24日目

調査24日目:2020年11月24日


作戦活動報告1

深層恐怖によるレポート:警察官の動揺と内部情報

日付:2020年11月24日 22:00

場所:子籠村・警察署裏手の寂れた喫茶店


子籠村の警察署内で動揺が見られるという情報に基づき、若い署員の一人、村山巡査に接触を試みた。彼は予想通り、今回の事件を単なる「逃亡犯の戯言」ではなく、「村の根源的な呪い」として捉えており、上層部の対応に強い不満を抱いていた。


彼は「正義」に飢えており、俺はその渇望を利用した。水元透氏の悲劇と、警察が呪いを隠蔽するために箱を安易な場所で保管しているという事実を突きつけると、村山巡査は動揺した。

彼の供述により、以下の重要情報が入手できた。


彼の供述により、以下の重要情報が入手できた。


子守箱の保管場所: 警察署の裏手の「保管室」。警備員が外から監視しているが警備レベルは依然として高くない。


建物内の配置と警備の穴: 警備員は主に玄関口と表通りに集中している。午前3時15分の交代時に、裏手の通用口周辺の警備が手薄になる。


内部協力: 村山巡査は、自身の「正義」を信じ、作戦決行時、警察署裏手の通用口のロックを意図的に外すことに同意した。さらに、脱出ルートの確保も協力を取り付けた。


なお、古老たちの動向については、村山巡査は全く関知していなかった。古老たちの情報は、別のソースに頼る必要がある。



 ◇



作戦活動報告2

呪い殺しによるレポート:陽動部隊、決行前夜の仲間集め

日付:2020年11月24日 23:30

場所:子籠村外れの野営地


掲示板で集まった現地潜入組の中から、特に熱量が高く、身体的な行動を厭わない「愛と真実の探求者」約10名と接触した。奴らは事件の真相を暴くことに飢えており、捕まるリスクも厭わない狂信的な連中だ。


俺は奴らに、目的は「真実の探求」であり、警察から子守箱を奪還するための陽動が必要だと説明したところ、熱狂的に賛同してくれた。


作戦は、古老たちの侵入が始まる直前、あるいは同時刻に警察署の正面玄関へ突入し、大混乱を引き起こすというものだ。これにより警備の視線を裏手から正面に集中させ、本命部隊(葉月とあかり)の裏口侵入を容易にする。


奴らは単なるネット民ではなく、野営道具やカメラ機材を持つ者、無線を持つ者など、身体的な行動力に長けたメンバーだ。奴らを「愛の戦士団」と名付け、作戦詳細を共有した。これで、陽動の体制は整ったぜ。



 ◇



作戦活動報告3

真実の探求者による盗聴記録:古老たちの決行日時

記録日時: 2020年11月24日 23:00

場所:子籠村公民館


(遠くで微かに、高齢者の低い話し声と、酒を注ぐような音が記録されている)


真実の探求者:「(極めて小さな囁き)古老たちの会合を盗聴中だ。場所は村の公民館。話が始まった……」


(話し声がわずかに大きくなる。咳払いの音)


古老A:「……警察は呪いの本当の力を理解しておらん。あの箱は、警察署に置いておいてはならんのだ。水子の怨念が、再び、この村の血脈を断ってしまう」


古老B:「計画通り、丑の刻を少し過ぎた頃(午前2時過ぎ)に決行する。警備の交代が乱れる時間帯だ。参加者は、十名で良いな。若者に任せるわけにはいかん」


古老C:「絶対に、箱を村に取り戻し、我々の手で永遠に解体せねばならん。儀式の準備は整っている。箱を奪還次第、すぐに村の聖なる地へ向かう」


古老A:「よいか。箱を取り戻すことが全てだ。決して血は流すな。ただし、我々の尊厳が脅かされるなら……容赦は不要だ」


真実の探求者:「(囁き)丑の刻過ぎ、午前2時……。参加は十名。警察の注意は、確実に古老たちに向くだろう。情報、確保」


(ボイスメモ、終了)



 ◇



非公開ログ オペレーション・ラストリゾート

(秘匿チャットルーム)


葉月:「真実の探求者さん、呪い殺しさん、深層恐怖さん、お疲れ様です。作戦活動報告は全て確認しました。重要な情報ばかりです」


真実の探求者:「古老の会合の盗聴結果は重要だ。奴らは午前2時から動き出す。呪い殺し、君の突入時間は、古老の動きに合わせて変更なしでいくか?」


呪い殺し:「午前3時でいいぜ。古老が侵入を試みて警備が混乱し始めた頃を見計らう。正面でド派手にやって、裏側の視線を完全に奪う。俺たちの役目は時間稼ぎだからな」


深層恐怖:「その午前3時15分の警備交代が、裏口侵入の最大のチャンスだぞ。村山には、通用口のロック解除と、保管庫から脱出路へ続く扉の確保に集中させる。これで物理ルートは完璧だ」


葉月:「ありがとうございます。作戦決行日を、明日未明、11月25日に決定しましょう」


真実の探求者:「了解だ。葉月さんやあかりさんの体調は問題ないのか?」


葉月:「問題ありません。あかりは早く透さんを助けたい気持ちが強く焦っていましたが、今は落ち着きました」


呪い殺し:「それはよかった。彼女こそが鍵だからな。……ところで葉月さん。一つ聞きたい。焦るあかりさんを落ち着かせるのは大変だったと思う。そのためにあなたは、あかりさんとやったのか?」


葉月:「……(沈黙)」


真実の探求者:「呪い殺し氏。それはクールじゃない質問だ」


呪い殺し:「しかし、万が一これが最後になるかもしれないと思うと、気になって作戦遂行に支障をきたす恐れがある。女性に聞くことではないのだが……」


葉月:「わたしと……しました」


真実の探求者:「!?」


深層恐怖:「!?」


呪い殺し:「ということは、もう、あかりさんは清浄(せいじょう)なる者ではない?」


葉月:「いいえ、清らかなままです」


呪い殺し:「おお! 出来れば詳細を……」


葉月:「……作戦を成功したら伝えます」


深層恐怖:「!!」


呪い殺し:「!!」


真実の探求者:「士気が高まったようだな(俺も)」


葉月:「……最終確認です。作戦の目的は子守箱の奪還と、透さんを救うこと。奪還した箱は、あかりが携行します」


真実の探求者:「タイムキーパー、各作戦のタイミング指示は私がしよう。このまま古老たちを尾行する。午前2時、古老の動きをトリガーに作戦開始。呪い殺しの突入指示も私が出す。この時間軸を守るのが私の役割だ」


呪い殺し:「ああ、俺たちは午前3時の突入で、警備を正面に釘付けにする陽動を担う」


深層恐怖:「俺は内部工作と脱出支援だ。村山を動かして侵入ルートと脱出ルートを確保する。村山と行動を共にするぜ」


葉月:「私とあかりは、午前3時15分に裏口から侵入し、3時20分には箱を確保。あかりが箱に触れて携行します。呪いの箱にはあかり以外の人間が触れるわけにはいきませんから。私は何があってもあかりを守り、優先します」


葉月:「奪還成功後、私は追跡を撹乱するために、あかりと別れて逃げるつもりです。あかりは、奪還した箱と共に透さんの病院へ向かい、救済を完遂する。これが最終目標です」


真実の探求者:「了解。奪還、離脱、病院。これで全ての手順がクリアになった。成功を祈るぜ」


葉月:「信じています。オペレーション・ラストリゾートを始動します」



 ◇



橘あかりによる手記:救済への最終準備

日付:2020年11月24日 23:50


場所:山間部の隠れ家


葉月さんや皆さんの協力のおかげでおかげで私の心は落ち着いている。透さんの命が尽きる前に行動しなければならない。


葉月さんの助けを借りて、最後の準備が整った。

子守箱は本来は呪いの箱じゃない、村の子供たちを愛し、子供たちを守るためのものだった。


だけど水神への贄に捧げられた者や、寺子屋で尊厳を奪われ殺された子どもたちの哀しみが呪いの箱へと転じさせたのだ。


必要なのは、箱が見届けてきた踏みにじられた命の記憶を打ち消すことだ。葉月さんが私を毛布で包み込み、「あなたには、あなたの人生がある」と叫んだ、生きるための強い意志はそのきっかけだった。


寺子屋の大勢の子どもたちの霊、葉月さん、そして水元さん……。それぞれの愛を箱に示す。


私は、必ず、子守箱を携えて透さんの元へ行く。 そして、透さんを呪いから解放する。必ず成功させる。

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