第8話

私は扉の前で深呼吸をする。

あの男が私たちを見逃した後、フタレインは屋敷の医療係に傷を治してもらい私はフタレインと2人でエルナの部屋の前に来ていた。

そうだ。

誕生日を祝うためだ。


「行きますよ」

そう小声でフタレインに合図を送る。


「誕生日おめでとうございます!!」

そう二人で息を合わせて言いながら部屋に入る。


エルナはこちらを見て

「ありがとう」

そう言った。

私は唖然とした。

求めていた言葉ではあった。

だけど、だけどその表情が問題だった。

あの喜ぶ姿じゃなく疲れを偽る笑顔だった。

あの男がした顔と同じだった。


「こういう時こそ楽しみましょ?」

私は震える声を抑えながら言うが、その言葉は小さく虫の音でかき消された。



「もう1回言ってくれる?」

困った顔をして私に言う。

「た、楽しみましょ!今日だけは!」

そう私が言った時にフタレインは『うんうん』といいたげに頷いていた。


「そうね、楽しみましょうか!」

声は元気だ。

だけど誰が見ても思うだろう。

【疲れている】

と。


joyeux anniversaire誕生日おめでとう

そうふと呟いたらエルナは目を見開き私に疑問の声を上げた。


「なんで、なんでフランス語がわかるの?」


「…たまたまです」


エルナは目頭に涙を浮かべる。

声を震わせながらエルナは語る。


「元々フランスに住んでたんだけど、日本が由来の能力だったから私、売り飛ばされちゃったの。フランスに異国民は要らないってね。だけど最後まで最後まで守ってくれた人がいたんだけどね……だから思い出さないようにしてたのに、もう! 恵は主人不幸ね」


そう言って笑うエルナは嘘偽りのない笑顔で私に言葉をかける。


「主人不幸ってなんですか!! こんなにも私はエルナ様を思っているのに……」


そうしてその日は久々に笑いあって過ごせた。

そしてなんであの男がフランス語を喋ったのか、なんでエルナに言えって言ったのか。謎だらけだ。


―――――――――――――――――

俺は目を覚ます。あれからさほど時間は経っていないようだ。

俺はいつの間にかこぼれ落ちていた涙に気づく。

どうやら俺は寝ながら泣いていたようだった。


俺は深呼吸して頬を軽く叩く。


俺は誰かが入ってきたことに気がついた。


南だった。


「デジャブか? 前も見たことがある気がするんだが」


俺は冗談交じりに話す。


「貴方、何がしたいの? なんで勝手に人を傷つけて自分勝手に泣いてるの?」


「……」


俺は声が出なかった。

『否定』それが出来なかった。

なんで。

なんで?


「なんだっていいだろ?」


「私、勝手ながら貴方の経歴を調べさせてもらいました。」


俺はその言葉が聞こえた瞬間、南に近づき胸ぐらを掴む。

そしてナイフを目の前に突きつける。


「個人情報を調べるとかダメじゃないか」


できるだけ動揺を隠して声をかける。


「人を刺したやつに言われたくないですよ」


キッパリ言う南。



俺の知っている南は他人に興味がなくて、自分が良ければそれでいいと思っていて、だけどエルナだけは大切にしてたやつだ。

わざわざ自分から相手を調べることなんてしたことがなかった。


「貴方はこの街ここに来る前の経歴が消えていました。ですが、私宛にある一通の手紙が来ました『能力:死に戻り』と。」


俺はその手紙にかかれている字の癖に見覚えがあった。

ケインだ。俺の元バディ。


だいぶ前のことだ。



「貴方は、何のために死に戻りをしているんですか?」


南はまっすぐと俺を見る。


「その手紙が本当という可能性は低いだろ?」


俺はあくまで違う。そんな雰囲気を出しながら聞く。


「そんなわけないです。確信しています」


「……そうか」


「……エルナの知人に裏切り者が居ることですか?」


俺は南の口から聞くことは無いと思っていた言葉が聞こえた。

なんで、南は知っているのだろうか。


「……」


俺は驚きすぎて声が出なかった。


「無言は肯定と取ります。―――私と協力しませんか?」


南は俺に向かって手を伸ばしてくる。握手をしてくれと言っているのだろうか


だが俺はあまりにも突然な誘いに開いた口が塞がらない。

正直一人ではそろそろ厳しい所もあった。護衛が段々と強くなってきていた。

そして何より情報が少なかった。

だから俺はむやみに動くことが出来なかった。


「ハァ……しょうがねぇな」

俺はその小さな手を握る。

久々の人の温もりだった。













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