規格外ワンコ系女子、ダンジョンを好き勝手に駆け回る
花沫雪月🌸❄🌒
第1話 規格外ワンコ系女子、ポチ
世界征服。文明改竄。資源独占。
アタシが本気を出せばできそうなこと。
もし、そんなすっごい力があったらさ。
あなたは何がしたい?
アタシはさ、別に何にもしたくない。
特別なことはな~んにも。
アタシは目立ちたくないし面倒くさがりだ。
アタシはポチ。真っ当な人間じゃない。
というかたぶん人間ですらない。
一応の認識している性別は雌。
見た目は~黒髪ロングに蒼い瞳。日本人とフランス人のハーフっぽい感じ。身長は150cmそこそこの痩せ型。まぁ今んとこはそんな感じ。
ある日隕石にのってやってきた地球外生命体……ソイツから取り出された遺伝子とか地球のありとあらゆる生命を掛け合わせて作られた合成生物の実験体で、当然の如く実験施設を壊滅させて、それ以来どっかの秘密組織に追われまくってる。それがアタシ。
ゴメン、嘘。
今のはぜーんぶデタラメ。
テキトウに設定ごちゃ混ぜちゃった。
実際のとこは何にもわからないんだよね。
アタシは気づいたらアタシだった。
いつの間にか生まれてて、いつの間にかアタシだった。
ま、でもたぶん映画で見る感じそういう作られた化物系なんじゃないかなとは思ってる。
だってアタシはあまりにもデタラメな力を持っている。
体重の何万倍も重たい物を持ち上げられるし、音速の何百倍ものスピードで動けるし、空だって飛べる。
歳もとらないし、身体だって隕石にぶつかっても傷ひとつつかないくらい頑丈。経験あるしね。
透明になれる、透視できる、遠くの音を聞き分けられる地獄耳、物体をすり抜けられる、大きくなれる、小さくなれる、見た目を変えられる、動物になれる……あぁもうとにかくいっぱいあってなえとせとら。
や、最初はここまで出来なかったんだけど映画のキャラの真似をやってみたら出来るようになったみたいな、ね。
じゃあその力で何をしてきたか? っていうと別に何にも。
少なくとも世の為人の為、認知されるようなことはしたことはない。したくもない。
きまぐれに人助けしたり悪事を働いたりはしてきたけどね。
アタシは今、ニッポンのトーキョーにいる。
理由? ご飯が美味しいし、娯楽に溢れてるから。
好きな時に映画が見れて、スナックも手に入る。
これ以上に大事なことってないでしょ?
厄介なことも少しあるかな。
アタシには戸籍がない、シャカイホショウバンゴウもない、ここニッポンで公にアタシという存在を証明してくれるものが一切ない。
今、ここに、たしかにいるアタシよりも紙切れとか電子データの方が信頼されるなんて狂ってるよね。
ま、狂ってるのはアタシなんだけど。
そもそも歳を取らないってだけでマトモな人付き合いは絶望的。見た目を変えられるっていっても知り合い作って付き合いの長さで適度に老けるとか面倒にもほどがあるでしょ?
結局どっかでバレるし、やれ魔女だとか何だとかで追っかけ回されるのはもうコリゴリ……!
そういうわけでマトモな生活はとっくに諦めている。
ずっと前にギャングだかマフィアだか893だかからスーツケースでかっぱらった大金をすり潰しながら自堕落に生きている。
年がら年中映画見て安酒を飲んでパートナーとイチャイチャ三昧。あ、ドラッグはやらないよ。コンビニに売ってないし。どこで売ってるんだろうね? 調べる気もないけど。
幸いなことに、今のアタシにはアタシのへンテコっぷりを気にしないパートナーがいる。ヨウっていう自称19歳の女の子だ。何年か前に夜道で襲われそうなところを助けて上げて、それからずっと一緒にいる。
ヨウも相当にヘンテコな子だ。
黒髪黒目の典型的和美人さんで、ちょっとツリ目でいつも気だるげ。
肋が浮くくらい痩せ型で今にも壊れそうなお人形さんみたいな子。
頭はかなり良いのにガッコウにいってるわけでもない。
身体を売って安アパートで暮らしてた。
アタシと共通してるのは映画好きってこと。
出会ったのもナイトシアターの帰りだったし。
ちなみにポチって名前はヨウがつけてくれた。
名前が無いのが不便だから昔飼ってた犬の名前をつけるのは正直どうかと思うけど、まぁそれがヨウって子だし名前自体は凄く気に入ってる。
現在……というか外出してない時のアタシとヨウは、ヨウのアパートでヨウのノートパソコンからB級映画を垂れ流してゴロゴロしている。
部屋にいるときはお互いにろくに服も着けずだいたい下着1枚。それすら無いこともよくある。
ポップコーンを入れたお皿が枕元に置いてあって、空いたビールとかチューハイの缶が転がっている。
映画を見ながらバカ笑いして、思い出したように口づけあって、気が向いたらそのまま抱き合って気持ち良くなる。
外出っていうかデートもだいたい映画館。
おめかしして、高いご飯食べて映画見て、ホテルのスイートで一晩過ごして、また映画館。それを飽きるまで。
何の生産性もない最高に最低な生活。
それが堪らなく楽しい。
でも、まぁ、そんな生活していたらやっぱりどこかで限界が来るのは分かりきっていたことで。
とにかくいつも通りゴロゴロしているとヨウがふわっとした感じで切り出してきた。
「ねえポチ~。いい知らせと悪い知らせ、どっちから聞きたいかしら?」
「んー、いい知らせ」
「そっち派かぁ……いい知らせはぁ……ワスカバジ監督の新作が出るわ!」
「アハハ、クソ映画確定っ」
「あと駅前のZシアターでエド・ウッド作品の上映会があることかな」
「行きたいの?」
「絶対嫌」
「いい知らせがこれって……悪い知らせはどんだけ酷いの~?」
「聞いて頭破裂させないでね?」
「もったいぶらなくていいから」
「お金、失くなりそう」
「……え、頭痛い。爆発しそう」
ヨウがペタペタ裸足で押入れから引っ張りだしてきた、古ぼけた年代モノのスーツケース。
アタシがアメリカで奪ったやつだ。
その中にはもはや数枚の100ドル札しかなかった。
そうなると紙幣に描かれたベンジャミン・フランクリンの肖像もどこか哀愁を帯びたように見えてくる。
「何でこんなに失くなってるの? 最低億はあった気がするんだけど」
「そりゃあまぁデタラメに使いすぎたからでしょ」
「……数十年で物価上がり過ぎだよぉ」
「いや……物価とかじゃなくて。稼がず使いたい放題してたらトランクいっぱいの夢も金も失くなるって」
「どうしよう、ヨウ。またどっかからかっぱらてくる?」
「絶対ヤメテ。21世紀のセキュリティ舐めんじゃないわよ? ポチがそれ取ってきたのって禁酒法時代でしょ」
「そんな昔じゃないと思うんだけどなぁ。でもまぁいけるって。壁抜けて銀行の金庫から取ってくる」
「甘い! 甘いわよ! ポチ! 紙幣の一枚一枚を衛星で追跡されるかもしれないじゃない!」
「いや……映画の見すぎでしょ。 だいたい警察来たって簡単に逃げられるじゃん」
「ポチはね! 私は無理! だいたい逃亡生活とか嫌よ……ゴロゴロできないし」
「確かに」
深いため息をつくとヨウは「結局ポチ頼りだけど……」とある提案をしてきた。 それは――
「ダンジョン……行ってみよっか」
§――――――――――――――――――――§
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