パーシモン もぐもぐ

うっさこ

[起] 西暦2007年 11月 その1

 ボクは、木の前に立っている。


 あそこに、実っているのは、「かき」だ。

 スーパーで売っているのを見たこともあるし、食べたこともある。


 10円で買えるチョコよりも、ずっと高い、おこずかいでは買えない、そんな「かき」が、木にたくさんに実っている。


 だれも見ていない。ボクはせのびして、手をのばす。

 けれども、しんちょうが足りなくて、「かき」に手がとどかない。


 木のえだを見つけてきた。

 ふりまわしても、「かき」にまだとどかない。


「なにをやってるの?」

 みつかってしまった。この家の、女の子だ。


 同じ学校の、同じクラスの、ほんごうさんだ。


「ねぇなにやってるの?」

 女の子がいう、その言い方は、ボクはあんまり好きじゃない。


 おおきな声をあげて、ほかの女の子たちをよんで、言いふらす、すごくきらいな言い方だ。

 ボクが「かき」をもらって食べようとしたことを、きっとお家の人におしえて、ボクをおこってもらうとする。


 お家の人の「かき」で、ほんごうさんの「かき」じゃないのに、そうやっておりこうなじぶんを、アピールするんだ。


 そうやって、えらいねって、ほめてもらって、「かき」を食べる。

 ボクはこわい顔でおこられて、きっと泣いてしまうんだ。


「かきが食べたいの?ねぇ、とってあげようか?」

 ほんごうさんは、ボクが思ったことは言わなかった。


 でも、ボクはしんじなかった。


「しんちょうがのびるように、がんばってるだけ!」

 そうやって木にだきついた。ごまかせたかな?


 ほんごうさんは、ボクを見てる。


「ねぇなにやってるの?」

 ごまかせてなかった。なにかウソを考えないといけない。


「こうやって、木にくっついてからだをのばせば、しんちょうがのびるんだよ。」

 こんどは、ごまかせたと思う。


「そうなんだ。ねぇ、やってみてもいい?」

 うん。ごまかせた。


 ほんごうさんはクラスでも小さい方だから、しんちょうがのびる話なら、なんでもしんじるんだって、しってる。

 給食のとき、牛にゅうをいっしょうけんめいのんでるのも、せがのびてほしいからだって、言ってたのをきいたことがあった。


「たくさん手をのばせば、それだけ、しんちょうのびるかな?」

 ボクのとなりで、木にだきついたほんごうさんは、そうやってボクにきいてきた。

 そんなのウソなんだから、わかるはずがない。


 ボクは、ほんごうさんが、うでだけ長くのびたすがたを考える。


「うでがね、2メートルくらいになるよ。」

 そういうと、ほんごうさんは、かおを赤くして、おこった。


「かきをとって食べようとしてたって、おばあちゃんに言ってくるね!」

 ウソだったこともバレたし、ボクはぜったいぜつめいだった。


「まってよ!ごめん!まってよ!」

 ボクはひっしに、ほんごうさんのじゃまをした。

 手をひっぱって、前に立ちふさがって、じゃまをした。


「おばぁーーーーちゃーーーーーん!」

 ほんごうさんは大声をだして、おとなの人をよんだ。


 きっと、ボクはおこられるんだ。こわくなって、なみだがとまらなくなった。


「まってよーーーー!まってよーーー!」

 たくさんないたけど、お父さんや、お母さんのように、まってはくれなかった。


 いつのまにか、ボクのうしろに、おとなの人がたっていた。


「コラ、まい!友達が泣いてるじゃろ!」

 おとなの人がおこったのは、ボクじゃなくて、ほんごうさんだった。


 おこられたほんごうさんは、なみだをポロポロながして、なきはじめた。


「だって、つくばくんがウソついたんだもーーん!」

 ボクもこまってしまって、目から、なみだがたくさんあふれだした。




 ボクは、ほんごうさんといっしょに、「かき」の木の下で、「かき」をもらって食べる。


 ほんごうさんのおばあちゃんは、ないてしまったボクたちのために、家の中から、「かき」をもってきてくれた。


「ウソついてごめんね。」

 ないてしまった、ほんごうさんに、ボクはあやまった。


「いいよ。」

 ほんごうさんは、そういって、「かき」を皮ごとかじった。


「かきって、皮も食べられるの?」

 ボクは、「かき」を皮ごと食べる人をはじめてみたので、おどろいてきいてみた。


「だいじょうぶだよ。ほうちょうは、あぶないからって、おばあちゃんがいってた。」

 ほんごうさんのくちもとに、「かき」の皮がついている。


 ボクも、「かき」をがぶっと、皮ごとかんでみた。


 コピーの紙みたいにかたい皮の下から、甘い「かき」の、あじがあふれてきた。


「やっぱり、「かき」が食べたかったんでしょ?」

 ほんごうさんは、ボクを見ていった。


「10円のチョコ買って、もうおこづかいがないから、「かき」がほしかった。」

 ほんごうさんに、なかれるのがいやだったから、ほんとうのことを言った。


「おばあちゃんのおてつだいすると、「かき」をもらえるんだよ!」

 ほんごうさんは、すごいことをおしえてくれた。


「おてつだいするから、また「かき」をもらいにきてもいい?」

「うんいいよ!」

 ほんごうさんは、そういって、また「かき」をかじった。

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