第45話 旅館②

 静寂のなか、仲居が現れて、先付が出された。テーブルにはお茶と日本酒が置かれていた。リーアはお酒が飲める年齢なのだろうか。とりあえずら先付を食べて見る。


「美味しいな」

「美味しい」


 しかし、美味しいが、なんか少ないな、仲居の案内通り、これが先付と呼ばれるやつだとはわかるのだが。

 先付を食べ終わると、仲居が食事を前菜からテーブルに並べていく、焼き魚と刺身はわかるが、他の料理はあまり見た事がない料理ばかりだった。どの料理も美味しそうだ。

 空気は少し重い、偉そうな方のリーアの場合はテキトーに話をすればなんとかなるのだが、通常のリーアとは最初に夢のこととか、名前がラーメンじゃないぐらいしか会話をしていない、その後は会話したのは、京都で謝れたぐらいだ。


「料理美味しそうだな」

「うん、美味しそうだね。こんなに食べれるかな?」

「分からない、今日は京都に着いてからデザートばかり食べていたからな、確かこういう感じの料理を会席料理って言うんだよな?」

「そうじゃないかな? 私はあんまり詳しくないよ?」


 料理は何種類からひとつひとつ選択ができたが、メニューを見ただけだと、俺にはなんの料理のか分からなかったので、偉そうな方のリーアに事前に選んで貰った。

 とりあえず、この中で知っている食べ物は、焼き魚と刺身ぐらいなので、食べてみることにした。

 焼き魚は今まであまり食べた事がない気がする。理由は単純に骨が多くて、骨を取るの手間で、面倒くさがる人が多く、食堂で出されることがあまり無かった。刺身は食べた事が無いかもしれない。

 恐る恐る食べてみると、


「普通に美味しいな」

「美味しい!!」


 テーブルに置いてある、日本酒を試しに飲んでみた。


「これは……」


 初めて日本酒を呑んでみたが、最初はガツンと来るが後味は水みたいに爽やかな感じがする。高い日本酒程飲みやすいという情報は知っていた。

 リーアも日本酒を呑んでいる。1口目を飲んだ時、顔を顰めたのは気の所為だろうか。

 リーアが美味しそうにご飯を食べている。その様子を見ていたら、リーアが土下座して、俺に謝っていた事を思い出した。


「そういえば、俺に謝った時に、何か言うとしていたが、俺が洗脳されてるってことを言いたかったんだな」

「うん、そうだよ……」

「洗脳って流石に終わってるよな?」

「そこら辺の事はあまり分からないけど、匂いの洗脳だとそんなに続かなそうなイメージがあるかも? ごめんね、あっちの私なら詳しく知ってるかも」

「そうか」


 今のリーアとあっちのリーアは記憶を共有してように見えるが、今のリーアは戦えなそうだし、知識とあまり無いように感じるな。


「聞きたいことがあるんだが」

「なに?」

「俺達が逃げた時になんで戦闘が得意なもうひとつの人格にならなかったんだ?」

「えーと、それは……実は支配者から制限が課せられてたの」

「制限?」

「私の身体が相手の攻撃によって傷がついた時に人格を変えても良いと言われてたから、変えることが出来なかったの」

「なるほど、な」


 逃げていた序盤の時に、1度でもリーアを傷をつけていたら、もっと楽に逃げる事が出来たのかもしれないのか。しかし、その情報を事前に知っていて、わざと傷をつけようとする者は普通にやばい奴だろうな。


「そういえば、なんか置いてある布団が1つしかないように見えるんだが?」


 リーアは寝室の方に移動した。

 

「ほ、本当だ!?」

「あっちのリーアが予約したと思うんだが、その時の記憶とか探れるのか?」

「えーとね」


 リーアは人差し指を顎に置いて、何かを考えるように目を瞑っている。


「思い出してみたけど、そんなオプションはつけた感じは無かったよ?」

「そうか……つまり、宿の方が俺達が付き合ってると勘違いして、用意したのか」

「そうかもね、でも、なんか恥ずかしいね……恋人に思われてたなんて……そういえば思い出したんだけど、夢の中で最初にラーメンだった時の松永くんと出会ったのは普通な感じの宿屋だったよね」

「確か……名前に普通という文字が入ってた気がする。俺は普通に寝て、起きたらリーアが抱きついて来たんだよな?」

「そうだったね、それが初めて顔を合わせた瞬間とはなかなかな出会いだったよね」

「その時、なんか変な事言ってなかったか?」

「え? なんか言った? 覚えないかな……」

「確か……同じ部屋に異性が居たら抱きつくでしょ!!って言ってたな」

「えぇぇ!! 私本当にそんな事言ってたかな……こっちの世界の私はそんな事言わないよ!!」


 リーアは頬を赤らめて、両手をふらふらしている。

 夢の時と見た目はあまり変わらないが、性格はなんか違う感じがするな。俺はどんな感じだっただろうか。


「それで、布団はどうするだ?」

 

 偉そうな方のリーアだったら、俺が布団を独占しても良かったが、今のリーアにそういう事を言う訳には行かないな。


「押し入れに予備の布団とか入ってないかな?」

 

 押し入れを確認すると、シーンがかけていない敷布団が1組あったが、布団と枕が無かった。


「どうするか……」

「まず、ご飯を先に食べてからにしない?」

「あ、ああ……そうだったな」


 食後のデートを食べた後、外には座ることができるソファみたいなものがあり、そこに座る事にした。


「ここの旅館、私達で最後の予約だったみたいなんだよね」

「へー、人気の旅館なんだな」

「もっと人気のところは事前に予約を数ヶ月前からやらない駄目とかあった気がするよ」

「そんな人気のところがあるのか……」


 人気の旅館は一体いくらかかるんだろか、貴族のリーアなら当日予約でも、支配者の力で無理やり入れそうだな。

 

「あっちの私が温泉に入っている時に、金髪の子と会ったみたいだよ」

「あの金髪はここの旅館に泊まっているのか? 親は見たか?」

「1人だったと思うよ?」


 流石に一人で温泉に入れる年齢だったか、そういえば、リーアは何歳なんだうか?


「そういえば、日本酒をぐびぐび飲んでいたが、飲んでも良い年齢なのか?」

「正直自分の年齢はよく分からないんだけど、旅館も入館手続きできたし、未成年ではないと思うよ?」


 顔を見てみると、日本酒の影響なのか、リーアの顔は赤い気がする。多分俺の顔を赤いだろうな。

 そもそも、リーアは人体実験を行っていた影響で自分がどれくらい生きているの曖昧だと考えると、あまり出さない方が良い話題かもしれない。

 他に聞きたいはなんだろうか、俺は確か、リーアと会う理由が会ったはずだ。

 夢、夢だ。治療中に妙にリアルな変な夢をみて、ニアも同じ夢を見ていた。同じ夢を見るなんて、普通ありえない事のはずだった。それでニアがリーアの場所を知っていて、会うことにしたんだ。確かにリーアも俺と同じ夢見ていた。2人なら偶然でいけるかもしれないが、3人同じ夢を見ていた。この瞬間俺が見た夢はただの夢ではない事が確定した。

 

「俺達は同じ夢を見たけど、もしかしたら、夢じゃないかもしれないんだ」

「えーと?」

「ほら、治療してる時、脳に刺激を」

「待って、私に言われても分からないから、別の話題でお願い?」

「分かった、えーと、これはあっちのリーアが後で教えると言われた事なんだけど、身体を触るだけで、会話ができる理由は知ってるか?」

「ごめんね、分からない……」

「そうか、あっちのリーアの時に聞いてみる。だが、身体を触るだけで会話できるのは便利だから、覚えておくのもいいと思う」

「便利だと思うけど、どうやるの?」

「俺が試して見るから、同じようにやってくれ、これは感覚の問題だから、やってみないと分からないと思う」

「了解!」


 とりあえず、リーアを触ることにする。しかし、どこを触っていいのだろうか、今まで2回成功しているが、急いでいる時に触っていたから、あまり意識していなかった。1番簡単なのは手だな。それ以外だと、顔か肩か足ぐらいだ。それなら手しかないな。

 俺はリーアの手を握った。

 柔らかく、想像以上に手が小さい、強く触ったら折れそう気すら感じる。

 リーアの手を握ったのは初めてでは無いが、こんな事を気にしている場合じゃなかったからな。

 いや、早く何か言わないと、ただ手を触っているだけになってしまう。

 あの時の感覚を思い出せ。


 『聞こえるか』


 リーアの目が丸くなっている。

 本当に初めてやったみたいだ。


 『この感覚を真似してやってみてくれ』


 しかし、リーアは俺を見つめるだけで、何も返ってこない。


 『なんか、触れた場所が口になったように、喋る感じ?』


 リーアの顔がニヤッとした気がした。


 『あら、随分楽しそうにしているじゃない』


 この喋り方は偉そうな方のリーアじゃないか?

 でも髪型はツインテールのままだな。

 いや、待てよ、そもそも、人格が変わったら、髪型が変わる訳ではなく、自分で変えているだけだから、髪型が変わろうが、実際は関係は無いはずだ。


 俺は立ち上がった。リーアも立ち上がる。手を離すと、リーアが俺に近づいてきた。俺は動揺して後ろに移動した時、自分で思っている以上に後ろに下がってしまい、池に落ちてしまった。


「ふふっ、騙されたね松永くん……あっちの私にはなってないよ」


 口元を押さえながら、ふふと笑いながら、可愛らしい笑顔で俺を見ている。その笑顔を見ていたら、池に浸かっている事を忘れてしまいそうだ。まだ、洗脳が解けてないんじゃないのか?

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