聞かれて、慌てて取り繕った。幸い、それ以上は突っ込まれなかった。
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