私たちの結晶:ルナの誕生


新しい命の光

メタルゴーレムドラゴンの事件から数か月。シオンは依然として魔力義肢の完全な調整と、爆発で消耗した肉体の再生のため、リリス専用の治療室のベッドに釘付けになっていた。一方、聖女フィオナは、新生児の世話に専念するリリスの代わりに、新しい人類統一政府の運営という重責を担っていた。

そして、その日は来た。


壮絶な痛みの後、リリスの腕の中に抱かれたのは、魔族の深紅の瞳と、勇者の金色の髪を受け継いだ、一人の愛らしい女の子だった。


部屋は、魔力治療と出産後のケアが行き届いた静かな空間で、シオンはベッドから上半身を起こし、その小さな命を畏敬の念をもって見つめていた。リリスの顔には、魔王としての威厳ではなく、母としての安堵と至上の幸福が満ちていた。


聖女の問いかけ

シオンは動けないため、フィオナが代わるようにその赤子をそっと抱き上げた。小さな命の温かさと、シオンとリリスの激しい道のりの結晶であることに、フィオナの瞳は潤んでいた。


「リリス様、お疲れ様。貴女は本当に……偉大だわ」


フィオナは、静かに眠る赤ん坊の頬にそっとキスをし、リリスに微笑みかけた。


「ねぇ、名前はどうするの?」


リリスは、シオンの左腕に自分の手を重ねたまま、安らかな表情で答えた。


「もう決めてあるの。あの人と、この子の未来について、たくさん考えて」


「あの人」とは、もちろんシオンのことだ。シオンは、口を開きかけたが、リリスの静かな視線に遮られ、代わりにその言葉を聞くことにした。


フィオナは、赤ん坊を抱く腕にさらに力を込め、溢れんばかりの愛情を込めて尋ねた。


「教えてよ、貴方達の子の名前を」


月の名の意味

リリスは、目を細め、その名に込めた願いを語り始めた。その言葉は、もはや魔王の戦略でも、勇者の脅迫でもない、ただ純粋な未来への希望だった。


「この子には……ルナ、と名付けたの」


「ルナ……」フィオナはその名前をそっと繰り返した。夜空を照らす、静かで美しい光。


リリスは、静かに微笑んだ。


「ええ。ルナ。月のように、人の世も魔界の世も、どちらの世も分け隔てなく、優しく照らしてくれる、そんな子になってほしくて。私たち夫婦の、新しい世界の象徴としてね」


シオンはベッドの上で、その言葉を聞きながら、目頭が熱くなるのを感じた。彼が命を懸けて探し求めた「戦争の向こう側」は、リリスという愛と、ルナという新しい命によって、確かに実現したのだ。


「……ちくしょう、ずるいぜ、リリス」


シオンは、義肢の制御を忘れ、その金属の掌で自分の涙を拭った。


新しい世界は、偽りの勇者と、優しい魔王の間に生まれた光の娘によって、ついにその夜明けを迎えたのだった。

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