第34話 必殺技

 もうこいつが俺に何を言いたいのか分かった。俺の部屋で見たあの殴った跡はこいつの仕業だったんだな。

 怪物は装備していた素顔を晒した。銀髪の角刈りの男性の顔が出てきた。

 彼の名はジェームズ・ホスキントン、ロストンホルム社の傭兵。

 ただ勢いよく蹴っただけで、逃げるような奴では無いとは思っていた。

 ジェームズは構えた。手には何も持っていなく、黒いグローブをつけているぐらいだ。

 俺も構えた。ジェームズは俺が攻撃をしてこないと判断したようで、俺に向かって走り出した。3mという巨体が走れば、どしどしうるさそうだが、ジェームズの足音は静かだ。途中で立ち止まって殴りのモーションに入った。明らかに射程外に見える攻撃が来る中、俺はバックステップした。しかし、次の瞬間相手の拳は俺の目の前にあった。


「ーーなに!?」


 構えは取っていたが、当たるはずがないという思いが、残っていたためだろうか、それとも、相手のパンチの威力が大きすぎたのか、構えが意味をなさないまま俺の身体が壁に激突した。

 追撃しようとしたジェームズの足に、紐がつけられている。森咲がいつの間につけていたらしい。

 ジェームズが力でちぎろうとしているところに、俺と森咲が同時に攻撃をした。俺は殴りで森咲は刀で、しかし、ジェームズはそのふたつの攻撃を左手と右手で受け止めた。そのまま、俺は投げ飛ばされて、森咲は刀ごと飛ばされた。

 ジェームズの足から轟音が響いて、足に付いていた紐が切れている。


「化け物が」

「やはり、所詮日本人だ。私を倒せると本気で思っていたのか?」


 普通の攻撃で倒せる気がしない、ここはは大きなホールみたいになっており、柱以外なんにもない為、障害物で倒すといった行動もできない。

 試しに、腰の拳銃を触りながら、ジェームズの唯一露出している顔の部分を狙って、ノールックで打ってみた。マズルフラッシュが光り、ジェームズに向かって銃弾が飛んでいく、ジェームズは一切動いていないが、なにかがその銃弾を止めた。銃撃を感知して、防御するバリア的なものを搭載しているのだろう。

 打撃も効かない、銃弾も効かない、なら何が効くのか、俺はその答えを知っている。俺がジェームズ・ホスキントンを倒す為に呼ばれた理由を知っている。

 俺には必殺技がある。

 俺は殴った時に生じる振動を腕に装着している装置で吸収することで、人間離れした打撃を行っても自身にダメージはなく、さらに吸収したエネルギーを貯める事ができる。エネルギーのチャージが完了したら、右手と左手の甲を合わせてる事で、強力な電撃を発射することが可能だ。この電撃こそが、おれの必殺技だ。この電撃のお陰で自分よりも格上相手でも倒すことが出来た。

 俺が今回呼ばれた理由この必殺技を持っているからだった。

 俺じゃなくても、他の同じ装備のやつを呼べばいいという話になるかもしれないが、この装備は日本人のある博士しか作成することに成功していない、また、使用している素材も特殊で量産も難しいとされている為、俺特別のオリジナル装備みたいなものだ。

 腕の装備を見るとチャージは溜まっている。実はこの作戦に合わせて、事前に貯めていた。

 右手と左手の甲を合わせた。カチャカチャと機械の音が鳴りながら、右手と左手が繋がった。

 この必殺技はわりと有名の為、逃げようとする奴がいるが、俺がこの構えをとった時点で相手はもう逃げれない。

 周囲は森咲によってすぐに出れないように、周囲に透明に近い縄が張りぐめされている。縄特製な性質で作られている為、破壊も時間が掛かり、ジェームズの巨体ではすぐに逃げることは不可能だ。

 しかし、様子がおかしい、ジェームズは必殺技は知っているはずだ。それなのに、逃げようともしないで、俺を見ながらニヤついているだけだ。

 ジェームズは俺が日本人だからと嘲笑っていた。この必殺技も俺には効かないと確信でもあるのか、いやそんなことはないはずだ。今ままでこの必殺技で倒せなかった敵はいなかった。だからこそ、俺に仕事が来るんだ。

 ジェームズはニヤついた表情を変えないまま、俺の方に歩み寄ってきた。

 俺は必殺技の発射の準備を始めた。が、異変を感じた。腕がビリビリと電気が弾けている様子はいつもと同じだが、向きが違う。発射口ではなく、俺の方に電気が溜まっている。

 腕の内部で電気が逆流しているのか?


「まさか……」


 このままでは必殺技が俺に向かって放たれて、腕だけを残して消し飛んでしまう。

 急いで、必殺技の発動を止める作業に移行した。しかし上手くいかない。


「家に穴が空いた状態で1週間も放置していたら駄目じゃないか?」


 嘘だ。ありえない。あの博士が俺を俺を裏切る訳が無い、日本人を裏切る訳が無い。

 俺の中に絶望の心が近づいてくる。最悪な状況が脳裏に浮かんでくる。


「その装備はある博士しか整備できないんだろう? ならなぜ、弄られているんだろうな?」


 思考が停止する。何も考えたくなる。しかし、現実はそうはさせてくれない。俺の腕にピリッと電気が走しり、停止していた思考が戻る。

 装備のキャンセル方法を思い出しながら、外していく、最後の工程を終えて、外れたその時、ジェームズは俺に近づいて、俺の首を掴んだ。


「ふはははは!! 所詮その必殺技が使えなかったら、他の雑魚どもと変わらないな松崎、松下なんだっけなーーー日本人」


 笑いながら、俺を壁に叩きつける。


「死ね死ね死ね死ね、前から目障りだったんだよ日本人の癖によーー」


 俺は何も抵抗できない、思考がままならない、ただ激痛が襲う、何回も何回も、俺はどうすればいい。誰かおしえてくれ……。


 ブォンッ! ……ガガガガッ!

 ギュイィィィン!ギュイィィィン!


 近くから甲高い音が聞こえてきた。それが近づいてくる。

 壁に押し込まれながら、ジェームズの行動が一時的に止まった。

 音が方を見ると、そこにはもう誰もいなく、上空から音がして、ジェームズの身体の上に乗った。

 その姿は何故か古い見た目の音のうるさいチェンソーを持った森咲の姿があった。


「いっちょ行きますか」


 掛け声をかけながら、ジェームズの首辺りに刺した。


 ギャリリリリリッ!

 ズガガガガガッ!

 ガギギギギギッ!


 見た目は明らかに旧式なのに、ジェームズの鋼鉄の鎧に刺さっている。

 森咲の姿をよく見ると、服装は血だらけで、チェンソーに血が付着している。ここに来るまで誰かと戦ってきたみたいだ。もしかしたら、俺の必殺技がミスした時、ジェームズの別の部隊が俺達を包囲する予定でもあったのかもしれない。


「くそ、なんだこれは、耳が……チェンソーだと」

「あはははは」


 森咲が笑っている。この状況で興奮しているのか、森咲がこんなに笑っているのは初めて見た気がするんだが、


「くそ、なんだ、どうなっている!?」


 ジェームズは俺の首から手を離して、森咲が乗っている方に手を伸ばすが、届かない。見た感じ、ジェームズの装備は前後の可動は自由に動かせるが真上や背中までは可動ができない様子だ。

 チェンソーがズガガガガガッ!と音を立てながら、どんどん入っていく、このまま入れば首に達して、首を切断できてしまうだろう。

 ジェームズは張り付いた森咲をどかすことを諦めて、首元に触ったすると、ガチンッと音を立てて、上部から首に繋がっていた装備を外した。そして、足に付いているロケットブーストで逃げ出した。


「あーあ、逃げちゃった。まぁ任務は撃退だからOKだよね」


 俺は呆気に取られて、尻もちをついてしまった。


「あ、ありがとう森咲死ぬかと思った」

「どういたしまして」


 全身血まみれで、笑顔で俺の方を見た。


 下から足音が聞こえてきた。やっとブライトさんの部隊が来たらしい。

 

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