第15話 2日目と、ちょっとした変化



「.......ィン......て...」




 まぶしい........だれかがよんでる....?


 ねむい、ゆらさないで.........




「...て.......イン..きて.....レイン、起きて」


「.........ん、ぉはよ」




 なんで、あーくてィア嬢が───




「───目は覚めたかしら?」


「.............ああ、おかげさまでな」


「ふふ、レイン、寝ぼけていて可愛らしかったわよ?」


「うるさい、忘れろ、俺は朝は弱いんだ」



 全く、油断した。普段ならすぐに目覚めるのに、さては学院生活でだらけてきたか?



 ───林間演習2日目の朝は、アークティア嬢に起こされて始まった。




 ◇◆◇◆◇◆◇





 アークティア嬢が用意してくれていた朝食──昨日の余りと持ち込んだ食料だが──を済ませた俺は、彼女に質問を投げる。



「アークティア嬢、他の生徒と被るのを承知で狩場を変えるかどうか、どうする?」


「変えるに決まってるわ、昨日の時点ですでにここら一帯の魔物はほとんど狩尽くしちゃったもの」



 そういって彼女は、マジックバッグに入った、大量の魔石をジャラジャラと手で掬う。


 昨日はホーンラビットやスライム、ウルフといった魔物を合計で少なくとも3桁は倒した。結果として、このあたりの魔物は、狩られるかその前に逃げ出すかしたので、もういない。

 なので移動して狩場を変えるかどうか聞いたのだが、まあ当然変えるよな。


 ていうか魔物多くね? 増えすぎでは??


 違う、そんなことは今はどうでもよくて。



 狩場を変えると、確実にどこかと狩場が競合することになる。

 この辺りは端も端なので、昨日は運よく他の生徒と狩場が被らず独占できたが、今日はそうはいかないのだ。


 なぜなら───





 ────12時には王太子襲撃イベントがあるからだ!!




 ということは、だ。ある程度王太子たちの近くで動く必要があるということでもある。つまり、少なくとも彼らと狩場がある程度被るわけだ。


 事前にマークした魔力によれば、王太子の場所は大体森の中央部、その王都よりのあたりなので、ここから30分ほど移動することになる。

 襲撃のある昼に、ちょうど現場に居合わせるように誘導するのは俺の腕の見せ所でもあるが.......



「アークティア嬢、今日は俺がメインで索敵する番だろ?」


「そうね、昨日私がやったものね」


「どうせ狩場が被るなら、いっそ動き回るってのはどうだ?」



 つまり、どこか固定の場所を作ってその周辺で魔物を狩るのではなく、魔物を発見次第転々と移動しながら倒していくということだ。


 特定の狩場を持つのではなく、移動した先で魔物を倒すことを繰り返すイメージだ。


 それを彼女に伝えると、



「いいんじゃないかしら? 森の中での移動の訓練にもなりそうだし」



 意外なことに、かなり乗り気な様子であった。



「意外だな、アークティア嬢が──」


「ちょっと待ってくれるかしら」



 ──そんなにも乗り気なのは、そう続けようとしたが、アークティア嬢の声に遮られた。

 珍しい、というか初めてじゃないか? こういうことは。


 彼女は普段から礼儀正しく、基本的に相手の話を最後まで聞いてから話す人だ。なので、この行動はかなり珍しいと言える。



「どうしたんだ、アークティア嬢「それよ」......??」


「その、『アークティア嬢』っていうの、やめないかしら?」



 ...............というと?



「ほら、私たちも知り合ってそれなりだし、そこそこ仲良くなったと思うのよ」


「そうだな、俺もそう思ってる」


「それなのに、いつまでも他人行儀に『アークティア嬢』って呼ばれるとむず痒いのよ」



 あぁーー、そっか、確かにそうだな。仲良いと思っている相手から、いつまでも他人行儀な呼ばれ方をされてたら、たしかにむず痒くもなるな。



「そういうわけで、私のことはシャーロット......いえ、シャルでいいわ、シャルって呼んでちょうだい」



 まさかの愛称呼び、いきなりハードルが上がりすぎてないか??

 まあ、別にいいんだけど。



「わ、分かった......シャル」


「そう、それでいいわよ。それと、ごめんなさいね、話を遮っちゃって」


「それは別に平気だから、謝らなくてもいいんだけどな」


「良かった、それでレインは何を言うつもりだったのかしら」


「そうだった。アー、じゃなくて、シャルが移動しながらってのに乗り気なのが意外でな、なんでだろうって」



 アークティア嬢呼びをしてしまいそうになり、シャルがジト目を向けてきたので慌てて訂正しつつ、疑問を伝える。



「ああ、単純よ。旅をすることになれば、森を進むこともあるでしょう? その時に森での移動に慣れていれば、移動も戦闘も多少楽になると思ったからよ」


「シャルはすごいな、そこまで考えているだなんて」


「大したことじゃないわよ。ほら、雑談もこの辺にして、そろそろ狩りを始めましょう」



 うわ、気づかなかった、いつの間にか雑談になっていた。今後は気をつけるようにしよう。



「ありがとう、気づかなかった。そうだったな。魔物はこっちだ、多分ウルフだから、一応注意しておけよ」



 今更注意するまでもないだろうけど、一応だ。



 ──とりあえずは、王太子の方へ移動しつつ、シャルに魔法を教えながら魔物を倒していこうか。



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