プロローグ

 俺の両親は学生時代同人活動というオタク活動をしていた。


 当時父はサークルの代表とシナリオを書いており、母が原画とコスプレで宣伝をしていた。


 他にも音楽担当やプログラマー等数人の同級生を巻き込んでいたらしいのだが。


 大人になって、サークルのシナリオと原画が結婚、そのまま会社を立ち上げるという暴挙に出た。


 資金は同人時代にそこそこ稼いだと言い、小さいながらもゲーム会社を立ち上げたのだ。


 他のメンバーも最初は一緒にやってたらしいけれど、時が経つにつれメンバーは入れ替わったり増減したりで、現在では同人時代の仲間は俺の両親だけとなっている。


 オタクな両親を持ったせいか、俺も当然の如く英才教育を受けオタクに染まったりしているわけだが……


 小さい頃から家にまで持ち込んで作業している両親を見ていたら、ゲーム会社……特に大きくもない小さなえろげ会社には勤めてなるものかと誓ったものだ。でも、オタク的にはそれはフラグなんだよな。


 それとひとつ勘違いしてはいけないが、発売直後やイベント後に打ち上げはあるけれど、その場やその後に出演声優や原画家、コスプレイヤーと何かあはんうふんな事はない。


 父親からだけでなく、他の男性社員からも、そういうのに夢を持つだけ無駄だぞ、と小さい事から言い聞かせられていた。

 普通にセクハラ、パワハラだからなと。


 そのはずなのに、俺は妄想するのは止められなかった。


 書き留めた妄想は数えても数えきれない。


 走り書きのネタだけのものから、一通り恋愛やラブコメ小説に近いものまで。


 ゲームとなると、攻略キャラ人数だけシナリオが存在し、根底となるメインルートだけではどうしようもない。


 メインヒロイン以外を外注に発注する会社だった存在する。


 これまで父の会社は1年半に1本くらいのペースでゲームを発売していたりする。


 個人的にはまぁまぁ早いペースじゃないか?と思ってる。


「お前の妄想、作品ゲームにしてみないか?」

 

 高校1年だった時の俺に、何気なくぼそっと父が漏らした言葉だ。


 ネタに困ったのか、俺が妄想を書き溜めていた事を知っていたからなのか、自分達の血を継いでると思っての事なのかはわからない。


「別に今直ぐに、というわけではない。来年か再来年に向けて何かゆっくりネタを仕込んでみるのも面白いと思ってな。」


「私が息子の思い描いたメインヒロインのコスプレして宣伝するの?いろんな意味で微妙なんだけど……来年再来年というと、私達もうアラフォーよ?」


 驚くかもしれないが、ウチの両親はまだ37歳である。高校卒業して直ぐに婚約し、自分達の作った同人ゲームに成りきってコスプレプレイしたら……俺がデキちゃったと。


 わかり易い計算はありがたいけどな。両親20歳の時に俺が0歳、今俺が17歳だから37歳。


 そしてそんな両親だけれど、見た目だけでは40間近とは思えない。親子で買い物してると勘違いされる事もあるくらいだ。兄弟、姉弟どちらにもだ。


 そんな親の妙な呟きに影響を受けてか、英才教育によるオタク気質なせいか、何か1本書いてみるかと思ったのが昨年春、高校入学した直後の事だ。


 学業?勿論普通にはこなしている。平均点を取れるくらいにはな。


 これは幼稚園からの親友である藤本翔斗の助けもあっての事だが。


 ただ、シナリオを書くとはいっても、一応Hなシーンだけは父に任せて、地の文章や会話文を俺が書くという前提条件はある。


 18歳になるまでは禁止って事らしい。コンプライアンスはギリ守れてるのかは知らんが。


 発売が18歳を超える場合は、Hシーンも書いて良いぞとは言われたけれど。


 苦節1年、夏休みを迎える前にHシーンは書いてない高校生えろげシナリオライターである俺のデビュー作「ラブスレイブ・サガ」が発売された。


 そしてまさかの出来事が起きる。


 夏休みもあと少しというある日。


 ホームルームを待つクラスメイトが、夏休みどうするという話が乱立している中。


 教室に風が吹き込んできた。


 長い髪が汗で張り付いてしまいそうな陽気に、微かに至福を与えてくれる風が。


 場所が場所なら、捲れるものが捲れてラブコメの一コマになりそうなその風が運んできたものは……


「きゃっ、どやんすどやんす、髪ん貼り付いてしまう。」


 俺の隣の席から聞こえてきた。


 眼鏡を掛けて、黒髪ロングの見た目委員長っぽい大人しいクラスメイト、藤田夏澄から発せられた言葉だった。


 そ、そのセリフは……  

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