第16話 友達の家族が強すぎて、隠し事ができない話 (月宮:視点)
「もう茜ったら……女の子を連れてくるなんて言ってたから安心してたのに、普通に恋人じゃない。いやだわ〜♪」
「やっぱりCongratulationsだったんだね。っていうかそうじゃないと学校に行かないもんね」
「だから何回言わせるんですか!!! 友達ですよ、と も だ ち っ ! !」
茜の悲鳴じみたツッコミが空しく響く中、私はただひたすらに気配を消し、目の前のハンバーグに集中するふりを続けた。
現在は4人で食事中だけど……私が会話に入る隙などない!
下手に割り込んだら処される!!
詰んだ!!!
「それにしてもチャンネル登録者100万人オーバーの子をお持ち帰りなんて、やるわね〜」
「恋人なら何かそれっぽいことしたんでしょ どう? どう?」
「してませんよ……」
やがて茜は全ての反論を諦めたように『……はぁ』と深いため息をついて立ち上がった。
「風呂沸いたみたいなので先に入ってきます。月宮さんは申し訳ないんですが、2階の奥の部屋で待ってて下さい。暫くしたら上がって交代するので」
「えっ、あぁ……うん、分かった」
そう言って茜ちゃんは浴室へと去っていった。
「その……じゃあ私も失礼――」
私も続くように席を立とうとする。
――が、二つの視線が矢のように突き刺さり、私の動きを縫い止めた。
「あら、まだ失礼しなくてもいいのよ? リビングでゆっくりしていきなさいな」
「そうそう、聞きたい事ならいっぱいあるんだし」
どうやら、お二人は逃がしてくれないようである。
こんなことなら、茜に『一緒にお風呂に入ろう?』とでも提案すればよかった。
でもそんな事したら、ガチ恋の茜ちゃんに何されるか分かったものではない。
一度無理やり押し倒されてるんだし。
……やっぱりその選択肢はないかな。
私は観念し、ゆっくりと椅子に座り直した。
「その……お手柔らかにどうぞ…………」
「そうね。じゃあ簡潔にフェス?っていうのかしら?、そこで何があったのか話してくれる?」
「……それくらいなら」
私は当たり障りのない範囲で事の顛末を話した。
フェスでのこと・カフェでの出来事・そして偶然にも同じ学校に通っていて、友達として一緒に過ごす時間が増えた事とかも。
「恋されてるのを分かってて友達になるなんて、貴女も変わってるのね〜。こっちは助かるからいいけど」
「っていうか、まだ何か隠してるでしょ。隠さず話して」
「え?」
明日菜ちゃんの真っ直ぐすぎる瞳が、私の心臓を射抜いてくる。
……茜が風呂から戻ってくる可能性を考えてだいぶ端折ったとはいえ、もうかなりの内容を喋ったはず。
私達の関係は別に長くないし、もはやネタ切れのレベルでこれ以上話すことなんて無いけど……
「お姉ちゃんが推し相手とはいえ、ただの友達のためだけに学校に通い続けるわけない」
「………………」
「――実は付き合ってるんでしょ?」
「付き合ってないよ」
私は食い気味に否定した。
「……なんか詩音さんの話、嘘くさいんだよね。じゃあ友達以上恋人未満ってこと?」
「茜ちゃんとはただの友達だし、それ以上でもそれ以下でもないかな」
というか、女の子同士で付き合うって何……?
その発想はどこから生まれてくるのだろう。
茜もそうだけどもしかしてこの家族は、同性愛的なことにも抵抗がないタイプなのだろうか?
……いや、私も茜のガチ恋を承知の上で友達をやっているのだから、別に抵抗はないけど……
なんて考えていた時だった。
「なら
「もちろん、して……」
――ない。
そう続けようとした言葉が、喉の奥でつっかえた。
脳裏にあの朝の光景が、鮮烈にフラッシュバックする。
床に押し倒され、手を拘束され、抵抗の隙もなく舌を捩じ込まれた、あの暴力的なキス。
屈辱的だったはずなのに思い出しただけで、身体の奥がじわりと熱を帯びる。
「ないよ…………」
ちょっとだけ震えた声で返事をしてしまった。
私は動揺を悟られまいと、目の前の麦茶のグラスに手を伸ばす。
冷たいガラスの感触が、火照った指先に心地よかった。
そして顔を上げた瞬間――私は絶望した。
そこには悪魔の笑みを浮かべた明日菜ちゃんが、ぶいれいんの公式サイトを開いたスマホを、これみよがしに見せつけていたのだ。
画面には去年クリスマス用に収録した、私の限定ボイスの購入ページが煌々と輝いている。
「詳しくぜーんぶ喋ってくれるよね、詩音さん?」
「いや、あの…………本当にキスとかしてなくて…………」
「ママ、一緒に聞く?これ」
「いいわね。私はそういうの知らないし、面白そう」
「わああああああああああああ!!!!!」
――友達の家族に私のボイスを聞かれるとか、どんな羞恥プレイだよ!
絶対に無理、嫌すぎる。
だけどあの日のことを話すのも、同じくらい恥ずかしい……
「ホント、本当に何も無かったから!私のこと信じてよ!!」
「あっ、買っちゃった」
「ぎゃあああああああ!!!!!!」
「何もしないって誓ってあげるから、ちゃんと話してよ。ねぇ早く」
「茜は基本お風呂で呆けてるから長風呂だけど、あんまり時間を使っちゃうと、ねえ……」
…………茜ちゃん含めたこの三人、本当に良い性格をしているようだ。
方向性は違うけど、確かに血の繋がりを感じられる。
「もう!!分かった!!!話すから!!」
---
結局私は学校で再会を果たした日の出来事を、二人に洗いざらい白状した。
それは私が茜ちゃんを声で操ったこと、
仕返しに押し倒されて無理やりディープキスを決められてしまったこと、
そして茜ちゃんはその後すぐに、私の事を避け出したこと、
私はバスを使って逃げようとしていた茜ちゃんを捕まえて、秘めてる想いを全部喋らせた後、学校に通い続けるよう縛りを結んだこと……などなど。
思い出したくもない記憶を、私は早口でまくし立てた。
「ちょっとお姉ちゃんシバいてくる」
全てを聞き終えた明日菜ちゃんが、静かに椅子から立ち上がった。
「ちょっと待ってえっ! そんなことしたら茜ちゃんが何するか分かんないよ!」
「そうそう。無駄に行動力だけあるんだから、あの子」
「確かに……」
「それにいいじゃない。犯罪スレスレみたいな事をやったとはいえ、結果は全部上手くいってるんだから」
母親の言葉に、明日菜ちゃんは渋々といった様子で座り直した。
「でもキスかぁ。絶対お姉ちゃん上手かったでしょ。人と話すこと以外なら基本何でも出来ちゃう人だし」
「まぁ……うん、気持ち…………良かったかな」
「そうだよね。私も一回お姉ちゃんとシた時に、頭おかしくなるかと思ったもん」
「え?」「ん?」
「あ、今のナシ。忘れて。かなり小さい時の話だから」
「…………お母さん、貴女たちの話を聞いてると怖くなっちゃうわねぇ〜」
その時、ガチャリとリビングのドアが開いた。
「月宮さん、2階に行ってなかったんですね」
「あ……うん」
「次、使っていいですよ。お風呂」
「分かった。じゃあ今から入っちゃうね」
……ようやくこの空間から解放された。
安堵と共に結構な疲労感がある。
これはもう風呂から上がった後、すぐに寝てしまうかもしれない。
頑張って起きないと。
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