無敵の人 ─異世界起業 開発×営業×経営で現代帰還を目指します─
田所舎人
■第零章
あの日の匂いを今でも覚えている。
家の玄関を開けると鉄棒みたいな匂いがするなと思いながら、ランドセルを玄関に放って居間に向かう。
「ただいま」
返事は無い。
そこには倒れ伏した両親。その間から、歯を見せて笑う、黄色い衣の男が俺に歩み寄ってくる。
目に痛いほどの蛍光色の黄色が脳裏に焼き付く。
「子供だけは、僕を素直に見てくれる。でも、大人は違う。大人は、僕を素直に見ようとしてくれない」
べたり、べたり。赤い靴跡を床に残しながら俺に近づいてきた。
「子供が素直に僕を見てくれる世界を作るには、どうしても……親が邪魔なんだ。君達子供の素直な心を歪める、醜い親たちさ。子供を所有物と考え、自分の価値観を植え付ける――そんな醜い親さ」
足が動かない。声も出ない。ただ、心臓の音だけがやけに大きく響いていた。
赤い血溜まりがゆっくりと広がり、時間が過ぎていく。
奴は俺の背後に回り、両肩に骨ばった指が乗った。
「君はこれで親の呪縛から解放された。君は自由なんだ。誰にも歪められない、本当の“君自身”を生きられる」
奴は満足げに、息を吐くように笑った。
「もしも他に助けを求めている友達がいれば、これを渡すといい。その友達も助けてあげよう」
奴はそう言って俺の手に血の匂いを漂わせる黄色い布を握らせ、去っていった。
黄色い衣のハングマン。その名を警察が来て初めて知った。
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