第52話 赤き雷嵐の名は

 相対するは赤きストームJ!

「人形、お前は疑問に思ったはずだ! 何故、自分が虹死病イリーテムに対する高い耐性を持つのか! レベル四の攻撃を直に受けながら、発症せず傷を常人より早く修復させたのか! 簡単な話だ! お前の身体は、虹死病イリーテムを蔓延させるキャリアーとして製造された人造人間、その試作体だからだ!」

 常人を凌駕する身体能力や虹死病イリーテムに対する高い免疫、自然治癒能力を踏まえれば、病を蔓延させるために造られた人間なのに納得できてしまう。

 補足するようにダブルが網膜にデータを投影する。

 本物のトオミネ博士から受け取ったデータと相違はない。

「完成系こそ、このアルパだ! 虹死病イリーテムにて地球人類がいかなる愛を示すか、デザインが人形とそっくりなのは、リリに対する当てつけだ!」

 趣味が悪いと、ホムラとダブルは揃って吐き捨てる。

 ただ指先が震えを自覚する。

 アルパはただ立っているだけだ。

 それなのに威圧感が心臓を握り潰さんとしている。

「やれ、アルパ、実験を再開する前に、邪魔者を排除せよ!」

 アルパが動く。

 一歩踏み出したとホムラが認識した時、戦闘用機動鎧アーマーメイルの左機械腕が肩口から弾け飛んでいた。

 動作の起こりを一切感じなかった。

 弾け飛んだとする衝動すら感じなかった。

「こ、こいつ!」

 肩口から弾け飛ぶスパークとケーブル。

 動いたと認識できなかった。

 気づけば背後に立っていた。

『これなら、どうよ!』

 ダブルが機械鎧の火器官制を操作する。

 脚部一部装甲が展開され、内蔵されたマイクロミサイルが顔を出す。

『いてもうたれ!』

 爆音をあげて撃ち出されるマイクロミサイルは、餓えたピラニアの如くアルパに迫る。

 アルパは回避行動を一切取らない。

 ただ右手を軽く振るえば、羽虫でも落とす要領で降り注ぐマイクロミサイルを全て叩き落としていた。

 着弾にて生じた爆煙がアルパの視界を塞ぐ。

 不動のままアルパは仮面越しの眼球運動のみで周囲を把握している。

 爆煙の奥から影が揺らめく。

 背面スラスターを全開にして機械鎧は突撃する。

 健全な機械の右拳でホムラは殴りにかかった。

 だがアルパは左手を掲げては軽々と受け止めている。

 数値上、直撃すれば厚さ一〇メートルの鉄板すら打ち砕く威力がある。

 それが轍一つ刻むことなく受け止められた。

 不吉な軋む音が機械の拳から走る。

 亀裂が拳の先から生じた時、間接ごと二の腕にかけて粉砕されていた。

 金属部品と潤滑油が飛び散り、周囲を汚す。

「なんてパワーだ!」

 ホムラは機械脚部裏に備えられたローラーを駆動させる。

 高速でバックスピンをかけ後方に下がる。

 バルカン砲を右肩部から放つも牽制すらならない。

「無駄だ! アルパは私たちの最高傑作! 人形ごときに負けるはずがない! その動力には高純度に精錬された七晶石ゲミンニュウムを使用しとる! 石ころ二つのおまえたちとは違うのだよ!」

 炉心の上に浮かぶトオミネは高みの見物で笑っている。

 アルパの拳が機械の右脚を砕く。

 体勢を崩して倒れ込む機械鎧。

 今度は左脚を掴みとり力づくで引きちぎった。

 動けなくなった戦闘用機動鎧アーマーメイルから飛び出したホムラを狙い澄ましたかのような蹴りが放たれる。

 死神が持つ鎌のように大きくなぎ払われた一蹴り。

 真っ正面から受けたホムラは壁際まで蹴り飛ばされ、壁面に巨大な陥没痕を刻む。

 壁面に埋め込まれたホムラにアルパは拳を繰り出した。

 一打、二打と豪雨を疑うような拳の乱打。

 飛び交う拳は壁面を砕き、深さを増す。

 ブンと豪雨の拳の中より光が放たれ、アルパを弾き飛ばす。

 交差した両腕の表面は赤熱化しており、トオミネは目を疑った。

「好き放題殴り過ぎだ」

 ホムラが陥没口から、ゆっくりと現れる。

 青きアーマーには無数の亀裂が走り、頭部に至れば左半分が破損、中よりホムラの顔を覗かせている。

 そして右手には光輝く剣が握られていた。

「相棒、まだ行ける?」

『もちろん、人をゴミ扱いしている奴らをけちょんけちょんのゴミ箱送りにしてやるよ!』

 その意気だとホムラは強がりだろうとほくそ笑みながら、半壊するヘルメットを脱ぎ捨てる。

 アーマーは亀裂走ろうとまだ生きている。

 一方でヘルメットは度重なる打撃により、かぶっていようと効果をなくしている。

「バカめ、拳で勝てぬからと武器を持とうと同じ!」

 アルパもまたホムラと同じグリップを取り出せば、先端より光の刃を発声させる。

 ストームJのデータを元にしているならば、武装も同じなのに今更驚かない。

「せいっ!」

 アルパが光刃を振るう。

「ふっ!」

 ホムラもまた振るう。

「はっ!」

 接触の火花が飛び散り、互いに譲らない。

 切り結び、切り上げ、打ち合い、押し合いと譲らない。

「ば、バカな、何故まともに斬り結べる! 数値ではアルパが上回っているはずだ! なんだその動きは! 計算ではとっくにまっぷたつになっているはずだ! なんだその力は! なんだその数値は! お前はただの人形ではないのか!」

 トオミネから余裕が消える。

 消え、一進一退を繰り返す光景に狼狽する。

 切り結ぶホムラは息を切らしながら威勢よく返す。

「いや、ただの――人間だよ!」

 偽りの身体だろうと、この心は本物だから。

『行動パターンが読めてきた! こいつ、完成系だからか、ボクたちみたいに感情がないんだ! 余分を省いた機械的な人間! 先の先の先の行動を予測すれば対処できる!』

 ダブルがアルパの行動を予測してホムラに伝えてくれる。

 ただ伝えるだけでは対処できない。

 度重なる戦闘経験を経た故に為せる連携であった。

 忘れてならないのは、ヒーローだろうと元は一人の人間。

 人間なのだ。

 変身できるからヒーローではない。

 ヒーローを夢見て、願ったからこそヒーローとして立っている。

 その根幹は人の心、今ここにいる強き意志。

 誰かを救いたいと願う強い想いが根幹となり、ヒーローではなく人間としての力を引き出させている。

 なによりヒーローは、人は、一人で戦っているのではないと気づけたからこそ、ダブルと繋がったホムラは戦える。

「あ、ありえん、ありえてたまるか!」

 アルパ持つ光刃が宙を舞う。

 行動を予測されたことで斬撃をかちあげられた。

 視線が一瞬だけ、宙を舞う光刃にアルパが向けたのをホムラとダブルは見逃さない。

<STRIKE!>

 電子音声がベルトから響く。

 ホムラの右脚部に青白きプラズマが集う。

 視線を戻そうがもう遅い。

『「ストームキックストライク!」』

 青白き雷光のキックがアルパの胸部を確かに直撃する。

「わ、私たちの最高傑作が、人形ごときに!」

 愕然とした声をトオミネが漏らした時、アルパは青白い爆発に包まれながら、炉心にその赤き身体を激突させていた。

 炉心が揺れる。

 青白きプラズマが誘爆を引き起こす。

<炉心に異常事態を確認。通常航行に支障を来す恐れあり。当艦は緊急ワープ航行に入り地球を目指します。カウント省略>

 不吉な艦内アナウンスが流れ込む。

 炉心は誘爆し続けようと、まだ形を保っている。

 航行を完全に阻止するには破壊するしか手がない。

「まだだ! 人形とゴミごときに我らの実験を終わらせはさせん! 私、私たちは知りたいだけだ! 愛を! 人間が何故、愛を求めながら愛を拒絶するのか! 知らなければならない! 解析しなければならない!」

 ヒーローが膝をつこうと諦めぬように、探求する者の足掻きもまた終わらない。

 

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