ヲタク心5

映士は、その男の顔に見覚えがある。この男が、エクストラマンミラクラーの映画に足を運びに来ている!?そんな事ある!?と映画を観れる喜びより驚きが勝った。

 映士の横に座った人物。それは艶のあるセンターパートのイケメン男で、ピアスをつけた男。高身長の細長い脚と、こちらの視聴を邪魔にならないように手下げカバンと映画のパンフレットだろうか?それを膝の上に置いて、またこちらにすいませんと声をかけて静かに上映を待つ紳士的な振る舞いを見せた。あの大学の時にキャンパス内のコンビニで店員をしていたあの男の人だった。服装もオシャレな白タンクトップだろうか?その上に黒ジャケット姿。そして膝にダメージが入ったデニムだった。普段コンビニに入る時の格好とは違うのは勿論だが、あまりにも映士では真似できないコーデである。

 映士にとってこの顔は浮世離れをしているようだった。だから忘れる事はない。こんなイケメンがまさかエクストラマンの映画を観る!?というか、エクストラマンが好きなのか?あと、一人で観に来ている?彼女とか知り合いとかも側にいるようではない。個人で観にきたのか!しかも隣って…。

 映士は劇場内が暗くなり、その男の人の表情がにこやかであった様子が見えなくなった。

 すぐさまスクリーンに目線を向ける。だが隣に座っているこの男性が気になり意識してしまう。その為目の前で上映している広告に全く気を紛らわせられない。

 本人は自分が同じ大学に通う生徒と知っているのだろうか。知らないとしても、次大学のコンビニに通いにくい。特撮ヒーロー好きである事を周りに言いふらさない自分にとって、この状況でも気が張ってしまう。全神経に緊張が走り、姿勢が整ってしまう。もっとラフに観たいのに、脚を閉じて姿勢を真っ直ぐにして、拳を握りながら膝に乗せている。しかも手汗が止まらない。

 そして予告が始まった。だが映士には全く頭に入らない。このままではエクストラマンミラクラーが始まって落ち着いて観ることができない。

 ふと反対の席を見る映士。誰もいなかった。今から横に移動しても良いだろうか?別に座ってないし、今から座る人は現れる事も少ないだろう。

 だが今の状態から移動すると不自然に思われる。何より周りが見ているし、今予告ではあるが映像を後ろから観ている人の邪魔になる。 

 もうここでじっと観るしかない。そのうち気が晴れるだろう。そう祈るしかなかった。

 映士は、とりあえずスマートフォンを手にしていた為、急いで電源をシャットダウンにした。そしてポケットに仕舞う。

 

 『……大丈夫。今後もなんともないさ。多分…』


映士は予告の間、大きな音声に紛れて大丈夫、大丈夫、と小声で唱える。そしてゆっくり深く空気を吸って吐いてを繰り返した。

 いよいよ本編がスタートする。一瞬だけ隣の男の人を横目で見る。真っ直ぐとスクリーンを眺めている。大丈夫だろう。少しずつ平常心を取り戻した。そして本編が始まった。

 上映してから一時間経過した頃。白熱のバトルとあの強敵のダークラーが敗北した驚きで益々本編に夢中になる。もう隣の事など考えていなかった。そして最強で最悪の映画の敵がミラクラーを追い詰めていた。街は壊滅状態となり、子供の悲惨な鳴き声が響き渡り、空が次の輝きさえも消し去る程の鬱屈とした闇に覆い尽くされている。胸のタイマーが鳴り響き、もう立ち上がる事すら困難になっているミラクラー。

 人々が次々とミラクラーの現時点の姿を見て絶望し、その場で崩れ去る。

 この映画の敵は、とあるテロリストにより非人道的な科学実験が社会で秘密裏に行われており、その実験にはミラクラーが倒してきた怪獣達のDNAを元に作られている。その結果、今まで敗北した怪獣達が受けたミラクラーの必殺技は通用しないレベルとなる程の強さとなっている。更に、この実験を行っていた凶悪なテロリスト達はミラクラーの変身者の主人公を拉致し、主人公を洗脳装置に繋げて操った。そしてエクストラマンミラクラーの力で地球を滅ぼす事を目的としたとしようとしたが、敵のダークラーの変身者によってテロリスト達のアジトが見つかり壊滅させられた。その後ミラクラーは洗脳が解けると、ミラクラーの体内から怪獣が出現。今回の映画の敵が登場し、ダークラーと共に戦うがダークラーも敗北する。

 街が壊滅し、ミラクラーが崩れ倒れるその映像は正に絶望感漂う。そしてテレビ放送では出た事のない強さの敵に圧倒される。

 思わず世界観に呑まれてしまい前のめりで見る映士だった。映士は通常の劇場体験だが、これが4Dだと、おそらく街の破壊シーンに突風が吹いたり、ダークラーが敗北するシーンは雨だったので、そのシーンだと水飛沫が出てくるんだろうなと思いつつ、目の前のスクリーン映像に瞬き一つせずミラクラーを見守った。

 ちょっとポップコーンを食べすぎた為、喉が渇いたからソフトドリンクを飲もうと手探りで探す。あれ?と手を伸ばしたが、映士は置いた筈のソフトドリンクが見当たらなかった。

 

 『あれ?メロンソーダ…』


映士は反対側の座席のホルダーを見ると、そっち側に置いであったのを見つけた。映画に夢中だった為、知らぬ間に反対側に置いたらしい。そしてソフトドリンクを手に取ろうとした時に思い出してしまった。

 その反対側に置いた方には、キャンパス内のコンビニで働いている彼が座っている。気になったので彼の顔を見上げる。映士と違って冷静に映画を観ていた。こんな時でも横顔の整った顔が変わらない。どこから観てもイケメンだった。

 本人に気づかれないようにソフトドリンクを手に取る。そして一口飲むと最初に置いた座席のホルダーに置いた。これで彼の方を機にする必要はない。そしてスクリーンを集中するのであった。

 映画を観終わった映士は劇場の外に出て、急ぎ足で映画館の外に出た。

 とにかく内容は観て損はない作品だった。バトルシーンには圧巻だ。テレビ本編ではない迫力のある戦いだった。そしてストーリーのテンポの良さ。そして最強の敵にピンチになる展開が多々あったが、見事に倒した。エクストラマンミラクラーを支え続けた地球防衛チームとのコンビネーションと、映画でしか観れないミラクラー強化タイプになった時の驚きといい、とても良かった。

 それはいいのだが、問題は隣の男が自分の存在を知られる前に早くアパートに帰ろうと急いでいるのだ。


 『よし!もう俺はこのまま帰ればバレずに済む!誠にも巧谷にもバレないように!後あの人にもな』


しかし今日は一日中色々と振り回されて大変だった。だが映画は満足する内容だったから良かった。映士にとって充実した日となっていたが、このまま帰りたくはなかった。せっかく外に出たのだからどこかで時間を潰したかった。本屋に行ったり、特撮ヒーローホビーショップなり、ゲームセンターなり。だがそれは出来ない。何故なら…

 

 『後これもあるし…』


と、映士の右手に持っている袋の中身を見る。

 映画限定のクリアファイルとメモ帳。そしてメダルバッチと今回の映画に登場したエクストラマンミラクラーの強化タイプの姿をしたプチマスコット。そして映画限定Tシャツだ。これらを持っている事で遊び歩けないのだ。映士にとってこれらを持ちながら外を歩くのは嫌だった。貴重なお土産であるだから今日はこのまま帰る。そうする事に決めた。

 丁度バスが停まっているので、アパート行きのバスではないが、近くの停留所に停まるのは知っている。そのバスに乗って、アパートに一直線に帰る事にした。

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