第39話 逃走②

 俺は今から秋葉原に行く必要がある。徒歩じゃあ間に合わない、


「どうしたの?」

「今から秋葉原に行く必要があるんだが、どうすれば良い?」

「ここから、秋葉原? 空が飛べたらいいんだけどね」

「夢なら【スキル作成】できたんだけど……」


 腰に付いているユニットで一時的に浮くことは可能だが、音がうるさい為、却下だ。あと残るのは……。


「行けるかもしれない」

「え? 空飛べるの?」


 空中に浮いているウィンドウを切り替え、調べ始め、画面には空を飛んでいる車の位置情報が分かるサイトを表示する。周囲を調べると、真上を通る車があと5分後に俺達の頭上を通過することに気がついた。手には超伸縮素材で出来たゴムを持っている。この謎カードのジャミング効果の範囲は確認出来ていないが、俺が手で触れている人や物までジャミングをしていると考えている。触れているもの全てにジャミングがかかるなら、地面や建物まで消えて不自然になるからだ。何をジャミングをする判断はAiが行っていると予想される。この予想が当たれば、俺達とゴムまでジャミングが働き、車にはジャミングがかからないはずだ。

 周囲には誰もいない、俺のいる会社は敵を探索する時は敵がいなかったところはマークをつけて同じ場所に行かないようにしているはずだ。


「リーア捕まれ、飛ぶぞ」

「わ、わかった」

「驚いても声を出すなよ。バレたら終わりだ」

「りょうかい!」


 タイミングを測って、空中にゴムを投げた。ゴムはそのまま上に伸びていく、伸びたゴムは空を飛んでいる車の足場に巻きついた。

 ゴムが縮んでいき、車の方に猛スピードで近づいていく、リーアは声を出さないように口を手で防いでいる。

 車の所まで到達し、足場に手を掛けた。時速100kmで走る車は明らかにスピード違反だが、助かる。これなら秋葉原まですぐに着くだろう。

 落ち着いていると、左耳が熱くなった急いで、イヤホンを外に投げた。数秒後爆発した。

 抱きつくリーアを支えながら、時速100kmの疾走が生み出す豪風が、容赦なく全身を叩きつける。俺は特殊防具を装備している為、なんとかなるが、リーアはロリータ衣装を着ているだけだ、耐えられるのか、それが心配だ。

 車は5分足らずで秋葉原付近上空まで飛んでいた。ゴムを車から外して、空に飛び込む。

 俺単体ならそのまま着地しても、ダメージはないが、今はリーアがいる。

 ビルの飛びてている部分にゴムを伸ばして、巻き付くいた。そのまま下に落ちるが、ゴムが縮む事で速度の向きが変わり、真下へ落ちる勢いはほとんど水平方向へと変換され、地面に叩きつけられる代わりに、俺達は弧を描いて滑らかに流れた。転げ落ちることはできなく、そのまま着地する。多少衝撃はあったが、直に落ちるよりはマシだろう。

 リーアの方を見ると、顔は辛そうだが、普通に歩けていし、気絶もしていない為、予想よりも大丈夫そうだ。

 俺の位置情報を確認すると、お店をまだ回っているようだ。

 イヤホンが無くなった事で、会社からの情報が分からない為、森咲が来る前に移動する必要がある。

 リーアに事情を話して、協力してもらう事にした。行く予定だったお店を確認して、位置情報が示す前にそのお店入る。俺の現在位置情報と偽の位置情報が重なった時、リーアに謎のカードを渡す。問題があるとすれば、謎のカードのジャミング機能は利用できるが、位置情報を変更というプロセスが組み込まれている為、リーアの位置情報が何故かお店を回るという状況になる可能性がある事だ。しかし、今の問題は俺が偽の位置情報をバレるのを阻止する事が優先となる。


「そろそろ重なる、今だ」


 リーアにカードを渡す。リーアはとりあえず更衣室に隠れてもらう事にした。


 位置情報を確認する。しっかりと止まっている。森咲はまだ来ていないようだ。どこかのお店に行こう、特に森咲が入りにくいところがいいだろう。

 森咲が入りにくいところ、昔人気だった2次元のR18コーナーにいることにした。周りには卑猥なものが並んでいる。R18ノベルゲーというものもあり、金額が新車を買えるぐらいまで高騰していた。

 その理由は日本から日本人が追い出された事で、日本産のアニメ、ゲームなど一人で作ることが難しいものなどが、すぐさま消滅した。

 しかし、世界の至るたことろで、夢を諦めることが出来なかったもの達によって、昔の日本のアニメなどを復活してきている。

 今目の前で売っているものも、今再生できるか分からないが、復元デバイスを使うことで、再生する可能性があるらしい。

 ちなみに、俺は知識として知っているだけで、アニメなどの2次元文化はあまり知らない。

 流石にここにいれば森咲を入るのを躊躇うだろう。

 何よりも、逃走している奴がこんな所でいるという状況は精神的にもありえないと思うはずだ。


「こーくん何してんの? こんなところで」

「も、森咲!?」

「何驚いてるの?」

「い、いやー聞いてくれよ。俺が買い物している時に突然イヤホンが熱くなって爆発したんだよ」

「そうなんだ、大変だったね」

「それで、任務は順調なのか、そもそもなんで森咲がここに?」

「まずは、ここから出よう?」

「あ、ああ」


 お店から外に出た。

 周囲を見渡すと、青色の髪をした少女が男性に連れ去られている。


「マジか」


 何故、バレた。位置情報は分からないはずだし、リーアは更衣室に入っていたはずだ。

 まさか、あの男性、女性が入っている更衣室を開けたということになるんだが……。

 

「どうしたの?」

「ちょ、ちょっと急ぎの用事を思い出した」

「それって、そんなに大事なこと」

「そうなる、また、後で」

「……」


 連れ去られるリーアを追いかけているうちに裏路地に入った。曲がり角を進むと、そこは家と家で囲まれた。行き止まりになっている空間があった。奥にはリーアが倒れている。


「松永、お前何をやっている?」


 背後から声が聞こえる。知っている声だった。


「レイジ……」

「出し抜けると思ったのか?」

「いや、なんのことだか……俺はただ、少女を連れ去っている変質者がいたから、追いかけただけだ。まさかレイジ……お前」

「冗談を言っている場合じゃない、隊長は出し抜けたようだが、俺は騙されなかったぞ、あの時お前達は隙間に隠れていたな? ヒヨコは気づいてなかったみたいだが、ゴーグル越しでも空間が少しぼやけていた。元々俺はこの件にお前が関わっていると思っていた」

「なんで、俺が関わってると思ったんだ?」

「勘だよ、ただの」


 レイジは腕を構えた。


「質問なんだが、どうやって見つけたんだ? 更衣室ーー」


 視界からレイジが消える。

 俺はすぐさまバックステップする。

 目の前をレイジが横切った。急に止まったかと思ったら、蹴りが俺の横に到達していた。それを片腕で受け止め、もう片方の腕でレイジに殴り込んだ。しかし受け止められる。

 受けて止めていた腕を離して、自分の腕目掛けて、殴りつけて、そのまま横に移動した。

 レイジが地面を蹴って、上に高く飛んだ。顔を上げた時、カチャという音と共にフラッシュが炸裂して辺りに光が照らされる。レイジの戦術の中にフラッシュがある事に気づいていた為、目が見えなくなったのは片目だけだった。次に来るのはレイジのキックだった。反射で手で防いだが、レイジの攻撃は止まらない、殴り、蹴りを混ぜた攻撃は予測が難しい上にひとつひとつの攻撃が重い、何よりも見えない片目の方に攻撃をしてくる為、攻撃を防ぐ場所の把握が難しく、しっかりとガードが出来ていなかった。

 レイジとは訓練する時、勝った事は無い、だが、それは装備なしの場合だ。今俺の手に着いている装備は電気が帯びている。俺の装備は製作した齋藤博士によって電撃を一気に放出する必殺技が出来なくなったが、吸収したエネルギーの使い方は必殺技だけでは無い、腕の周囲に纏うことで、殴る度に電気を食らわすことができる雷拳を使うことができる。

 俺が殴ると、咄嗟にレイジは手でガードをするが、俺の攻撃が当たった瞬間にレイジの手が弾けるように後方に回される。ガードも出来なく、空な状態になったお腹に向かって、拳を振り下ろした。

 バチンッという電気の音が周囲に響いた。エネルギーがあまり補充出来ていない為、電気が切れる前に何回も殴り込んだ。

 突然電気がなくなり、後ろに下がろうとした時、その隙を見逃さないように、倒れたはずのレイジは拳で左、右と交互に殴ってきた。タイミングを測って両腕を掴んだ時、レイジのもうひとつの腕が振り下ろされた。後方にリーアがいるところまで飛ばされて、ゴロゴロと転がって壁に激突した。

 レイジには背後から伸びる3つ目の腕がある。黒くてごついその腕は、背中に取り付けて、神経を繋ぐことで、普通の手と変わらない動きを可能とした武器だ。

 

「まだ、戦うのか?」

「俺は……」


 俺が答えを考えていた時、レイジの腕には銃が握られている。その方向は俺の真後ろにいるリーアだ。リーアはいつの間にかに起き上がり、俺の後方にいる。

 レイジの持っている銃は昔世界一威力の高いリボルバーと呼ばれていたS&W M500を改良したモデルだ。その威力は絶大で普通の防具は貫通する。

 爆撃のような爆音が5回鳴った、俺はリーアを守るように身体を出した。俺にはレイジが狙う場所がわかっていた。5発の銃弾が俺の身体に撃ち込まれる。防具を貫通する事は無かったが、物凄い衝撃が身体全体に広がり、膝から崩れ落ちる。

 銃からシューという音を立てながら、煙のようなものが出ている。

 頭だけで、レイジの方を見た時、先程と同じ銃撃の音が5回鳴った。レイジの第3の腕から放たれた銃撃は背後にいたリーアに直撃した。

 5発全部をもろに受けたリーアは声を出すことなく、後ろに倒れた。


「あっ……」


 動けないはずの身体を動かして、リーアの方を見た。頭から血を流し、青いベストには心臓の部分に穴が空いており、血が吹き出している。

 長いスカートの真ん中にある白いフリルの部分を血が赤く染めて行く、その光景を俺はただ見ることしか出来なかった。


「なぁ、松永、どうするんだ? なぜ、その少女に固執していたのかは分からないが、そいつは俺達が育った会社を捨ててまで助けたかったものなのか?」

「俺は……」


 分からない、なぜ、俺はリーアを助けたいんだ。情報が欲しかったからなのか、それとも……。


 『ねぇ、何分で動けるようになるのかしら?』


 誰の声だ?


 『聞いているかしら? 私はリーアよ、身体に接触する事で会話をしているわ、詳細は後にして』


 確かにリーアの声だが、口調が違う、一体どうなっている。


 『えーと』


 話せている? 声に出していないのに、話せている。


 『もう、この周囲は貴方の仲間で包囲されているわ、逃げるには空を飛んで車に乗るぐらいしか逃げは無いの』


 いつの間に、周囲の情報を得ていたみたいだ。

 

 『あと10分ぐらいしたら、とりあえず何とか動けるようになると思う、しかし今の身体じゃあ上には行けない』

 『今なら静かにする必要はないわ、その腰のユニットは使えるんじゃないかしら?』


 血を垂らしながら、リーアが立ち上がった。

 その光景に驚きながらもレイジは銃をリーアに向けて発砲したが、リーアに到達する前に透明な何かで弾かれた。


「どういう事だ」


 リーアの近くに機械が浮いている事に気がついた。

 似たような事をジェームズ・ホスキントンが使っていたが、あれは重装備に搭載されている、遠距離からの攻撃を自動で守るというもので、リーアには見た目からして重装備をつけているようには見えない。

 その後、レイジは何発もリーアに向かって撃つが、割れる様子がない、普通は2発まで耐えられて、3発目でガラスみたいにバリンと割れるのだが、リーアが使っているものは割れる様子がない、この防御力は支配者が作ったロボットぐらいしか考えらない。


「さぁ、やりますわよ?」


 目を細めて、愉快そうに笑いながら、リーアが拳を握りしめて、構えた。

 驚愕な表情をしているレイジにドンという鈍い音が聞こえてきた。推定身長145cm、細く、見た目は子供にしか見えない、その小さい身体から出せるとは思えない殴りが炸裂した。

 リーアの殴りは何も構えをとっていなかったレイジを吹き飛ばした。

 その光景を俺ただ驚きながら、眺める事しか出来なかった。

 

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