ヲタク心9
『ふーん。じゃあ映士君は、あのコンビニの店員と仲良くなったという事か。あのハンサムお兄さんは確かに女の子から人気がありそうなのは僕も同意だよ。そんな魅力的な男と仲良くなれる関係性を持つなんて、僕には出来ない。だけど、そんな僕には彼女達がいる!僕をいつも支えてくれる彼女達がね!』
フン!と鼻息を吹き出した凌。
映士がいつも座るキャンパス内に設置されたベンチに座らながら二人で、大学のコンビニで働く店員の事を雑談程度で話していた。
映士の横にガッツポーズを決めている凌を見て、相変わらずエロゲーのキャラクターに執着している凌に懲りない奴だと呆れている。
純粋に愛しているのは良いのだが、せめて自分の内に留めておけよ…と言いたくなる。
映士にも特撮ヒーロー好きな気持ちはあるものの、凌のように正々堂々と自分の好きなものを語れる程の自信はなく、いつも凌といると尊敬を感じる。こんなにもエロゲーの服を着て大学内を彷徨く事が出来るのは凄いことだ。第三者から見たら完全に関わるのを避けるだろう。
でも映士はもう慣れた。なんなら自分が抱えている特撮ヒーローヲタクを公言出来ない自分が、唯一心を開そうな相手ではある。だからこうして平気で会話も出来るのだろう。
『映士君は、彼と仲良くなって今後関係性を更に広げていけば、君も大した男だよ』
『いや、そんな事出来る程俺はすげぇ人間じゃないよ。ただなんか仲良くなっちゃったってだけだから』
『それでもだよ。君は僕にとって尊敬出来る人間だよ。異性達からあのハンサムお兄さんは注目の的。モデルや俳優をしててもおかしくないビジュをしていると思わないか?いつも対応も丁寧でミステリアスな雰囲気を醸し出している。君が嫌っているあのtopptopで配信している子と並ぶ程だと僕は思っている。僕には到底届かない存在だよ。そんな人に君は名前を覚えて貰う程仲良くなったんだ。それは凄い事だよ。そんな君と、こうして友達関係としていられるのは、僕は嬉しい』
『お、おう。ありがとう。お前もさ、二次元の女の子ばっかりじゃなくて、たまには現実の人と友達増やせばあの店員と仲良くなれるんじゃないか?』
『ふん。君が彼女達の魅力を知らないからそういうんだよ。彼女達は幻なんかじゃない。彼女は非現実世界にしか存在しない創作物だとしても、そのキャラクター達一人一人を深く理解している。そしてその一人一人の魅力を僕は知っている。だから良いんだよ。僕はこの生き方で。世間は僕の事を変人だの、気持ち悪いだの、そういう冷たい目線でしか見ないだろう。じゃあ聞こう。何かを愛する事は悪い事かい?映士君』
『え?あ、俺?あー、、、まぁ…悪い事ではないとは思う…多分。誰も傷つけたり苦しめたりしてる訳じゃないから』
『そうでしょ?悪い事ではない筈。寧ろ誰にでも好きや事の一つや二つはあるだろうさ。それを愛していれば、その好きな事の魅力が更に知る事が出来る。それは愛した者にしかわからない。周りを無理矢理巻き込まなくても、その魅力がわかる者だけがコミュニティを作ればいい。無理に周りに合わせる必要なんてない。無理に自分の好きな事を辞める必要なんてないさ。だから今、ハートラップガーデンの魅力は僕にしか分からない。だがそれでいいんだ。全ては世界平和の為さ』
『世界平和ねぇ…でもお前の場合は平和というより現実逃避じゃないかって俺はおもうんだが…』
メガネをくいっと上げた凌。ニヤリと笑みを浮かべながらまた話を再開した。
『フン。そう言って来る人もいるさ。現実で異性と関係を持つ事がなかったからこんな惨めな人間が生まれたと周りは言うだろう』
『いやそこまで言ってないけど…』
『だけどね映士君。今の時代は多様性だよ。二次元だろうが、同性婚だろうが、年齢差婚だろうが、個人個人の愛によって成り立った。だから世界には同性婚が認められている国だってある。今では二次元キャラクターと結婚する人もいる時代だ。周りがどういう目で見ようと、本人が愛しているのならそれは現実逃避だろうと、なんだろうとその魅力やその物事を深く理解している者同士で了承を得たのなら、周りには関係ないのさ。それが平和ってやつだと僕は思う』
『まぁ、俺もその意見は否定しないな』
『そうでしょ?周りの言っている意見が全て正しいと言うのであれば、そう言っている者同士で仲良くすれば良い。そういう風潮を押し付けるのがダメだと僕は思うんだよ映士君!』
『なるほどねぇ…』
途中からよく分からない話だったが、なんとなく理解できる所もあった映士は、半分納得出来た。
確かに映士が特撮ヒーロー好きである事は悪い事ではない。今まで公言出来なかったのは、自分の周りにいた人達が全然理解もしないし、変なイメージを持たれていた事に恐れていたからかもしれない。でも特撮を愛している者同士なら、何も怖くない。例え少数だとしても、そのコミュニティ内で語り合えば、それ以外のコミュニティにとって関係のない話であり、それが自分にとっての安らぎにもなる。平和に繋がる。
だからもしかしたら凌のように、世間から理解されなくても別に気にしなくて良い。自分は自分という生き方の方が、実は社会で生きていくのにとても良い事なのではないか?と、映士はまた一つ勉強になった。
『なんかお前、そんな格好していなかったらすげぇ今かっこいい奴なのに…勿体ないな』
『ハッハッハッ。これも多様性だよ』
それは多様性という括りに押し付けて、自己中心的になっているだけでは?と、映士は問いたかった。だが、それを言うとまた長話が続きそうになると予感がしたのでやめた。
『でもお前を見ていると、なんか俺達より一歩先を進んでいるようで、俺も勉強になるよ。俺もそんなお前と友達になれたのは、なんか嬉しい』
『そう言って貰えて感慨だよ。さて、僕は行かないと行けない所がある』
『え?そうなの?次の講義か?』
『いや、それよりも大事な物さ』
そう言うとベンチから立ち上がる凌。そして癖なのか、メガネをくいっと上げる。
映士には、なんだかその立ち姿がこれから大事な任務を遂行する為に立ち上がるヒーローの後ろ姿に見えた。かっこいい…この時だけはそう思った。
『大事なもの…』
『そう…今ハートラップガーデンのキャラクター達が大活躍するコミカライズされていてそれを買いに行くんだ。しかも数量限定特典のフィギュアがセットで販売しているんだよ今!新人キャスト三人のうち誰かを選べるんだが、ミカたんのフィギュアを手に入れたいのさ!アニメードにそれが販売しているという情報をSNSで仕入れたから、早速買いに行くんだよ。フッ。ミカたんが僕を待っている。だから今日はここらでさらばだ。我が友よ』
『お、おう。またな…』
映士の方に振り向いたまま手を軽く振った凌に、そっと手を振りかえす。その後、テンションマックスで走り去る凌。
映士に彼があんなにはしゃいで走る姿は見た事がなかった。身体も細く、運動神経なんてないと思っていたが、意外にもその走りきるスピードの速さに驚いた。陸上でもやっていたのだろうか?それとも好きな事に対して全力になるとあんな風になるのか。いずれにせよ、凌は一瞬にして門を出てフィギュア特典の漫画を買いに行か姿は生き生きとしていた。
『俺ももう暇だし帰るか』
天に向かってそう呟くと、映士も門に向かって歩き出した。
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