第3話

 HRが終わり午前の授業も全て終わると、隼人に誘われて食堂に行くことになった。琉璃がいない日は隼人と綾乃と昼食を共にしている。

 二人は学校ではあまり変にいちゃつかないので安心だ。


「――でさ、登校中に先輩から声かけられたの。ほら、あのサッカー部の」

「ああ、あいつね。すぐ声かけてくるから、イヤホンして無視すんのが一番だよ」

「天音くんも気を付けなよー。可愛いんだから勘違いされるかもよ」

「そう、だね。厄介そうだし、気を付けるよ」


 今となっては勘違いでもないのだが、それはそれとして絡まれるのは好きではないので、気を付けるに越したことはないだろう。ただ、今でも勘違い――その扱いでなければいけないのが、モヤモヤする。

 決してナンパされたいわけではないが、それでも、だ。女子として扱われることすら許されない、なんとも複雑な気分だ。


「そういえばお前、一回いい寄られてたことあったよな」

「あー、あったね」

「程よく大人しそうだからひっかけやすく見えるのかもね」

「気を付けなきゃなぁ。僕、相手の押しが強いと流されちゃうし」


 今流されてしまうと、本当に大変なことになってしまうかもしれない。お茶するくらいはOKするだろうし、そのまま流れで連絡先も交換することになるだろう。それ以上は流石に断れるが。


「出掛ける時はちゃんと琉璃先輩と行くんだぞ?」

「子供じゃないんだから」


 そうは言いつつも、そういえばいつも出掛けるときは琉璃と一緒で、弟とか妹とかそんな感じだなと少し虚しくなる。そう、未だに何もかも琉璃に頼ってばかりだ。


「そう言う隼人も、ちゃんと綾乃ちゃんの事守ってあげるんだよ?」

「当たり前だ。綾乃、やたら引っ掛けられるからな。前なんて、ナンパから助けた奴がナンパ側に回ってたからな」

「そんなことあったんだ……僕も気を付けないと」

「男子なのにナンパ警戒っておもろー」

「あはは……」


 もう男子ではないので、狙われやすい天音は本気で対策を考えなければいけない。常に琉璃と行動とはいっても琉璃も女子だし、何なら芸能人だ。声を掛けられる頻度で言えば、琉璃のほうが圧倒的に多いだろう。自衛出来ればいいのだが、非力で口達者というわけでもない天音には難しい。


「面倒だなぁ」

「本当にねー」


 変なところで共感しあいながら、三人は昼食を終え教室に戻る。その前に、天音は

「昼から授業出る」と琉璃から連絡があったので、いつもの中庭に向かった。

「おー、あまっち、何も言わなくてもわかるんだー流石だー」

「何年一緒にいると思ってるの。あ、でもごめんご飯だべちゃった」

「隣で話し相手になってくれたらいいよ。んで、今日は隼人くんたちと一緒にいたの?」

「そうだよ。なんか綾乃ちゃんがナンパされて、そんで僕も気を付けろってさ」

「あはは、確かにあまっちも狙われやすそうだもんねー」

「だから琉璃姉と一緒に居ろよってさ」

「あはは、私といたほうが声かけられやすそうだけど」

「やっぱそうだよねー。あ、そうそう。綾乃ちゃんが琉璃姉にメイク教わりたいって」

「あの子も結構うまく見えるけど……全然いいよ。せっかくだし、隼人くんも呼んで四人で集まろうよ」

「それ、琉璃姉の家でもいい?」

「うん。道具も一通りあるし、何よりあまっちの家じゃ面倒そうだしね」

「あ、そのことだけど――」


 天音は琉璃の耳元で、昨日の事を話す。


「うわ、流石おばさんの洞察力だね」

「ほんと、怖いよ。それと琉璃姉と同じ事言われた」

「まあ心配なんでしょ。私も心配だもん。念のため、隼人くんたちにもバレないようにね」

「わかってる。気を付けるよ」


 ため息を吐きながら天音は答える。

 隠したくなくても隠さなければいけない、自分のしたいようにできない。その悩みも内に秘めていなければいけない。

 いつになったら解放されるのか――また、天音はため息を吐いた。

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