LEFT ARM
☃️三杉 令
第一章 左腕
第1話 カイトの左腕(2073年 日本)
病室。まだ夜なのに不意に目が覚めた。
常夜灯の薄明りの中で白い天井をしばらく見つめる。
仰向けで寝ていた体を少し右側に傾けた。
次に左腕をゆっくりと上げて、右手で支えた。
目の前の左腕をじっと眺める。
ただの腕なのに美術品を見ている様だ。
「何て美しい腕なんだろう」
カイトは純粋にそう思った。
その腕は長く、柔らかい。
肌のきめは細かくカイトの肌よりも白かった。
手首も、そしてその指さえも、その腕に見合う様に細い。
その細長い指を伸ばしたり曲げたりすると、手の美しさが際立った。
視線を少し左に移す。肩の少し下には縫合痕が残っている。
肌の色の違いから腕から先が明らかに元の自分の腕では無いことがわかる。
しかし今は自分の腕のように自在に動かすことができる。
感じることもできる。
いや、この腕はこの腕自身が感じているんだ。
――手術からどれくらい経っただろうか
カイトは左腕にひどい損傷を受けた。
そのため腕の移植手術を受けていた。
ドナーは幼馴染の女の子だ。
しばらく前に二人でドライブ中に事故に遭った。
カイトは、彼女をかばった自分の左腕がひどく損傷したと聞いた。
――事故? あれは事故なんかじゃない
その出来ごとの直後、彼女にはまだ意識があり血だらけで潰れたカイトの左腕を見て自分の腕を移植するように訴えていた。その声はドライブレコーダーにしっかり録音されていた。しかし重傷だったのは彼女の方だった。彼女も間もなく気を失い、駆け付けた救急隊にカイトとともに病院に運ばれた。
彼女は強い衝撃を受けたダメージで一時完全に脳死状態と診断された。
ミユが残したメッセージの通り、どこかの外科医が彼女の腕をカイトに移植した。
腕を切り取った直後に奇跡的にミユの脳の活動が復活した。
周りの医師や看護師は彼女の脳の機能が戻った事に非常に驚いた。そんな例は聞いたことが無い。
しかしザイゴートと呼ばれるその執刀医だけは驚きもせずに、淡々とカイトの切り取られた無残な腕を回収した。そして周りの医者達に告げた。
「数週間もしたら意識も戻る。なるべく早めに退院させてやってくれ」
周りの医師は「この状態から意識が回復するなんてあり得ない」と言った。
まだ数日しか経っていないが医者達が想定した通り彼女は意識不明のままである。
「ミユは……」
カイトに腕を提供したミユは彼と同じ病室、彼の左側に静かに眠っている。
カイトはミユをしばらく見つめて、静かに涙を流した。
自分の左腕と同じ色をした白い顔は動くことは無い。
彼女の心臓は動いているが目を覚ますことは難しいらしい。
その左腕は肩から先が無い。
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少し解説を。
50年後の未来です。
カイトは20歳くらいの男子、ミユはやはり20歳くらいの女子です。
ある事件によりミユの左腕がカイトに移植されました。
ミユと、カイトに移植された左腕は特殊な力を持っています。
これがこの作品の重要な設定です。 /三杉令
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