第29話 嵐の予兆!神界の陰謀って何や?
ヴォルンドとの戦いから、数日が経った。
俺たちは神殿の訓練場で、軽い訓練をしていた。
「やっと普通の日常に戻れたな」
俺は剣を振りながら呟いた。
「そうですね」
エリシアが微笑んだ。
「あの戦いは、本当に大変でしたから」
「でも、勝てて良かった!」
ミアが元気よく言った。
俺たちの周りには、他のバルキリーたちが集まっている。
「レナ様、すごかったです!」
「ヴォルンドを倒すなんて!」
賞賛の声が飛んでくる。
俺は少し照れながら、頭を掻いた。
「みんなのおかげや」
「そうですよ。チームワークの勝利です」
アレクシスが頷いた。
フレイヤ様も、遠くから微笑んで見守ってくれている。
(平和やな...)
俺は心の底からそう思った。
でも、その時やった。
「あれ?ヘイムダル、最近見いひんな」
「そういえば...」
エリシアが不思議そうに言った。
「彼は...何か企んでいるかもしれません」
フレイヤ様が小さく呟いた。
その言葉に、俺は少し不安になった。
――― その時、神殿に鐘の音が響いた。
ゴォォォォン...
重く、威厳のある音。
「あれは...!」
バルキリーたちがざわつく。
「最高神からの召喚の鐘!」
「オーディン様が...レナたちを...!」
俺は息を呑んだ。
(オーディン...)
過去の記憶が蘇る。
あの圧倒的な力。冷たい視線。仲間たちが次々と倒れていった光景。
「レナさん」
フレイヤ様が真剣な顔で俺を見た。
「行きましょう。最高神の召喚です」
「...はい」
俺は頷いた。
「みんな、行くで」
エリシア、ミア、アレクシス、モルドレッド、シグルーン、ガウェイン。
みんなが俺の周りに集まる。
「大丈夫」
エリシアが優しく言った。
「私たちは成長しました」
「うん!前みたいに負けないよ!」
ミアが拳を握る。
「俺たちには、新しい力がある」
アレクシスが頷いた。
俺は仲間たちを見回して、少し安心した。
(せやな。もう前の俺たちやない)
「よっしゃ、行こう」
俺たちは、謁見の間へと向かった。
――― 巨大な扉の前に立った時、俺は思わず立ち止まった。
「ここ、前に来た場所や...」
この扉の向こうで、俺たちはオーディンと戦った。
あの時の絶望感が、今でも心に残っている。
でも―――
(今は違う)
俺は拳を握りしめた。
(俺たちは、あの時より強くなった)
扉が、ゆっくりと開いていく。
ギィィィィ...
重い音が響く。
広大な謁見の間。
天井が見えないほど高い。
そして、玉座の上に。
オーディンが座っている。
白い長髪。金色の片眼。あの時と変わらぬ、圧倒的な威厳。
「近う寄れ」
オーディンの低く、重い声が響いた。
あの時と同じや。
俺たちは、警戒しながら前に進む。
「オーディン様」
フレイヤ様が頭を下げた。俺たちも礼をする。
オーディンが俺たちを見下ろす。
「また会ったな、レナ・アストリア」
その言葉に、俺は真っ直ぐ答えた。
「はい」
――― 「お前たちは、ヴォルンドを倒した」
オーディンが静かに言った。「あれほどの力を持つ者を倒すとは――その実力は認めよう」
俺は驚いた。(認めてくれるんか...?)
「ありがとうございます」エリシアが礼を言った。
でも、オーディンの表情が変わった。
「だが」冷たい声。「真に神界を守る力があるか、それを証明せねばならぬ。お前たちの救済方法――感情を重視する方法が、本当に有効なのか。それを試す」
「試す...ですか?」エリシアが聞いた。
「そうだ」オーディンが頷く。「辺境の地で、異変が起きている。堕落エインヘリアルが、大量に発生している」
俺は驚いた。「え...何で急に?」
「原因は不明だ」オーディンが答えた。「だが、このまま放置すれば、現世に災厄をもたらす。お前たちに、これを解決せよ。期限は一週間だ」
「一週間!?」ミアが驚きの声を上げた。
「短すぎませんか!」アレクシスが抗議した。
オーディンが冷たく見る。「できぬというのか?」
その視線に、俺は歯を食いしばった。
(くそ...でも、ここで断るわけにはいかへん)
「...やります」俺は答えた。
――― でも、何か引っかかる。
「オーディン様」俺は思い切って聞いた。
「何だ?」
「なんで、急に堕落エインヘリアルが大量発生したんですか?」
オーディンが少し沈黙した。「...わからぬ」
「でも、タイミングが変やないですか?」俺は続けた。「俺たちがヴォルンドを倒した直後に。まるで、誰かが仕組んだみたいに」
周囲がざわついた。
「レナ!」エリシアが止めようとした。
でも、俺は止まらへん。「もしかして...」
「黙れ」オーディンの声が響いた。
ズン...
圧倒的な威圧感。俺は思わず息を呑んだ。(やばい...あの時の感覚や...)
「余計な詮索は無用だ」オーディンが冷たく言った。「命令に従え」
俺は、黙るしかなかった。(くそ...)
――― 「下がってよい」
オーディンが手を振った。
俺たちは礼をして、謁見の間を出た。ギィィィ...扉が閉まる音。
廊下に出ると、俺は拳を握りしめた。
「くそ...何か隠してる...」
「レナさん、落ち着いて」エリシアが宥めた。
「でも、おかしいやろ?ヴォルンドを倒した直後に、大量発生なんて」
「確かに...」アレクシスも頷いた。「タイミングが良すぎる」
フレイヤ様が深刻な顔をした。
「レナ、あなたの直感は正しいかもしれません。こちらへ」
フレイヤ様が別室に案内してくれた。
――― 別室に入ると、フレイヤ様が扉を閉めた。
「ここなら、盗み聞きされません」
俺たちが集まる。
「フレイヤ様、何を知ってるんですか?」
俺は真剣に聞いた。
フレイヤ様が深呼吸してから、静かに語り始めた。
「オーディン様は...変わりました。100年前の大混乱以降、感情を完全に否定するようになった。そして、新しい救済方法を排除しようとしている」
俺は気づいた。
「それって...俺たちのこと?」
「はい」フレイヤ様が頷く。「あなたたちの救済方法は、感情を重視する。それは、オーディン様の方針と真逆です」
フレイヤ様の表情が、さらに深刻になった。
「でも、ヴォルンドを倒したあなたたちの実力は認めざるを得ません。だから、オーディン様は考えたのです――わざと難しい試練を与え、失敗させる。失敗すれば『能力不足』として正当に排除できる」
エリシアが息を呑んだ。
「つまり...罠...」
「でも、もし成功したら?」アレクシスが聞いた。
「その時は、辺境の問題が解決する」フレイヤ様が答えた。「オーディン様にとって、どちらに転んでも損はありません」
「卑怯や...」
俺は拳を握りしめた。
ミアが震えた。「そんな...ひどい...」
重い沈黙が流れた。俺たちは、黙って考える。
(罠...かもしれへん...でも...)
――― やがて、俺は顔を上げた。
「わかった」
「え?」みんなが驚いた。
「行くで。辺境に」
「でも、レナさん!罠かもしれないのよ!」エリシアが叫んだ。
「せやな。でも」俺は笑顔を見せた。「堕落エインヘリアルを放っておくわけにはいかへん。それに、オーディンの企みを暴くチャンスや。現場に行けば、何かわかるかもしれん」
アレクシスが頷いた。「そうだな」
エリシアも微笑んだ。「私も賛成です」
ミアも元気を取り戻した。「ミアも行く!」
「僕も」モルドレッドが言った。
「私もです」シグルーンが頷いた。
「俺もだ」ガウェインも拳を握る。
フレイヤ様が心配そうに見た。「でも、危険です」
「大丈夫」俺は拳を握った。「俺たちには、仲間がおる。みんなで力を合わせれば、何とかなる」
七人が手を重ね合わせた。
「よっしゃ、行こう!」
俺たちの声が、部屋に響いた。
――― その夜。
場面は変わって、オーディンの私室。暗い部屋の中、窓の外には星空が広がっている。玉座に座るオーディンの前に、一人の男が跪いていた――ヘイムダルだ。
「オーディン様、レナたちは出発しました」
「そうか」オーディンが静かに頷いた。「計画通りだな」
「はい」ヘイムダルが不気味に笑う。「辺境の実験は順調です。堕落エインヘリアルの大量生成に成功しました」
「ヴォルンドを倒した実力は認めざるを得ぬ」オーディンが窓の外を見た。隻眼が、冷たく光る。「しかし、感情重視の救済など邪道。わざと難しい試練を与えた。彼らが失敗すれば、正当に排除できる」
「そして、成功すれば?」ヘイムダルが聞いた。
「その時は、辺境の問題が解決する」オーディンが冷たく笑った。「どちらに転んでも、私に損はない」
オーディンの声が、低く響く。
「100年前の悲劇を繰り返さぬため――感情を排除した、完璧な秩序を作る。伝統こそが、秩序の根幹だ」
ヘイムダルが従順に頭を下げた。
二人の影が、月明かりの中で揺れている。陰謀が、確かに動き始めていた。
――― 翌朝。
神殿の入口に、俺たち七人が装備を整えて集まっていた。剣、魔法の杖、防具――すべての準備が整った。
「準備はええか?」俺が確認すると、「はい」「うん」「おう」とみんなが答える。
フレイヤ様が見送りに来てくれた。
「気をつけて」優しい声。
「はい。ありがとうございます」俺はフレイヤ様に礼を言った。「必ず、真実を暴いてきます」
フレイヤ様が微笑んだ。「信じています」
俺たちは、辺境への道を歩き始めた。空は曇っている。重い雲が、空を覆っていた。
「嵐の予感がするな」アレクシスが呟いた。
「せやな」俺は頷いた。「でも、俺たちなら大丈夫や」
七人の背中が、遠ざかっていく。フレイヤ様が、祈るように見送っている。
「どうか、無事で...」
その声は、風に消えていった。
――― 道を歩きながら、俺は考えていた。
(オーディン...あんた、何を企んでるんや)
(100年前の大混乱...)
(感情を否定する理由...)
(全部、繋がってるんやろうか)
「レナお姉ちゃん」ミアが俺の袖を引いた。「何や?」
「大丈夫?難しい顔してる」
「ああ、ごめんな」俺は笑顔を作った。「ちょっと考え事してただけや」
「もし怖かったら、言ってね。ミアが守ってあげるから」
ミアが優しく言った。俺は思わず笑った。
「ありがとうな、ミア」
エリシアも微笑んだ。「私たちが一緒です」
「ああ。頼りにしてるで」
俺は仲間たちを見回した。
(そうや。俺には、こんなに素晴らしい仲間がおる)
(だから、何があっても大丈夫や)
道は、まだ長い。辺境まで、数日はかかる。でも、俺たちは止まらへん。
真実を暴くために。
堕落エインヘリアルを救うために。
そして、オーディンの企みを阻止するために。
「よっしゃ、行くで!」
俺は拳を握りしめた。仲間たちも、力強く頷く。
七人の影が、曇り空の下を進んでいく。遠くで、雷鳴が響いた。
ゴロゴロゴロ...
嵐が、近づいている。でも、俺たちは恐れへん。どんな嵐が来ようと、みんなで一緒なら乗り越えられる。俺は、そう信じていた。
(待っとけよ、オーディン...必ず、真実を暴いたる)
決意を胸に、俺たちは前に進んだ。新たな戦いが、始まろうとしていた。
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こんにちは、こんばんは作者です!
いつも読んでくれてありがとうございます!
神界に隠された陰謀とは...?
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