第6話

―――――それでも朝は来る。


月の光とは違う白い光が廃墟の窓や隙間から漏れて出てくる。

「最低だな。俺」

俺は窓辺に腰掛け頭を掻く

まだ貫かれた胸の痛みと焼けた様な痛みが引いていない。


俺は深くため息をつく。

外では草木が風で揺れる。

眩しい。


スマホからバイブ音が鳴り響く。

俺はその電話を掛けてきた人物の名前を見て思い出す。


そうだ。この日はから連絡が来る日だったか。


俺はスワイプし応答する。

「よ、久しぶりだな」

できるだけ元気な声で話しかける。


「……何お前疲れてんの?」


あたかも俺が偽って応答しているかのように聞いてくる画面の向こうに居るあいつ。


「そんなこたァねぇよ。それで、なんだ?」

俺はできるだけ気づかれないように話を変える。


「あぁ、元気かなって気になっただけだ」

画面の向こうに居るあいつは普通に聞いてきた。


「あぁ、元気だ。」

俺は今できる最大限の演技で答える。


「……余り気は病むなよ。物事は全て上手くいく」


そして『ツーツー』と電話が切れる。



バレてた。

しかも心配されてたし…

だが、画面の向こう――ケインは『物事は上手くいく』って言っていた。

それを信じるか。




すると後ろから床が軋む音が聞こえた。

「誰だ?」

後ろを振り向くとそこには

腹に包帯を巻き、フラフラと歩いて近づいてくる南の姿があった。

おまけに顔色も悪い。



南はゆっくりと口を開き

「エルナに近づくな」

と、壁に寄りかかりながら言う。

俺は一瞬だけ言葉が出なくなる。


俺は別に演技をする必要はないと思い

窓辺に座りながら静かに言う。


「無理だ」

俺は端的に答える。


当たり前だ。守るためにやっているんだ。今更辞めることは出来ない


「だったら……お前を殺す」

そう言い俺に向かって銃を向ける。


俺は重い腰を上げ近づく。


その間に南は銃を撃つが、それは当たらない。

ゆっくりと歩みを始める。

その間にも銃弾は俺目掛けて放たれるがそれは四方八方に散る。

体調が優れない状態で銃を撃っても当たりゃしない。


南の目の前にやってくる。

俺は殴る。


「何故俺を邪魔する」


俺は地面に倒れた南の胸ぐらをつかみ言葉を投げかける


「だって、だってお前がここに来てからエルナは一度も笑ってないんだ! いつも難しい顔をして、私や他の友人まで護衛が着いて、私たちのエルナを返せよ!」


俺は声が出なかった。「そんなこと知ったこっちゃねぇ」そう言葉を出そうとしても喉になにかが詰まっている用に声が出なかった。


俺は自分を殴る。

口の中には血が溜まり、俺はそれをペッと吐き出す。


「知ったこっちゃねぇよ。エルナがなんだ?俺は俺の為に動く。」


違う。


「どうだっていいんだ。エルナだとか、お前だとか」


嘘だ。


「全員殺してやる」


違う。



そんなこと思っていない。


エルナが生きるために俺は動いている


南や恵、エルナは大事なんだ。


全員は殺さない。たった一人だけ


俺は胸が痛かった。


「なんでお前が泣いているんだよ!!」


そう南が涙ながらに叫んだ。


俺はその得体の知らない液体を指で触れる。

涙だった。

なんで、俺は泣いている?

自分を否定されたからか?


いや、違う。

俺の行動目的を否定されたからだ。


クッソ……早く自殺して逃げればよかった。


「五月蝿い。黙れ」


俺はもう一度南を殴った。

すると目を閉じ項垂れる。

息はしているため気絶したようだ。


俺は南を抱え、入院している病院に連れていく。




俺は廃墟に戻ってから外を見た。やはり俺は朝が嫌いだ。

幸せな日々を思い出すから。


俺は頬をパンッと軽く叩き自分を奮い立たせた。


何のために俺はここまで来た。

何のために俺はエルナと敵対した。


思い出せ。自分の行動理由を。


風が隙間から流れ込んでくる。

少し冷たい風が。



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