第18話 目覚めちゃった......



 俺の改良したキメラと戦う王太子たちを、姿を消して木の上から観察する。


 彼らはどうやら真正面から戦わず、とにかくキメラの足を狙って、まずはその機動力を落とすことを目標に戦っているようだ。


 そして、ちょうど今、足の1本を斬り落とすことに成功した。

 さらに、ここまで王太子たちは、1度たりとも大きな傷を受けていないのである。



 彼らからすればまさに順調だろう。




 ───だけど、それは俺からすれば退屈にすぎた。


 俺はそんなものを求めちゃいない。俺が見たいのは、彼らが危機に陥りながらも、キメラと一進一退の攻防を繰り広げることだ。



 しかしこの戦いを見る限り、あのキメラでは力不足だったらしい。

 .................流石にこれは、使った魔物が弱すぎただけか。



 とはいえこのまま倒されると、わざわざ準備した甲斐がない。



 そういうわけで。



 ────対象、キメラ。


 ────闇属性上級魔法『狂乱の騎士バーサーク



 キメラの理性を奪い去り、本能のまま暴れるように仕向ける。



「グオオォァァァアアアアアアアア!!!!!!」



 キメラは今までとは比べものにならない咆哮をあげると、最も近くにいた人間──オズワルドへと襲いかかった。



 ◇◆◇◆◇◆◇



 <Side:王太子>



 足を失ったキメラの頭が、突如としてガクッと下がる。

 なんだ、と警戒した直後──



「グオオォァァァアアアアアアアア!!!!!!」



 ──キメラは耳をつんざく咆哮を上げ、ビリビリと空間を震わせた。



 そして、血走った無数の目の全てが、ギョロリと私を捉える。

 次の瞬間、キメラは凄まじい速度で私へ突進し──


 ───ドオオオオンッッ!!!


 ──避ける暇もなく、私は木へ叩きつけられた。



 全身を襲う衝撃、背中に走る激痛、クラクラとする視界。

 そのどれもが、王太子にとって初めての感覚であった。



 .........そして、理解した。



 これが、これこそがなのだと。

 全身を貫く剥き出しの殺意、互いに命を削り合う感覚。


 その全てが心地よく、いつの間にか痛みは消え去っていた。



「殿下!! 無事か!!?」


「ああ、問題ない、何も問題ないとも」


「で、殿下......?」



 駆けつけたレイモンドは、なおも心配しているようだ。何がそんなに心配なのだろうか、私は平気だというのに。


 キメラは私を吹き飛ばしたあと、他の3人を襲っていた。

 しかし、不意打ち気味の初撃と違い、既にその変化が分かっていた3人は、何とか対応することができていた。


 私は、戦っているガイアたち3人の元へと向かった。



「無事だったかッ! オズワルド!!」


「殿下、動けるのでしたら自分たちの援護をお願いします!」


「本当に心配したわ! 殿下が無事でよかった(こんなシーンなかったわよ!? 本当だったらオズワルドがチャチャッと倒すはずなのに!!)」


「すまなかったね、次はこんな無様は晒さないようにしよう」



 キメラは理性などないように、手当たり次第に暴力を撒き散らしていた。

 ガイアが誘導し、ニクスが動きを妨害し、ミリアが魔法を叩き込む。そんなサイクルができていた。


 私はキメラ相手に立ち回っているガイアの近くに立ち───



「私が殺る」



 ───キメラへ全力で斬りかかった。


 ガイアに注意を向けていたキメラは、私の攻撃に反応できず、その顔面を大きく切り裂かれることとなった、



「やるじゃねえか、オズワルド!」



 ガイアの称賛を無視し、再びキメラに剣で攻撃する。



「お、おい?」


「済まない! 私に合わせてくれ!!」



 その一言だけ伝えた私は、今度は魔法も併せながら、キメラに猛攻を仕掛けていく。



 ◇◆◇◆◇◆◇



 いいねいいね!! 実に良い!!!



 眼下で繰り広げられている、王太子一行と暴走キメラとの戦いを見ていた俺は、久しぶりに興奮していた。


 本来の予定ではさ、王太子たちがキメラから逃げ惑う様子を見て楽しもうと思ってたんだ。


 でもでも、なんか王太子が狂ったのか知らないけど、死に物狂いでキメラと戦ってて。

 しかもこれがまたいい感じに拮抗してるんだな。


 既に王太子以外は魔力切れだったり疲労だったりでダウンしてるのに、王太子はボロボロになってもなんとか戦い続けている。



 たまにはこういう、生命を賭けたギリギリの死闘を観るのもいいかもしれない。


 王太子もフラフラだけど、キメラも後ちょっとで殺せる所まで来ている。

 これはどっちが────チィッ、時間切れか、いいとこだったのに。



 探知範囲に教師が複数人入ってきたのを感じたので、このまま俺はお暇するとしましょう。



 はぁ〜〜〜、せっかく気分が乗ってきたのに、萎えるわぁー。



 てか普通に空気読「ガア゛ア゛ア゛!!!!!!!!!!」ガチうるさい叫ぶんじゃねぇキメラ如きが(八つ当たり)。



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       <指名手配>

   【DEAD OR ALIVE】

 秘密結社『黄昏の塔』所属

 本名、年齢、容姿不明の男

 コードネーム:『魔導師』

 [懸賞金:1,000,000 G(金貨10枚)]

 罪状:デハイドライドに洪水をもたらす

 特記事項:

  『黄昏の塔』の構成員のため、戦闘力

  は高いと推定されるため、要注意。

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『魔導師』はやる事の規模が大きすぎて、そしてなかなか表に出ないので、罪が罪として認識されてない。

 彼がやったのは例えば誰かさんと一緒に火山を噴火させたり、とてつもない大雨を広範囲で降らせたり、そういう自然災害レベル。

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