生き残り少女傭兵、幼馴染魔女に拾われる
笹塔五郎
第1話 親友
『ロウドルス帝国』の南方――『エンヴィネの森』。
長い白髪の獣のような耳が生えた少女――フィオナ・クローツはとある依頼を受けてそこにやってきた。
その依頼とは、森で暮らす『魔女』を殺すというもの。
フィオナは傭兵であり、十六歳という若さながら圧倒的な実力を誇っていた。
だからこそ、魔術師の中でも相当な実力者のみが与えられるという『魔女』の称号を持つ相手を狙うよう依頼されたわけだ。
そうして――フィオナは『魔女』の前に立った。
剣先を向けるが、ローブに身を包んだ『魔女』はそんなフィオナを前にしても落ち着いた様子だった。
「私を斬らないんですか?」
『魔女』はそんな風に問いかけてきた。
「どうして抵抗しないの?」
逆に――フィオナは『魔女』に対して問い返した。
すると、『魔女』は小さく笑みを浮かべ、目深に被ったローブを外す。
「殺気を感じないからですよ。久しぶりですね――フィオナ」
『魔女』の正体――黒髪に赤い瞳の少女は顔見知りだ。
リーゼ・レンディール――同じ孤児院で育った、フィオナにとっての親友。
フィオナは確かに依頼を受けたが、初めから殺すつもりなどなかった。
そのまま、フィオナはリーゼに向けていた剣を鞘に納める。
「忠告に来たの。あなた、命を狙われてるから」
「そうみたいですね。実のところ、以前にも刺客がやってきてまして」
「……そっか。なら、いらない忠告だったかもね」
「そんなことはありませんよ。こうして、久しぶりに顔を合わせることができましたから。お元気でしたか?」
「……まあ、これが答えかな」
リーゼの言葉に、フィオナは視線を逸らしながら言った。
『魔女』であるリーゼ・レンディールを殺せ――その名前を聞いて、フィオナはすぐに依頼を受けた。
殺せる自信があるからではなく、ただ久しぶりに名を聞いた親友に会うためだけ。
「依頼を受けたのに私を殺さないのは問題では?」
「別に。依頼は成功報酬で前金は受け取ってない。つまり失敗しても向こうは痛手がないってこと」
「あなたはどうなんです? 傭兵をしているんでしょう?」
「! 知ってるんだ」
「噂くらいは耳にしたことはありますよ。あなたは私のことを知らなかったようですが」
「……戦場ばかり渡り歩いてたから」
「それで、また戦場に戻るんですか?」
「――どうだろう。仲間ももういないから」
帝国はフィオナにとって故郷のようなもの――戻って来た理由は、傭兵団が壊滅したからだ。
「次にやることは何も決めてない、と?」
「うん。ただ忠告に来ただけ。親友だったから」
フィオナにとっての唯一の繋がり――自分にそんな感情がまだ残っていたことには少し驚きだったが。
「フィオナは優しいですね。わざわざ忠告に来てくれるなんて」
「優しくないよ。傭兵だし、人もいっぱい殺したから」
「でも、私のことは殺さなかった――でしょう?」
「……まあ、そうだけど。じゃあ、わたしはそろそろ行くから」
フィオナはそう言って、リーゼに背を向ける。
もう会うこともないだろう――そんな風に考えていると、
「待ってください」
不意にリーゼに呼び止められた。
「まだ何か――っ!」
そうして、振り返った瞬間――リーゼと唇が重なった。
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