第44話・近付く影04


「んじゃお米、こっちに置きますね」


「どうもすいません。

 すごく助かります。


 特にお米って、今すごく高くなって

 いるので―――」


俺は米の入った袋を、物置と思われる

部屋に運んでいく。


ここはレストラン『ラ・モンターニュ』、

ではなく……

近場にあった児童福祉施設で、


「自分はとある食料調達部門にいるので、

 いろいろとまあ、伝手があるんですよ。


 規格落ちとか、流通させられないもの

 とかも入って来るので―――

 捨てるくらいなら、と」


「そうなんですか!?

 でもあのお米、すごく美味しかった

 ですよ!」


ここの施設長である、60代くらいの

おばあさんは驚いた表情でそう返す。


そりゃそうだろうな。

本来なら『ラ・モンターニュ』の

特別メニュー行きのお米だが、


「味は美味しくても、やれ形が不ぞろい、

 ツヤが悪いと言って、規格外になって

 しまう事があるんですよ。


 何とも贅沢ぜいたくな話ではありますけどね」


実際は、一晩で収穫出来てしまうスピードも

さることながら……


何か最近は収穫量も上がっていて、

レストランに納入する分を差し引いても、

とても自分1人では消費し切れなくなって

しまったのだ。


そして今、米ならどこでも喜んでもらって

くれると思い―――

近場の福祉施設へ連絡したのである。


「でも、それを私たちが頂いても

 大丈夫なんでしょうか……

 すごく助かってはいるんですが」


俺は一通りの作業を終えると、施設長に

向き直り、


「もちろん、流通させたりしては

 ダメですよ?

 どこかに売ったりとか。


 これは単なる譲渡ですからね。

 だから―――」


俺はおどけるように両手をホールドアップの

ように広げて、


「これで俺がお金もらっちゃうと、

 晴れて犯罪者です」


「ふふ、それは大変ですわね」


そこでアラフィフの俺と老女は笑い合い、


「あ、あとこれもどうぞ。

 こっちは単純におすそ分けです」


「こちらは?」


大きなタッパーをのぞき込む彼女に、


「俺が住んでいるところの大家さんが、

 時々漬物を持って来てくれるんです。


 『こんなに食えませんよ!』って

 いつも言っているんですが……

 なかなか聞き入れてもらえず。


 今回、福祉施設に持って行きたいと

 申し出たところ、許可が出まして」


「あらまあ」


家庭用ゲーム機くらい大きなそれを、

近くのテーブルに置くと、


「それで味なんですけど―――

 結構うまいんですよね、コレ。


 こればかりは年の功と言いますか、

 絶妙な加減ですよ、ホント」


これも実際は、野菜の収穫量も予想以上に

上がってしまったので……

大家さんに渡したところ、片っ端から

漬物にしては、孫や親戚に送っている

との事。


当然それは俺にも差し入れられ―――

元があの魔法栽培の野菜なので、

まずいはずもなく。


「ありがとうございます。


 野菜も何もかも今高くなっているので、

 本当に嬉しいですわ」


「また何かあれば持ってきますので」


俺は施設長にあいさつすると、

福祉施設を後にした。



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