第12話 ファーストレディーエリス

 メリアン連合国

 

 首都、ジョージ

 人の背丈では推し量ることがとてもできないような建物が隙間なく並ぶ街。

 行きかう魔動車の数も比較対象にするのも憚れるほどこちらは多い。

 窓から反射する多量の光が目に射し込んで来る。

 西川はコートに身を包み足を速めた。

 こちらは翔陽より寒い。

 知り合いのツテをフル活用して捕まえた細い糸。

 約束のレストランは角を曲がってすぐそこである。

 待ち合わせ時刻10分前。

 ランチタイムにもかかわらず落ち着いた雰囲気が漂うのは、店の客層を鑑みれば納得できた。

「こんにちは、何名様で」

 相手が有色人種であろうと顔色に出さずに職に徹するところは流石といえるだろう。

「エリナ様と、ご予約を入れておりますが」

 名前を聞くと、相変わらず微笑を湛えたままで「もう既にお着きになっております」と説明すると、席に案内のために歩き始めた。

「コチラでございます」

 階段を上り、奥にある個室に案内されると、西川はいささか戸惑った。

(このような持ち合わせは無いよ)

 店員はトビラをノックして客が到着したことを知らせてくれた。

「どうぞ」

 奥から瑞々しい声が聞こえると、その声にいざなわれ中へ導かれた。

「初めまして」

「こちらこそ初めまして」

 エリナ・ロームバルト。ファーストレディー、大統領夫人である。

「本日は、お時間をお取りいただいて誠にありがとうございます」

 西川の挨拶をうけ握手のため右手を差し出す。

 西川も右手を差し出し握手を行った後、翔陽の国会議事堂前に展開する争いを端的に話した。

「翔陽では女性が蔑ろにされております。この国では女性は子供を生む機械、男性の所有物扱いです」

「秋川指令を旗印に、女性の社会進出を後押ししたいのですが、男性の嫉妬ゆえか輸送や補充を遅らせたりなど嫌がらせを受け前線は進展していない様子です」

「まず、その嫉妬と言うのは事実なのですか?」

 エリナがそう聞くと確証があるわけではないので言葉を濁す。

 エリナは静かにやさしく言葉を選んで話しかける。

「秋川指令がスチューザンの女王陛下と翔陽の皇帝陛下との経緯で司令官になった事は存じ上げております」

「また、特例装置で士官学校に入学できたことも存じ上げております」

「では」

 西川の期待を込めた言葉を受けてエリナは目の前にいる翔陽の女性の代表である西川に質問を投げかけた。

「彼女たちがデモを起こしたことは民主主義を切り開くためにはとても大切なことだと思います。しかしなぜ彼女たちは自分たちが表に出るわけでなく秋川椿と言う女性に役割を押し付けているのでしょうか」

「また、これはあくまで仮定ですが、秋川さんは則天知后やエカチェリーヌのような人権など興味なく、もっぱら今ある権力に入り込み地位を求めるだけの女性かもしれませんよ」

 それに対し西川は反論を試みる。

「確かに、その可能性は大いにあります。ありますが、則天知后やエカチェリーヌとて女性の人権が自分の権力闘争に役立つなら推進するでしょう」

「それに、このまま無理だと諦めるより少しでも可能性があるのでしたら、可能性を追求したい」

「言いたいことは分かります。この国も女性や有色人種における職業差別の取り組みなど始まったばかりですから」

(エリナ氏が個室を選んだ理由はもしかして……私が有色人種だから?)

 その心遣いはさすがと言わざるを得ないが、内心複雑な思いも感じた。

 彼女は深刻そうな面持ちで頷きながら聞いてくれてはいたが、それ以上を期待をするのは難しいと感じ始めた時、西川は魔法電信で送られてきた写真を持ってきたことを思い出した。

「この写真を見て頂けないでしょうか」

 西川は机の上を滑らせてエリナの前に写真を届ける。

「この少女たちは、なぜバンブースピアで突く練習をしているのですか?」

「プロイデンベルク軍と戦うためです」

「無謀な! 機関魔銃で近づく前に撃ち殺されてしまいますよ」

「メリアン連合国がまだ独立をしていなかった時代、紅茶に不当な関税をスチューザンからかけられたときにリットン港にそれを投げ入れ抗議をしました」

「……」

「彼らはなぜそれを投げ入れたのですか? それは自由のためではなのではありませんか? 不当なことを押し付けられない自由」

「その自由を獲得するために彼らは命を懸けたのではないのですか? 人民の人民による人民のための政治のために……」

「私たちは秋川指令を助ける。きっと出来る! だからやる、そう決めたのです! 武器の調達などは行った後考えます」

 エリナは西川の真っすぐな目を見て微笑んだ。

「そうですね、あなたたちが秋川氏を押し上げようとしていることは理解しました。出来る範囲で手助けをしましょう」

 そう言って再び握手を行った。

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