Junk Stories

うどんこんど

19時付近の救世主

「お店の予約19時からでしょ?もう18時54分なんだけど、間に合う?」

 俺の半歩先を急くように歩く麻里まりは少しいらだたしげにこちらを振り向き頬をかすかにふくらましながら言う。


「大丈夫大丈夫。それに多少遅れても問題ないって」

 右手に持つ先ほど購入したものがはいった大きな紙袋を前後に小さく揺らて歩きながら俺は麻里に続く。


「なんでそんなに楽観的なんでしょうね」

 かすかに下唇を突き出しながら麻里は相変わらず不満げだ。


「ブーツの試着に時間かかりすぎなんだから、もう」

 麻里の追撃は止まらない。

「ブーツはサイズ感が命だからしょうがない」


 おれは紙袋の中の靴箱を愛おしそうに撫でながら答える。


 今日俺達、というか俺は良く行くお店のインスタグラムでブーツの再入荷のお知らせを見てそのブーツを購入しに(デートのついでに)赴いていたのだ。


 US9(27センチ)かUS9.5(27.5センチ)にするかで計20分近く悩んだ(結局US9にした。ブーツは履き込んでいくと多少革が伸びるのだ)結果、こうして無事に19時からの夜ご飯のお店の予約に遅れそうになっているわけだ。


 「早く早く」と先を急ぐ麻里の足が突然止まった。俺も釣られて立ち止まる。

「どうした?」

「見て」

 答える代わりに麻里は前方を指差す。


「イルミネーション…もうそんな季節なんだね」

 そう言うと麻里は街路樹に巻き付けられた鮮やかなイルミネーションの下まで駆けるとスマートフォンを取り出して俺を手招きする。


「ね、一緒に写真撮ろ?」


 時間ないんだろ、という言葉が喉元まで出かかったがそうなった原因は俺にあるので余計なことは言わず黙って俺は麻里の構えるスマートホンの画角に収まった。


「よし、OK。行こう」


 数回シャッターを切った麻里はそう言うと俺の腕に自分の腕を絡めてきて同じペースで歩き出す。どうやら機嫌は直ったようだ。


 ありがとう、助かった

 俺はイルミネーションを見上げてそんなことを思いながら一緒に歩き出した。

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