憧れ4
いつもの見慣れたキャンパス内のベンチに腰掛けながらスマートフォンで適当な動画を視聴していた。相変わらず特撮ヒーローの動画が好きだ。
ずっと四六時中ヒーローの名シーンばかり視聴している。それ以外は見たいとは思わない。そもそも興味がなかった。
湾曲に背中を曲げ、両膝を膝について前屈みになりながら、スマートフォンを両手で抑えては、歴代サイボーグライダーの戦闘シーン、歴代エクストラマンの戦闘シーン、海外ヒーローの映画のワンシーン。とにかくヒーローに関する動画を堪能する映士。
周りには知り合いも外のベンチ近くには居ない。ラッキーな事だ。
以前、講義前に兆宇宙戦隊プラネットファイブの続きを視聴していたら横から妨害された。今回は外で一人の状態。誰も邪魔する者は居ない。
とても快適だ。この状態がしばらく続いて欲しい…と思った矢先だった。
『チョリーーッス!はいみんなチョリーーッス!みんな元気ー!』
この声は!
ベンチの横からうるさい女の子の声が。
視界を声のする方に向ける。
うわ…あいつかよ…
急いで動画を閉じた映士はその場をすぐ離れる準備をした。
スマホスタンドを隣のベンチに設置し、スマートフォンを装着して、画面の前にいる視聴者に向けて手を振っていた。
木ノ本愛唯。相変わらず自分勝手な女だ。一人でベンチを占領し、動画配信の為に利用しているなんて。
今日もド派手なブランド服に身を包んでいる。黒のフワフワ素材ブーツにラメがついた黒のミニスカート。そして黒のジャケットに金の装飾がかなり目立つ。
そしてクルクルと捻れた金髪カールの髪。お洒落なヘアピンをつけて、位置が気になるのか何度も触っている。
『今日も大学だよー!え?特定?見つからねぇってそう簡単に。アタシの事あんま舐めないで』
ここに居たら鬱陶しくて動画も見れやしない。
さっさとこの場から離れる事にする。
『全くあいつほんと周りの事全然考えないな!この前の時も偉そうに俺に突っかかってきてよ!なんで外で配信なんかしてるんだよ。周りの人が映るだろ!』
ぶつぶつと文句を吐き出す。
しかし相手はそんな事聞きもしない。配信に夢中だ。有名なインフルエンサーか何か知らないけど、全く異なる人種であり映士にとっては敵のような人物だ。
『ウチ結構金持ってる。大学生だけど。あんたらリスナーは働け働けー』
リスナーを見下した態度も近くに居て腹立たしさが増す。みんなそんなあんたに投げ銭してくれているんだろ?
topptopは無料配信サービスサイトで有名なのは知っている。何故なら特撮ヒーローに出演していた有名人も何名か利用して配信をしているのを見ていた。
このアプリは投げ銭と呼ばれる制度があり、課金等でアプリ内にコインが手に入る。そのコインを配信者にギフトという形でプレゼントする事で、配信者のレベルが上がる。そのレベルが高ければ高い程目立つのだ。聞いた話では、レベルは無限にあり、千になってフォロワーが千五百だったかな?そのくらいになれば収益が入るとか。
『ウチさぁ、悩みがあるの聞いて聞いて!』
その場を去ろうとした際、悩みというワードで一瞬足が止まった。
(悩み?あんなやつに?)
『ウチさぁ、大学でさぁ、めっちゃムカつく子いんのー。その子と同じゼミなんだけどさぁ。相手?女の子。同級生。あーあ。もうほんと嫌。退学とかしてくれないかなぁ』
映士はそれが自分ではないとわかった。ムカつく子と言われたから一瞬焦りを感じたが、その後の女の子というワードですぐ安心できた。
しかしムカつく同級生?女の子?誰だ?少なくとも自分には関わらない人種だ。女の子と関わる事など一切ない人生。それが映士の歴史である。
つまりは同じゼミナールに通っている人の誰かという事だな?
自分はもう愛唯とは違うから映士には誰なのか見当もつかない相手だ。
『名前?あー、それは控えとくわ。ってか名前すら言いたくないんだけど』
よほど嫌っているんだな。
だが映士は全くどうでも良かった為、その場を離れる事にした。
とりあえず昼休憩が終わりそうなので、三限に向かう事にする映士。
三限の講義は人が溢れる程集まる講義室なので、中では特撮ヒーローの動画なんて見れない。だから休憩中に外で見ていた訳だ。
早速後ろの方の席に座ると、リュックサックからキャンパスノートとボールペンを取り出す。
後十分くらいか。暇な時間を潰そうとスマートフォンを取り出し画面を開いた。その時だった。
『お!映士も居たの?ここ』
ビクッと身体が反応した。また誰かにスマートフォンの背景画面を見られてしまう!
だから一瞬で閉じて自分の名前を呼ぶ方に目線を向けた。
『お、おう!誠じゃん!』
話しかけて来たのは誠であり、同じ講義を受けるらしい。
『なんだよ。そんな驚く事か?』
『え?あ、いや。誠も一緒だったんだって思っただけ』
『隣いいか?』
『あー、いいよ。隣どうぞ』
映士は横の席にリュックサックを置くのが癖なのだろうか?誰も隣に居なければリュックサックを置くようにしていた。
でもこの前それが原因で愛唯に叱られた事を思い出した。
自分も人の事言えないな。自分勝手だった所あるわ。そう軽く反省した。
隣に座った誠は、ノートを取り出してシャープペンシルを指でクルクルと回して遊んでいた。
『誠もこれ受けてたなんてなぁ』
『これ簡単だろ?テストもないし、ただレポート書いたら終わりじゃん。そんで欠席五回しなけりゃ単位ゲットできるし。楽勝よ!』
『でもお前寝るだろう』
『当たり前じゃん!寝て単位取れるなら受けるよそんな講義』
誠らしいっちゃらしい。この男は楽して単位を取る事を優先する男だ。
日々食堂で美味い物食べて、講義で寝て、暇が出来たらどっか遊びに行こう。これが誠って言う男だ。だからこんなだらしない身体なんだろうなと、余計な事を考えた。
『なぁそういやさ、さっき外で愛唯が動画撮ってだけど知ってるか?』
ここでいきなりあいつの話が出てきた。勘弁してくれ…
映士にとってあいつは全くの逆の人間であり、映士の敵だ。関わりたくもないのに。
映士は誠の方に目線を逸らして、指先をモゾモゾと動かしながらそいつの話を聞く。
『あいつさ、裏で誰か有名人の男いるんじゃね?金持ちで有名だし、結構コラボしてもらってるらしいじゃん!どう思う?映士』
本当にどうでもいい話だ。だが映士はポーカーフェイスで嫌な顔を隠して、誠に意見に答えた。
『あー、いるんじゃね?居たら居たでいいじゃん別に。俺あんまあの子の事よく知らないから』
『お前興味なさすぎじゃね?相手は有名大学生インフルエンサー。しかも調かわいい同級生!女の子にも注目の的なんだぜ?同性からも異性からも魅力的に思われてるんだったら、知りたいと思わないか?』
『……そうだな。あんまり知りすぎるのも、良くないんじゃないか?表でキラキラしてても、真実は違うかもなぁ』
映士は冷静に答えた。
先程配信中に、嫌いな人物が同じ大学に居るという話も耳に挟んだ。興味のない相手にそこまで深く裏側など知ろうとも思わない。
誠は映士の意見を聞いて、納得言ったのか質問をやめた。
そして講義が始まった合図と共に、二人とも講義を受けるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます