第30話 酒湖攻防戦

 着陸するはずの飛行場が穴だらけで、負傷している者や魔力の残りが少ない騎体を取りあえず別の平地に着陸させて、急遽そちらに整備兵や救護兵を向かわせることにする。

「穴埋め終わりました」

 工兵の頑張りにより、埋め戻したのもつかの間、第2派が来襲し再び穴だらけになってしまった。

「はぁ、またやり直しかぁ」

 工兵の嘆きが耳に痛い。

 爆撃騎は郊外に退避させ、戦闘騎で魔力がまだ残っておりどうにか戦えるものは、直掩騎とともに迎撃するよう指示を出し、魔力の足りないものは外れに着陸するようにこれまた指示を出す。

 Hu37のサイレンの音が鳴り響く。

 椿が上を見ると、少し先の1式魔動歩兵に向けてまさにダイブを開始したところだ。

「危ない!」

 とっさに地面に伏せ、手で頭を防御すると爆弾を切り離した音が響く。

「来る」

 ドォン

 爆発音とともに地響きを感じて顔を上げると、魔動歩兵の右肩から頭にかけて吹っ飛び、しばらくすると魔石が引火して炎を噴き上げ始めた。

「誰か載っているの?」

 椿は騎体に駆け寄るも、炎の周りが早くとても近寄れない。

 後から聞いた話によると、整備中で誰も乗っていなかったとの事で、その事に関しては安堵することができた。

 対空魔銃により、敵の1騎が血を流しながら地面に激突し、砂埃が舞い上がる。

 激しい魔銃の応砲が終わると、第2派の味方騎が帰ってきて、先ほど使った平地に案内し着陸させるも、直掩の着陸と合わさりお祭り騒ぎになった。

 時刻は15時を回っている。

「直掩隊、出ます!」

 かなり疲労がたまっているであろう戦闘騎隊だが、元気なものを見繕い再び空に舞い上がらせて、敵の襲撃を警戒する。

「すわ、敵か!?」

 みな朝からの戦闘で疲労困憊しており、西から飛んで来たというだけで敵と勘違いをしたが、実際は第3派の味方が戻ってきただけで、みな胸を撫でおろした。

 そのころになると、飛行場の埋め立ては終了しており、続々と飛行場へと着陸してゆく。

 着陸すると布などをかけて偽装を施し、空からは見えないようにして布の下で整備を始める。

 基地との距離が関係しているのか、第3派が襲撃することなく日が暮れていった。

 その沈む夕日に照らされ、キラキラと地上の一角が輝いている風に見える。

「おい、なんだあれは」

 見張りの兵は胸の前に垂らした双眼鏡を掴みとって目にあてる。

 光っている方をしばらく見ていると、砂煙が舞い上がっている。

「敵襲ぅぅぅーーーー」

 その知らせは瞬く間に全体へと広がり、寝ていたものを叩き起こし、寝てはいなくともリラックスしていたものを引き起こして配置につかせた。

「椿は双眼鏡を目に当てると、砂煙の方へ体を向けて凝視した。

(魔動歩兵だ!)

 遠いながらもこちらに向かってくる1体を捉えた。

「次こそは負けない!」

 椿の目に炎が宿った。

 刻一刻と時間は過ぎて行き、夕焼けはすでに無く、月は天空に上らんと早足で駆けている。

「トロイヤの神話では、月の女神の車輪が月だったような記憶が……」

 頭に浮かんだ言葉を意味なしに吐き出した。

 椿はもし勝てるなら、その異国の神に祈りたいほど追い詰められ、また疲れ、悩んでいた。

 ドゴン

 敵の先頭集団にいる魔動歩兵の片足が吹っ飛び倒れ込む。地雷を踏んだのだ。

「敵、射程圏内侵入、打ち方、始めー!」

 掛け声とともに第6師団の魔砲という魔砲から火ぶたが切って落とされる。

 ちょうど地雷原の端が有効射程距離の限度となっており、そこで爆発したという事は射程圏内に入ったということを意味していた。

 そこらじゅうで、地雷を踏んで爆発した光がピカッピカッと光ると、まず翔陽の陣地から射撃が撃ち込まれ、後プロイデンベルクの軍から翔陽軍の射撃で光った場所への射撃がはじまる。

「工兵、地雷を除去せよ!」

 エルウィンの命令一下、工兵たちが走り出す。

 燃えている魔動歩兵で周囲は照らし出されて、その明りで工兵が地雷を除去しているのを見て取ると、今度は椿が動いた。

「敵工兵に地雷を除去させてはなりません! 機関魔銃隊、標準合わせ、撃てぇ」

 タカタカタカタカ

 翔陽の陣から曳光が伸びると、工兵たちはなぎ倒され、血を流してその場にうずくまる。

「何をやっている、工兵を支援せよ! 敵機関魔銃へ砲撃を集中!」

「うぁぁぁ」

 今度はプロイデンベルクの魔動歩兵の放った魔弾が着弾し、機関魔銃ごと兵が吹っ飛ぶ。

「くっ」

 プロイデンベルグ軍は、右手に見える台地を最重要拠点として第21師団を先頭に第90軽機械化師団、第10軍団、第504重魔歩隊を向かわせ、その隣にトロイヤの第21軍団、中央に第7・9師団、間に第508重魔歩隊を置き、最左翼に第15師団を置き第20軍団を隣に配置して迫ってきた。

 まず戦闘が激化したのは、台地に陣取る第5・15師団である。この台地は比較的地盤が硬く、昔町は数カ月で100mほどのこの小さな高台をまるで蟻が巣を作るように洞窟を掘り、石とコンクリートで固め、それを内部で繋いで要塞化していた。

「ファイエル」

 威勢のいい掛け声とともに、大量の魔砲が撃ち込まれるも、硬い岩盤とコンクリートに阻まれ弾が相手に届かない。

「打ち返せ!」

 各洞窟に備え付けられた魔砲が火やら氷やらの色とりどりの弾を打ち出すと、敵の頭上から雨あられのように降り注ぎ、1騎、また1騎と撃破されてゆく。

 高台の上では、1式魔歩やM4テムカセが腹ばいになり、崖の淵から顔を魔砲を覗かせた状態で敵に向け射撃をしており。その後ろでは、魔砲隊が敵の陣地をあてずっぽうで砲撃している。

 ドゴン

 プロイデンベルク軍は、射撃で工兵を援護しながら地雷を除去して少しずつ前進を続ける。

「いいか、ここは死守だ! この高台は酒湖の203高地だ!」

 昔町が絶叫に近い声で吼えた。

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