第3話 乙女ゲーム前夜(2)

今日は王太子の生誕七周年の祝いが行われる。

王太子の婚約者に選ばれる可能性が高いが、婚約なんか絶対に拒否してやる。

イザとなったら、使い魔『G』を大量に召喚してやる。


遂にこの日が来た。

2年前の生誕五周年の祝いで、僕は天使と出会った。

彼女は紫色の髪の可愛い幼女で、名前はレアル・フロイト。

僕の婚約者となる公爵家の令嬢だ。

父上が祝いの席で婚約を提案してくれる予定だ。

王太子の僕との婚約を拒否する令嬢は居ないだろう。


「ところでラドロフとの婚約を受け入れてくれないか」

予想通りに国王から婚約の提案をされる。

「私は宰相閣下との婚約が成立しています。よって王太子殿下との婚約は辞退させて頂きます」

此処は王太子の生誕七周年を祝うパーティー会場。

私の爆弾宣言に会場内の全ての者が驚愕の為に愕然とした表情で固まってしまった。

「宰相閣下は三十二歳だよな」

「レアル嬢は七歳の筈」

「二十五歳違いか」

「完全に親子だな」

「年の差結婚か」

「宰相閣下は少女趣味だったのか」

「ロリコンよね」

「宰相、レアル嬢との婚約が成立しているのは本当なのか」

「・・・本当です」

「何故報告をしなかった」

「申し訳ありません。レアル嬢の我儘だと思い、軽い戯れのつもりで了承しました」

「酷いです。宰相閣下、我儘ではありません。私は本気です。もし婚約を解消されたなら、修道院で生涯を終えます」

「・・・」

宰相の顔色が真っ青になった。

「戯れで婚約したのか」

「それって結婚詐欺だろう」

「見損なった」

「酷い」

「レアル嬢が可哀想だ」

「女性の敵よ」

「赦せません」

「「「「「・・・」」」」」

「・・・分かりました。婚約を結びます」

周囲の非難と視線に耐えきれず、宰相が折れた。


そんな馬鹿な事があり得るのか。

彼女が既に婚約していて、その相手が二十五歳年上の宰相だと。

絶対に納得出来ない。

「レアル嬢、貴女は王太子である僕より宰相を選ぶのか。納得出来ない。理由を述べろ」

王太子がヨコヤリを入れてきた。

「分かりました。詳しく御説明致します。私が理想とするのは包容力の有る頼れる男性です。宰相閣下はその条件を全て兼ね備えております。王太子殿下は条件を少しも満たしてはおりません。以上です。納得して頂けましたか」

「納得出来るか」

王太子が遂にキレてしまった。

「止めなさい」

「しかし母上」

「私の言葉に従わないのですか」

「・・・分かりました」

王太子は渋々引き下がった。

「レアル嬢、宰相はそなたの父親より年上の筈だ。それでも良いのか」

国王がツッコミを入れてきた。

「勿論ですよ。陛下」

私は笑顔で即答した。

国王と王太子は呆れた表情で私を見つめた。

王妃は獲物を狙う狩人のような視線で私を見つめた。

取り敢えず王太子との婚約は拒否出来たから、後は様子見かな。


(王太子との婚約を辞退するとは豪胆な令嬢だな。宰相を巻き込んだ手腕も称賛に値する)

16歳くらいの少年が獲物を狙う狩人のような鋭い視線でレアルを見つめていた。


「やはり納得出来ません」

「落ち着きなさい。レアル嬢が言っていたでしょう。理想とするのは包容力の有る頼れる男性だと。それならば包容力の有る頼れる男性になれば良いのです。そして見返してあげなさい。明日から厳しく教育し直します。覚悟しなさい」

「・・・はい」

王太子は頷いた。


「レアル嬢は一体何なんだ。公爵家の令嬢とはいえ、あの狡猾さは7歳の少女とは到底思えん」

「公爵に入れ知恵されたのではないですか」

「公爵が7歳の娘にあんな入れ知恵するとは考え難い」

「だとすると対立派閥の誰かでしょう。余り気にしない方が良いですよ」

「そうだな」


「王太子殿下がザクロ・バンカー侯爵令嬢と婚約するらしいわよ」

「そうなの」

友人のリメル・ロザリオ伯爵令嬢から王太子の婚約の噂を聞いたが、私には関係ないから生返事した。


「私は王太子殿下の婚約者候補になりました

「おめでとうございます」

噂のザクロ嬢がマウントを取りに来たが、軽く受け流した。

どうやら婚約ではなく、婚約者候補になっただけだった。

とても残念だ。

「・・・ありがとうございます」

私が平然としているのが不満のようだ。

破滅が待っているとも知らないで、呑気な令嬢よね。

(ザクロ新悪役令嬢様、御愁傷様)


「レアル嬢、我が邸宅にようこそ」

「宰相閣下、邸宅への突然の訪問を許可して頂いて、ありがとうございます。どうしても邸宅を拝見したかったのです」

「理由を聞いてもよろしいかな」

「結婚したら私の邸宅でもありますので、内部の間取りなどを確認しておこうと思ったのです」

「成る程、それなら今すぐ案内しましょう」

「はい、お願い致します」


(少なくても警備員の人数と配置は確認しよう)

レアルは宰相の邸内を案内されて、内部の間取りではなく、警備状況を確認するかの様に視線を巡らせた。

そして密かに召喚したGを邸内に放った。


「今日はありがとうございました。とても楽しかったです。まだ訪問しても宜しいですか」

「構いませんよ」

「それでは失礼致します」


「ふう、子供の相手は疲れるな」

「私は彼女の視線が少し気になります。まるで警備状況を確認するかの様でした」

「気の所為だろう。彼女は7歳の小娘だぞ」

「私には普通の7歳児の様には見えませんでした。それに得体の知れない威圧感を感じました。私達の野望の障害にならないと良いのですが」

「気にし過ぎだ。余り神経質になるな」

「・・・そうですね。神経質になり過ぎました」


(私達の野望か。どんな野望なのか気になるわね)

レアルは帰宅後に使い魔からの念話を受信していた。

宰相達の詳しい情報を知る為に使い魔を放ったのだ。


(本当に呆れるわね。まさか国家簒奪を企てているとは流石に想定外よ)

レアルは完全に呆れ果ててしまった。


(赦さない。私の母に懸想していて、国家簒奪後に父を処刑し、私の助命を条件に結婚を強要しようと企てているなんて、絶対に赦さないからな)

レアルは猛烈に激昂してしまった。

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