呼吸

家路 人外

ぶらん、ぶらん

 ぶらん、ぶらん、ぐらり……。あなたを見る。じーっと、目があなたに何かを訴えている。苦笑。宙ぶらりん。ぐらり、ぐらり。ぶらーん、ぶらーん……。電波の悪いラジオだろうか。ノイズがあなたの耳に侵入する。か、ぁが、っが……きっ、き、ああ……!ぁ……。苦笑。ぐらり……。目が、あなたをずっと見ている。赤く充血した濡れた目があなたに何かを訴えている。じー……。可愛いく上目遣いをして、あなたに何かを求めている。あなたは、心に来るものがあった。善意の気持ちが、あなたの胸を温かくした。ああ、許してやろう……。きみが息絶える前に下ろせばまだ助かるだろう。……ぐ……らり……。……り。あなたは目を瞑った。見て見ぬふりをした。まぶたの裏にきみが映る。きみの死体が、あなたに何かを訴えている。艶やかな森が現れた。。瑞々しく濡れたの植物の葉っぱが、水を垂らした。ポタポタポタ……ポタポタ……ポタ……。苦笑。きみは死んだ。あなたは、ホッとした。心に垂れ下がっている鉛が軽くなった。あなたは目を開けた。想像通り、きみは死んだ。空気がすっきりした気がした。さっきまで微睡んで漂っていた冷たい空気が引いた。あなたは、深いため息を吐いた。そして、そのまま深呼吸した。吸って……吐いて…………吸って…………吐いて…………………。吸って…………………………ゲホッゲホ……あぁ……。あなたは、むせた。あなたは、乱した息を整える。頭を空っぽに出来た。あなたはその場から踵を返す。背中にツンツンと刃物のような鋭いものが突っついている気がするが、気にもしなかった。……ぶらん……。あなたは、寒気を感じた。ぶらんぶらん、ぶらんぶらん、ぶらんぶらん、とあなたは体を横に揺らしながら、ステップを踏んだ。……ぶらん、ぶらん……ぐらりっ……。ぐらりぐらり、ぐらりぐらり、ぐらりぐらりとあなたは肩を揺らしながらステップを踏んだ。ぶらんぐらり、ぶらんぐらり、ぶらんぐらり。あなたは、奇行種みたいになった。哄笑。あなたは、自分の可笑しさに笑った。喜笑。あなたは破顔した。あなたは、喉から出る笑いを堪えるのが必死だ。くっくっと高い声が漏れる。しばらく奇行種をやったあなたは、半円がゆっくり下りるように力が抜けていった。気が付くといつの間にか、あなたは、あなたの目を見ていた。

 僕は、長い時間、鏡と対峙していたようだ。窓から差す弱く薄い日光が部屋を青く照らしていた。姿見から離れて、ベッドに腰を下ろす。怖い夢を見ていた気がした。正確にいえば妄想かな。笑みがこぼれる。傍から見ればキチガイだろうな。だけど、僕は時間を忘れるほど長い間夢に浸っていた。これほど祝福なものが他にあっただろうか。無かったな。いつか、会いたい。僕の友達に。きみは、生きているんだ。心中が浅かっただろう。僕は、歪んだ自分を見ていた。宙にぶらりん、と……。かぶりを振った。今度もやろう。いつかは、心中の深いところに入れるだろう。待っていてね、あなた。

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