死に戻りは死にたがり

wkwk-0057

序曲

第1話

鉄の匂いがツンと鼻を突く。

べっとりと地面にこびりついた肉片。

壁に着いた目玉。

吐き気がするような地獄絵図。

俺はゆっくりと数歩先にある階段を登る。

そして椅子に座るかのように項垂れている、いや、死んでいる俺が愛した人。

その傍らに倒れているメイド長。


それを見て俺は刃物を首に当てる。

冷たく、血が外に出る感覚を感じる。



「殺してやる」

俺はつぶやく。

何も出来なかった俺に憤りを感じる。

目の前が真っ赤に染まる気がする。


力を入れる。さっきより勢い良く血が飛び出でる。

目の前が暗くなった。


―――――――――――――――――


目を覚ますと森の中に居た。

どうやら賭けは成功したみたいだ。

風が吹き葉が揺れる。それと同時に後ろから声が聞こえた。その声は今1番聞きたくない声だった。

「あなた何者?」

低く空気を割くような声でこちらに投げかける。


「……やぁやぁ、早坂恵」

俺は空気を吸って気分を落ち着かせる。そして【優しい人】を演じる。


「……貴方が私の名前を知っているのはあえて聞かないわ。そこで何をしようとしてたの?」

鋭い目線を俺に突き刺す。


「まぁいいさ。」

俺はそう吐き捨て懐に隠していたナイフを取り出し地面を蹴り間合いを詰めた。


だが目の前には恵は居ない。

気づいた時には俺は地面に倒れていた。

視界がぼやける。

何も聞こえない。

意識が朦朧としている中、彼女の声だけが聞き取れた。

「何をしようとしてたか私には分からないけど、貴方は危ない人よ。このまま閉じ込めるわ」





俺は、今度こそ守ってやる。何度でも蘇って、蘇って、蘇ってあいつが死なないように俺が守る。


―――――――――――――――――



目が覚めるとそこはコンクリートに囲まれている檻だった。


「さ、どうやって逃げ出そうか」


俺は鉄格子の隙間を通り抜けようとするが、当たり前に通れない。


俺はコンクリの壁に体当をする。

鈍い音が部屋を轟かす。

全身の骨という骨が折れぐしゃぐしゃになった俺。

這いずるのがやっとだ。


そのまま無理やり鉄格子の隙間を通り抜ける。

皮膚と鉄格子が触れる度に激痛が走る。

最後の力を振り絞って地面に頭を叩き潰した。




そして次に目を覚ました時には体は元通りで檻から出ることが出来た。


肉体は元気だが、痛みが残っている。

全身が砕けた痛みが。


階段を登る。

コツコツとコンクリートの階段を上る音が聞こえる。


扉を開ける。


目の前に映ったのはだった。

だが、綺麗で多くのメイドが清掃をしていた。


刹那俺の胸部に痛みが走る。


「不意打ちとは関心しないなぁ…エスカノール・フタレイン。」

段々と身体が冷たくなる感覚がわかる。


「すみませんね。これは恵様からの命令なので」


その言葉が聞こえたが、俺には動く気力なんてなかった。

そして俺は死んだ。



目を覚ます。

刹那俺は後ろを振り向き身体を横に逸らす。

「危ねぇな。」

俺はフタレインの腕を掴み言葉を投げかける。


「凄いですね。これを避けるなんて」


フタレインは俺の腕を蹴り上げ、その勢いのままもう片方の足で俺を蹴り飛ばした。


咄嗟に腕でガードをし、腰に隠していたナイフを取り出す。

俺が間合いを詰めた瞬間、手を叩く音だけが聞こえた。


「辞めなさい。フタレイン下がっていいわよ」


目の前にいたのは恵。


「あら、びっくりしてるようね。私はここのメイド長なのよ。」


そんなの知ってる。俺が守りたかった人の1人なんだから。だけどここで知らせるとダメだ。同じ末路を辿ってしまう。


「わー、びっくり」

自分でも思った余りにも酷い演技だと。


だが、俺は少しミスをしてしまったようだ。

ここの屋敷の中で会うのは良くない。

だから俺は首にナイフを突き刺す。

「サヨナラだ。」

目の前の恵とフタレインは困惑した様子で俺を見ていた。



そして、そして俺は目を覚ました。急いで屋敷から出る。


おそらく直ぐに恵は俺が逃げたとわかるだろう。となると全兵力を待って俺を探す。


俺はマンションの上で夜風を浴びる。

ここで会わないといけない。そうじゃなきゃあの人に会えない。



ある一瞬風が強くなる。

後ろには恵がいた。


俺は振り向き言葉をかける

「良い夜だな。恵。」

ありふれた夜の景色なのにこの日だけは綺麗と思えた。


「貴方が大人しく檻の中にいてくれたら良い夜だったわ。」


「楽しもうじゃないか」

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