5月 帰省・ゴールデンウィーク編

第20話 蒼井律、帰省する

 俺の実家は今住んでいるところから電車を2回乗り換え、1時間半くらいの時間で到着する場所にある。


 都心から離れた場所なので、周りは山と田んぼしかないけど、人が多すぎないので俺は好きだ。


 お正月に帰って以来の地元は相変わらず静かだった。


 最寄駅の外でぼーっとしながら迎えを待っていると、母さんが乗る車が遠目に見えた。


 赤いワンボックスカーを見て、帰ってきたんだなという実感が湧く。


 俺が待つ目の前で車が止まり、助手席の窓が開いた。


りつ、おかえり」


「ただいま」


 助手席のドアを開けて車に乗ると、俺の視界が急に何かで覆われた。


「だーれだ」


柚葉ゆずはだろ? 隠れてたのか」


「ピンポーン! 正解でーす」


 視界が開けたので後ろを向くと、やはりそこには我が妹の柚葉がいた。


「おかえりつ!」


「ただいま。なんかテンション高くない?」


「そりゃあたった1人の兄ちゃんが帰ってきたんだから当然だよ」


「煽てても小遣いはやれないぞ? ほとんどかえでに管理してもらってるからな」


「もう尻に敷かれてるじゃん。律らしいけど」


「そういうわけで、小遣いが欲しかったら楓に頼んでもらってくれ」


「やった! 大好き!」


 柚葉のテンションが上がり、俺の上半身を激しく揺らす。


「柚葉、その辺でやめなさい。律が酔っちゃうでしょ」


「はーい」


 母さんが止めてくれたので、俺はようやく人力アトラクションから解放された。


 頭がふわふわする。



「そうそう、お父さんから聞いたけど、あんたまたバーベキューやりたいんだって?」


「うん。また前みたいにやりたいなって思って父さんに電話したんだけど、母さん嫌だった?」


「そんなことないよ。ただ、あんたがそういうこと言うなんて珍しいと思ってね。何かやりたいとか言うタイプじゃないでしょ」


「楓と話してたら懐かしくなってさ」


「そう。お父さん、喜んでたわよ。その日にすぐカズさんのとこ行って話したみたいよ」


「じゃあ、休みの間にやる感じ?」


「やるんじゃないの。詳しいことは聞いてないけど。帰ったら聞いてみるね」


 カズさんは楓のお父さんのことだ。和義かずよしだからカズさん。


 予想通り、父さんはバーベキュー復活に乗り気なようだ。それはおそらく、おじさんも同じだろう。


「ねえねえ、律と楓ちゃんって今どんな感じなの? やっぱり......あんなことやそんなこと、してたりする?」


「あんなことやそんなこと? 楓に作ってもらったご飯を一緒に食ったり、あとはこの前映画も一緒に見たよ」


「ごめん。律に聞いた柚がバカだった。全く代わりなしってことね。了解」


「え、なんか怒ってる?」


「呆れてんの」


「なんで?」


「言っても意味ないから言わなーい」


 だったら俺もこれ以上聞かなーい。


*****


 久しぶりの我が家。今はすっかりアパートに慣れてしまったけど、実家はやはり落ち着くな。


 俺の部屋もそのままの状態で残っていて、たぶん母さんが掃除してくれているおかげで埃っぽい様子もない。


 部屋に荷物を置き、家の隣へ向かうことにした。そう、楓の家だ。


 チャイムを鳴らすと、数秒後玄関の扉が開いた。


「あ、律。おかえり」


 出迎えてくれたのは楓だった。


「昨日も会ったろ。でも、ただいま」


「ふふ。それで、どうしたの?」


「おじさんいるかなって思って来たんだけど、いる?」


「お父さんならいるよ。あがってく?」


「うん」


 楓の家に入るのはかなり久しぶりだ。


 蒼井家と翠川家は家族ぐるみで仲がよく、もはや大家族のような感じになっている。


 そのためお盆やお正月なんかは一緒に祝うのだが、会場はうちでやることが通例だ。


 なので、楓の家にはそんなに上がることはないのだが、それでも入り慣れていることに変わりはない。


 目を瞑ってでも家の間取りがわかるくらいにはお邪魔している。


 楓に続いてリビングに入ると、ソファに深く腰を下ろしているおじさんと目が合った。


「ん、おお! 律じゃないか!」


「久しぶり。おじさん、元気そうだね」


「元気元気! ほれ、元気すぎてますます腹が出て来た」


 おじさんはそう言って自分に腹をポンと叩いた。


 たしかにお正月に見た時よりも太ったように見える。


 おじさん、昔は消防士らしい筋肉質な体型でカッコよかったんだけどなぁ。


「そうだ。ネクタイありがとう。楓と選んでくれたんだって?」


「うん。と言っても、俺はついてっただけだけどね。楓のセンスのおかげだよ」


「いやいや。それでも嬉しいんだよ。娘からだけじゃなく、の気持ちもこもっているからな」


 ありがたい話、おじさんは俺を息子のように可愛がってくれる。


 うちの両親も楓を娘のように可愛がっているので、もはや親が4人いるようなものだ。


「このお礼は明後日のバーベキューで返すから楽しみにしててくれ」


「やっぱりバーベキューやるんだ」


「あれ? コウさんから聞いてないのか?」


「いなかったんだよね。出かけてるみたい」


「コウさんから律がまたバーベキューをやりたいって話を聞いてな。明後日やるために準備してたんだよ」


「そうなんだ。父さんそう言うの共有しないからさ、母さん詳しい日程知らなかったよ」


「ありゃ。楓、俺はちゃんと報告してるよな?」


「昨日だったけどね。ギリギリすぎるよ」


「すまん」


 お互い似た者同士の父を持つと苦労するな、楓。それでも報告してる分、おじさんの方が一個上か。


「まあとにかく心配はいらない。道具はコウさんが用意してるし、食材は俺が用意してるからな! だっはっは!」


「楽しみにしてるよ。じゃあ、俺ばあちゃん家行ってくるからまたね」


「おう。ここはお前の家でもあるんだから、いつでも遊びにこいよ」


「わかった。ありがとう」


「待って。私も行く」


 おじさんへの挨拶を済ませ、俺は楓と一緒にばあちゃんの家に向かった。

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