魔王の継承:勇者の願い


聖女への問いかけ

国際協定締結から時が経ち、ルナは15歳、カレンは13歳。平和な日常の中、シオンは娘たちの将来について、フィオナと静かに話し合っていた。


「なぁ、フィオナ」シオンは、ルナが魔界の希少鉱物の構造式を熱心に学んでいる姿を横目で見ながら言った。「ルナとカレンは、俺とリリスの血を引いてる。人間側でもあり、魔界側でもある。お前は、あいつらを勇者としても、魔王としても育てるつもりなのか?」


フィオナは、書類から顔を上げ、穏やかな笑みを浮かべた。


「いいえ、シオン様。貴方たち夫婦が命を懸けて作ったこの世界では、誰かに役割を押し付ける必要はありません。私は、本人の意思を尊重する、と決めています」


シオンは納得し、その場でルナとカレンを呼びつけた。


「おい、ルナ、カレン!ちょっと聞かせてくれ。お前たち、将来、勇者になりたいか?それとも魔王になりたいか?」


娘たちの決断

ルナとカレンは顔を見合わせた後、迷いなく、そして同時に答えた。


「私は、魔王になりたい!」(ルナ)


「私も、魔王!」(カレン)


シオンは、予想外の結果に、全身の魔力回路がショートしたかのような衝撃を受けた。


「な、なんでだよ!? なんで勇者はダメなんだよ!」シオンは、父親としてのプライドと、勇者という役割への複雑な思いから、思わず叫んだ。


ルナは、冷静に、そしてストレートに父の心を抉った。


「だって、お父様みたいになりたくないから」


カレンも、無邪気だが痛烈な一言を続けた。


「そうよ。お父様は、恥ずかしいし、いつも命を懸けて泣いている。私たちは、お母様やフィオナおば様みたいに、優雅に、座って世界を動かしたいの」


勇者の心からの願い

シオンは、再びガチ泣き寸前のショックを受けた。


「うわあああ! 恥ずかしいだと!? 俺はな、命を懸けて恥ずかしいんだぞ! それを否定するのか!」


シオンは、その場で頭を抱えて泣き崩れようとしたが、その時、彼の心に、過去の戦場の記憶と、偽りの勇者としての真実が蘇った。


彼は、泣きそうな顔を押し殺し、義肢の拳を強く握りしめた。シオンは、ぐっと声を飲み込んだ後、娘たちを見つめた。


「そ、そうか……魔王か」


彼の目に、嫉妬や落胆の色はもうなかった。そこにあったのは、父親としての純粋な安堵だった。


シオンは、心からそう願った。


「そうだよな。勇者なんかになるな。戦争のために、誰かの兵器に使われるくらいなら……お母さんのように、誰も手出しできない『魔王』になってくれ」


シオンは、魔王になることを選んだ娘たちの頭を、力強く抱きしめた。それは、偽りの勇者が、最高の平和の中で娘たちに贈った、最も誠実な祝福だった。

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