第24話 できることしかできねえ、ロートル冒険者だよ
で、無事にウェストフェルトの街に帰還した。
そのままギルドへと報告に行く。
面倒だが必要なことだ。
「フェルドさん、無事でしたか!」
ディーターたちが駆け寄る。
心配はかけたか。
「おう、俺たちはこのとおり無事だぜ。ちと疲れたがな」
ジリのおかげで半分死にかけたがな。
「あなたなら倒せます」ってのも修業の一環だったんだよ。
ギリギリだったじゃねえか。
「フェルドさん、大丈夫ですか! イーナちゃんも怪我はない?」
奥のカウンターからマリアンネさんが飛び出てくる。
さすがにギルド職員は鍛えているね。
フットワークが軽いや。
「マリアンネさん、問題ない。いつものとおりだよ」
「だって、フェルドさんが危ないって……。救助隊を出そうかとマスターと相談していたところなんですから」
ディーターたちはどう説明していたんだよ……
「まあ、問題だったのはこいつらな」
「あー、マリアンネさん、こんにちはー」
俺の後ろに隠れていたラーレたちが、申し訳なさそうに顔を出す。
「ラーレさん、エラさん、アポロニアさん! アナタたちでしたか! 無事なんですね。よかった……」
涙ぐんでいる。
日頃それほど仲がよくなさそうだけどな。
結局、優しいんだよ、マリアンネさんは。
「すみません。マリアンネさん」
「いやー、ちょっと死にかけちゃった?」
エラもアポロニアも気まずそうだ。
まあ、こいつらが悪いわけじゃない。
突発で強い魔物が発生しただけ。
だが、心配をかけた。
心配してくれた人には感謝しておけってことだ。
その人たちは大変なときにきっと助けてくれる人たちだぜ。
「死にかけたんですか……。詳しく話を聞かせてくださいね」
マリアンネさんの調査なあ……
俺は苦手なんだよなあ。
逃げるか。
「じゃあ、ラーレ、お願いするわ。おらあ、疲れたから、帰る。イーナも眠そうだしな」
「フェル。イーナ、大丈夫だ」
そこは合わせろよ、イーナ!
空気読め。
お前は寝たから元気だが、しかし、俺はマリアンネさんの聞き取りに耐えられる体力は残ってねえよ。
「フェルドさんが主役なんですからねー。一緒にお話ししましょうよ♡」
ラーレが腕を絡めてくる。
こいつ、距離が近えんだよ。
反対側をエラがとる。
両側を掴まれて、逃げらんねえ。
「そうですね。ゆっくり話を聞きましょうね、フェルドさん……。マスターを呼んできます」
マリアンネさんの声が低い。
怖えよ。
「でかいガルムだあ?」
ギルドのロビー。
人数が多いってことで、ここで聴き取りしている。
魔物についてのこと、仲間が死にかけたこと。
仕事に影響があるかもってことで、興味のある冒険者も聞いている。
オープン過ぎねえか、とも思う。
が、これがこの街のやり方ってことだ。
「お前、マジックバッグ持ってるだろう。持ってきたんだろう。出せよ」
マジックバッグの件は秘密じゃねえのかよ……
ギルドがざわついてんじゃねえか。
ま、すでに結構バレてるんじゃねえかとも思う。
ディーターたちとかラーレたちもな。
ま、いいか。
「こいつだよ」
ガルムを取り出す。
いやー、デカいな。
ロビーがいっぱいだよ。
「フェルドさん、そういうのは庭でやってくださいね。すぐ庭に出し直してください!」
「おい、バルドゥルのせいで、マリアンネさんに怒られたじゃねえか!」
「ははは! そりゃ、おめえが馬鹿なだけだろうが。俺のせいじゃねえよ」
「二人とも、早くしなさい!」
……ということで、庭に移動だ。
行動は迅速に。
それが優秀な冒険者ってもんだろ?
「大きいですね。これがガルムですか。これでBランクなんですね」
ディーターたちが感心している。
森でガルムが出るような深いところまで行く冒険者は少ねえ。
他の冒険者も興味津々だ。
ま、見たことがあるのはシャノンたちか、テオたちかな。
ドミニクはソロだから、そこまでいかねえだろう。
「なわけねえだろうが、ディーター。こいつはデカすぎんだよ」
バルドゥルが一番見てきてるだろうからな。
詳しいのはこいつだよ。
「おい、バルドゥル。異常成長個体ってやつか?」
「たぶんな」
「ん? なんですかその異常成長個体っていうのは?」
ディーターが興味を示す。
「フェルド、説明しろや」
「面倒なことは俺に振るって癖、やめろよな。ま、いいや……」
異常成長個体ってのは、そのままだよ。
異常に成長した個体ってこった。
人間だって、大きさ、力の強さバラバラだ。
魔物だって同じもんだ。
一応、冒険者ギルドではその強さの目安としてランクにわけちゃあいる。
が、個体で強さは違う。
当たり前のことだよな。
だが、通常は誤差の範囲内だ。
いきなり倍に強くなるこたあねえ。
しかし、まれに同じ種族とは思えねえくらいに強い奴が出てくる。
それが異常成長個体って呼ばれるものだ。
体は大きくなり、力、魔力が高くなっている。
魔力溜まりの影響とか、食べものが過剰にある場合とか、その発生にはいくつも説がある。
が、解明されちゃいねえ。
しかし、実在する。
これとは別に上位種ってのがある。
こいつは種別が別のもんだ。
元の種族から、進化して強い種族になっているつうことだ。
別もんだな。
「このデカさなら、そうさなAランクはあんだろ」
「Aランクですか……。フェルドさんが倒した? Cランクの?」
ディーターが驚いている。
「あ、俺、レベルアップして、Bランクになったわ」
「そりゃ、これ倒せばレベル上がらあな! がははは!」
「だよな、バルドゥル!」
二人笑いあう。
「がははー!」
イーナも一緒に笑う。
「何が楽しいんですか! フェルドさん、わかっていますか! 2ランクも上の魔物に向かっていくなんて、自殺行為ですよ!」
ほら、また、マリアンネさんに怒られたじゃねえか。
バルドゥルのせいだからな!
今回は違うか?
「すみません。だが、ラーレたちが死にそうだったもんで、しょうがなく」
「それはわかります。だけど、助けに入ったフェルドさんまで……。二次被害ですよ」
それもわかるんだ。
基本はギルドに報告。
だが、その基本じゃ助けられねえ命もある。
間に合わないこともあるんだ。
そして、今回は俺に倒せる力があったし、ジリもいた。
ジリならこのガルムも倒せる。
俺が負けても、俺が死ぬこたあなかった。
最近、思い通りに生きていくためには力も必要だと思い始めている。
見せびらかす力じゃなくて、少しだけ自由に生きるため、俺が正しいと思うことをするための力だ。
俺の正しさが、正しくねえことだってあるだろうがな。
ま、そんときゃ、ジリが止めるだろうよ。
コイツも頭がかてえからな。
そういや、ジリがAランク相当の黒豹っつうことはギルドにも報告してねえ。
いつか話さなきゃなんねえっては思っているんだが、タイミングがな。
こいつもここじゃ、黒猫になってるしな。
「いいです……。フェルドさんですからね。そうしますよね。で、ラーレさん、どのようなことだったのですか?」
マリアンネさんの聴き取りはラーレたちに移る。
ラーレたちは森でゴブリン、オークの討伐をしていた。
で、オークを食べている、あのガルムと遭遇。
彼女たちもガルムを見るのは初めて。
Bランク相当の魔物と思い、相手は一匹のこともあり、自分たちパーティなら対処できると判断。
しかし、相手は異常成長個体だった。
AランクとBランクじゃ、力が全く違う。
比べりゃ、赤子と大人。
ガルムの前足でエラが簡単に飛ばさる。
ラーレの剣は通用しねえ。
アポロニアの《ストーンランス》も傷らしい傷をつけることはできなかった。
ガルムの火球をラーレが食らい、戦闘不能に。
エラはラーレ、アポロニアを守ろうとするも、左腕を切り裂かれた。
アポロニアの魔力は枯渇していた。
もう戦力はなかった。
死を覚悟していた。
そこを俺が助けたってことらしい。
「颯爽とフェルドさん登場したのよねー!」
ラーレの話をアポロニアが引き継ぐ。
ラーレは気を失っていたからな。
「フェルドさん、エラを守るようにガルムに立ちはだかったんだから。ガルムの火球を跳ね返して、で、ガルムの下に飛び込んで、剣で頭をガツンって突いたの!」
いや、火球は跳ね返してねえよ。
逸らしただけだ。
んで、楽勝な感じに話すんじゃねえよ。
ギリギリだったんだからな。
「なんでよ! 私、フェルドさんの雄姿を見たかった!」
「格好よかった」
ラーレが悔しがり、エラが頬を染める。
「私だけ見てないのっておかしいでしょう。みんなズルい!」
「しょうがないじゃないのー。ラーレは気絶してたんだから! 私、ラーレが何回も聞くから、何回も話したよ!」
「私も自分の目で見たかった!」
「最初に倒れたのが悪い!」
「アポロニアを助けたんだから、しょうがないでしょ!」
「それは感謝してるって!」
ワキャワキャしているが、まあ、いいだろう。
「おう、フェルド。こいつらの英雄じゃねえか。よかったな」
「馬鹿か、バルドゥル。おらあ、助けられたから助けただけだぜ」
「馬鹿はおめえだ、フェルド。命を助けられたなら、もう彼女たちの英雄だろうがよ。それが英雄ってもんだ」
うっせえよ、バルドゥル。
俺はそんな高等なもんじゃねえ。
できることしかできねえ、ロートル冒険者だよ。
「確かラーレたちは怪我をしたはずだよなあ。で、治したのはイーナか?」
「……ああ、それはな」
「女神様。メルフェイーナ様の奇跡です」
エラが両手を前で合わせて祈りのポーズをとる。
ナイスだエラ!
で、嘘も言ってねえ。
バルドゥル、マリアンネさんはわかってるんだろうな。
他の冒険者たちには、まだイーナが聖女だって公表するのは早えだろう。
「そうですね。あの森はメルフェイーナ様の森。女神様の寵愛が届くこともあるでしょう」
マリアンネさんがフォローしてくれる。
ラーレたちを知っている冒険者たちが「治って、良かった」、「女神様に感謝だな」と言っている。
まあ、こんなところか。
あとはバルドゥルによるガルムの特徴と、その脅威の説明。
森の不安定化についての説明があった。
半分以上、マリアンネさんが話していたがな……
「フェルドさん、大丈夫ですか! 怪我は、怪我はどうなんですか!」
ここにきて、シャノンたちの乱入だ。
せっかく、納まってきたところなのによう……
で、シャノンはラーレたちをかき分けて、俺の傍に来て、ペタペタ体を触る。
「どこもお怪我はないようですね!」
「怪我したのは俺じゃねえよ、ラーレたちだよ」
「ラーレ? ああ、一角獣の」
シャノンはラーレたちを一瞥する。
ラーレたちは緊張だな。
シャノンたち『清廉なる赤い薔薇』はここのトップ冒険者だ。
憧れの存在だろう。
「大丈夫なようですね。あなたたち、無茶をしてフェルドさんに迷惑かけないように」
「は、はい!」
「ごめんなさい」
「すみません」
おう、ラーレたちも素直だな……
「だけど」
「でも」
「ですが」
ん?
「負けませんからね」
「私が一番かわいい」
「……釣り合う女性になります」
何の話だよ……
シャノンたちは一瞬沈黙。
で、笑う。
「いいでしょう」
「僕の方が可愛いと思う」
マリオンだけはこの話に興味はないようだ。
「まあ、頑張れや、フェルド」
バルドゥルに背中を叩かれる。
痛えんだって、馬鹿力が!
『フェルドは女難の相がでているようですね。女神様から見捨てられないように気を付けなさい。あと後ろから刺されないように……』
怖えよ、ジリ。
なんで俺が刺されなきゃならねえんだよ。
俺だって、俺なりに頑張ってんだからな。
少しは優しくしろや。
『そこは認めています』
そうですか……
それならいいです。
そういえば……
《迅突》が《迅突・無型》というスキルになったんだが、どういうことだ?
「知らねえか、ジリ?」
『私は見たことありませんよ。あなた、変な成長してますよね。あなたがおかしいのでしょう』
おかしかねえよ!
で、変な成長、か……
ま、いいか。
便利になったんだから、問題ねえ。
あー、とりあえず、休みてえな。
おらあ、とうぶん、何にもする気にならねえぞ!
働き過ぎだ、こんちきしょう!
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