第33話 決死の潜入!オーディンの私室
夜。秘密の部屋。
テーブルの上には、神界の地図と、オーディンの宮殿の見取り図が広げられてる。
「オーディンの私室に潜入する。他に方法はあらへん。消された記録の原本は、あそこにしかない」部屋に緊張が走った。
オーディンの私室。神界で最も警備が厳重な場所。
「まず、問題点を整理しましょう。オーディン様の私室は、宮殿の最上階にあります」エリシアが地図を指差した。
「警備兵が常に二人、扉の前に立っている」アレクシスが続ける。
「それに、オーディン様自身がおられる。全知の神に気づかれずに侵入するなんて...」
「不可能に近い、っちゅうわけやな。せやけど、チャンスはある」
シグルーンさんが口を開いた。「三日後、重要な神々の会議が開かれる。オーディン様は必ず出席される」
「会議は...どれくらい続くんですか?」
「最低でも一時間。おそらく二時間は席を外すはず」
「二時間...十分や。その時間に潜入する」
「でも、警備兵は?」ミアが不安そうに聞く。
「それも考えてある」うちは見取り図を指差した。
「会議中は、警備兵の数が減る。みんな会議室の警備に回されるからや。では、役割分担を決めよう!」
「実際に潜入するのは、うちとエリシア」
「私も?」エリシアが驚いた顔をする。
「せや。エリシアは幻術魔法が得意やろ?それに、うちらは小柄やから目立たへん」
「確かに...」
「モルドレッドとガウェインは、外で陽動作戦」
「陽動?」
「せや。もしオーディンが早く戻ってきたら、外で騒ぎを起こして注意を引く」モルドレッドが不敵に笑った。
「それなら任せろ。派手にやってやる」
「アレクシスとミアは、脱出経路の確保」
「わかりました」アレクシスが頷く。
「シグルーンさんは、見張りと情報収集。オーディンの動きを常に監視してください」
「了解よ」
うちは深呼吸した。
「制限時間は三十分。それ以上は危険や。三十分で、証拠を見つけて、記録して、脱出する...三日後、決行する!」
――― 三日目の朝。
宮殿の廊下は、いつもより静かやった。多くの警備兵が会議室の警備に回されてる。
うちらは物陰に隠れながら、慎重に進んだ。
「あそこ...」エリシアが指差した。
階段の上に、オーディンの私室への扉が見える。
扉の前に、警備兵が一人だけ立ってる。
「一人だけ...チャンスや」うちは小石を拾っって反対方向に投げた。
カラン。
警備兵が音の方を向いた。
「今や!」うちらは素早く階段を駆け上がり扉の前に到着した。
エリシアが魔法を唱えた。「《解錠(アペルト=セラ)》」
カチャリ。
鍵が開く音がした。
「入るで!」うちらは扉を開けて、中に飛び込んだ。
はぁ...はぁ...
心臓が激しく鼓動してる。
「成功した...第一段階は...」エリシアが安堵の息を吐いた。
部屋の中を見回すとオーディンの私室は、想像以上に豪華やった。
大理石の床。金色の装飾。天井には美しいフレスコ画。
けど、不思議なほど無機質な雰囲気。まるで、誰も住んでへんみたいや。
「書斎は...あっちや」うちは奥の部屋を指差した。
扉を開けると、大きな書斎が現れた。
壁一面の本棚。巨大な机。そして、鍵のかかった引き出し。
「あの引き出しや」うちは机に近づいた。
引き出しには、複雑な魔法の鍵がかかってる。
「エリシア、頼む」
「任せて」 エリシアが再び魔法を唱えた。今度は時間がかかる。
一分...二分...
「くっ...複雑すぎる...」エリシアの額に汗が浮かぶ。
「焦らんでええよ。ゆっくりでええから」
うちは周囲を警戒しながら、エリシアを見守った。
やがて―――
カチャン。
「開いた!」引き出しが開いた。
中には、古い書類の束が入ってる。
「これや...!」うちは書類を取り出した。
一枚目の表紙には、こう書かれてた。
『計画書:完全なる秩序の実現』
三十年前の日付。実験の目的、方法、被験者のリスト...
すべてが、詳細に記録されてる。
「こんなん...」うちの手が震えた。
被験者は、数百人。すべて、意図的に堕落させられたエインヘリヤル。
その目的は『完全なる秩序の実現』。
感情を持つエインヘリヤルを排除し、完全に管理された世界を作る。
それが、オーディンの野望やった。
「レナさん、これを記録しましょう」エリシアが魔法具を取り出した。
魔法で書類の内容を映像として記録していく。
一ページ、また一ページと。
十分経過。
まだ半分も終わってへん。
「急がな...」
その時―――
廊下から、足音が聞こえてきた。
うちとエリシアは、顔を見合わせた。
「まさか...」足音が近づいてくる。そして、扉が開く音。
誰かが、私室に入ってきた。
「...妙だな」その声を聞いた瞬間、うちの血が凍った。
オーディン。予定より早く、戻ってきた。
「隠れるで!」うちは小声で叫んだ。
書斎の中を見回すけど、隠れる場所がない。
「エリシア!」エリシアが震える手で、呪文を唱え始めた。
「《隠形(インヴィジブル=ヴェール)》...」
二人の体が、透明になっていく。
オーディンが、書斎に入ってきた。
うちは息を止めた。
エリシアの手を握る。二人とも、手が冷たく震えてる。
オーディンは、ゆっくりと部屋の中を見回した。
オーディンが、机に近づいてきた。
引き出しが開いてることに気づいた。
「...誰か、ここに入ったのか」低い声。怒りが滲んでる。
オーディンが周囲を見回す。
その視線が、うちらの方に向いた。
(見つかる...!)
心臓が爆発しそうなくらい、激しく打ってる。
オーディンが一歩、近づいてきた。また一歩。
手を伸ばせば、届く距離。
「気配は...ある。しかし...」オーディンが呟いた。
その時―――
ドォォォン!!
外で、巨大な爆発音が響いた。
オーディンが振り返った。
「何事だ!?」足音が走り去る。オーディンが部屋を出ていった。
扉が閉まる音。しばらく、静寂。
「...はぁ...はぁ...」うちは床に座り込んだ。
「モルドレッドさん...陽動してくれた...」エリシアも、震えた声で言った。
「助かった...けど、今がチャンスや」うちは立ち上がった。
「記録を続けて。うちは見張りする」
「はい!」
エリシアが残りの書類を、次々と記録していく。
五分経過。
「終わった!」エリシアが叫んだ。
「よっしゃ!脱出するで!」
書斎を出て、私室を出る。
廊下に出た瞬間―――
「そこで止まれ!」警備兵が二人、剣を抜いて立ってた。
「くそっ!」
うちは剣を抜こうとしたけど、エリシアが止めた。
「戦ったら、時間がかかります!」
「せやけど...!」
その時、後ろから声がした。「こっちです!」
振り返ると、ミアが立ってた。いつの間に!?
「早く!」ミアが手招きする。
うちらはミアに向かって走った。
警備兵が追いかけてくる。
「《幻霧(イリュージョン=ミスト)》!」ミアが魔法を唱えた。
廊下が霧で満たされる。視界が奪われた警備兵が、立ち止まった。
「今のうちに!」
曲がり角を曲がって、また曲がって。
やがて、アレクシスが待ってる場所に到着した。
「こっちです!」
アレクシスが隠し通路を開けた。うちらは飛び込んだ。
通路を走る。走る。外に出た。新鮮な空気が肺に入ってくる。
「逃げ切った...」うちは膝に手をついた。
「モルドレッドさんとガウェインさんは?」
「もう合流地点に向かってます」アレクシスが答えた。
「ほな、うちらも行こう」
――― 秘密の部屋に、全員が集まった。
モルドレッドとガウェインも、無事に戻ってきてた。
「お疲れ様」シグルーンさんが労ってくれた。
「成功したのね」
「ギリギリやったけどな」うちは苦笑いした。
「証拠は?」
「ある」エリシアが魔法具を取り出した。
空中に映像が映し出される。計画書の内容。実験記録。被験者リスト。
「これは...」モルドレッドが息を飲んだ。
「三十年前の大規模実験...被験者が三百人以上...」ガウェインが呆然と呟く。
「目的は『完全なる秩序の実現』...」アレクシスが記録を読み上げた。
「感情を持つエインヘリヤルを排除し、完全に管理された世界を作る...」
部屋に重い沈黙が落ちた。
オーディンの野望の全貌が、明らかになった。
何十年も、何百人もの犠牲を出して、オーディンは自分の理想を追求してきた。
「これで...戦える」うちは拳を握りしめた。「この証拠があれば、神々を説得できる」
「でも、レナ」シグルーンさんが心配そうに言った。
「オーディンは、侵入に気づいたわ。これから、監視が厳しくなる」
「わかってる」うちは頷いた。「時間がない。急がなアカン」
「次は?」エリシアが聞いた。
「この証拠を使って、味方を増やす。中立派の神々、疑問を持ってる神々...一人でも多く、うちらの側につけなアカン」
一人一人は小さい力かもしれへん。けど、七人集まれば、大きな力になる。
「行くで、みんな」うちは拳を前に突き出した。「オーディンを止める。この不正を、絶対に正す」
七人の拳が、一つに重なった。
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いつも読んでくれてありがとうございます!
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