第44話 模倣体ーーシュミラクラ
「はっはっはっ! おら、どうした、変身しろよ! どうした、変身しないのか! ああ、できねえよな! てめえみたいな人形はゴミがいないと変身できないもんな!」
ミカを抱えたままホムラは走る。
白き床を蹴り、迫り来る死から一秒でも遠ざからんと駆ける。
だが相手はイルクス。
常人を凌駕する身体能力で距離を詰めては、あざ笑い嘲笑しながら鋭利な爪を振りかざす。
「ぐうっ!」
爪先が背中をかすめ、焼けるような激痛にホムラは呻く。
もてあそんでいるとホムラは歯噛みする。
あの爪は鋼鉄の扉さえ切り裂く鋭利さがある。
実際、扉を塞いで妨げようと、紙切れのように扉を引き裂いてくる。
爪を振り下ろし創傷を背中に刻み続けながら笑っている。
ガンガンガンと駆け足音とは違う硬い音同士が、ぶつかりあう微かな音をホムラの鼓膜が拾う。
「ホムラさん、私、私は!」
「絶望するのはまだ早いぞ!」
義姉リリは並々ならぬ憎悪を抱いている。
リリが敵施設にいることこそ答えだが、ミカの義妹としての本能が答えを否定している。
「あの人がリリかどうか偽物か、僕には分かりません! ですけど、あなたが違うのなら、違うはずです! それに、もし本当に敵なら、あなたのためにメモを残すはずがない! もしリリをああした元凶がいたとしたら、リリは万が一を想定して、暗号なる形であなたに託した。誰よりも信頼していたから!」
ミカの震えた唇が止まる。強く噛みしめる。
「おいおい、変身もできず、ただ女一人抱えて逃げることしかできないのが、虚勢張っちゃってさ!」
背後からラオの声が響いた時、眼前に獅子の顔が大写しとなる。
気づいた時、ホムラは右わき腹に足先を突き入れられ、ミカを抱えたまま通路の横転を強要される。
「ほらほら、お人形さんよ、のんきに仲良くお昼寝する暇なんてないぜ~!」
倒れ伏す二人を追撃するようにラオが踏みつけるように蹴りを放つ。
激痛走る右わき腹に歯を食いしばるホムラ。
全身をバネのように使ってミカを抱えたまま、跳ね上がり踏みつけを回避した。
獅子の足裏は通路を砕き、衝撃が壁から天井裏にある通気口まで亀裂を伝播させる。
「あ~つまんね~! ほら、一発殴っていいから、かかってこいよ。お前、逃げてばっかりでつまねんだよ~、これだから人形は!」
ラオは飽きっぽい子供のように駄々をこねる。
全身に伝播した激痛をどうにか耐えるホムラだが、蓄積するダメージにて膝をつく。
「ほ、ホムラさん!」
「だ、だいじ、ょうぶ、だ」
強がろうとホムラのダメージは重い。
変身できず、まともに戦う力はない。
「人形とか、動く鉱石に言われたくないな」
強がりで言い返すホムラ。
だが、ラオは、目をキョトンと見開けば、奥歯が見えるほど大笑いする。
「あーはっはっ! なに、お前、知らないのか? あーふーん、まだ自分が何者か、知らないんだ~あーあーいいなー知らないってなんて幸せなんだ~」
笑う、笑う、獅子の哄笑が響く。
哀れだと、憐憫だと笑い続ける。
「なにが、おかしい!」
「おかしいに決まってんだろう! 散々、邪魔してきた奴の正体が、人間のマネした人形って知れば!」
「あなた、何を言っているの?」
ミカは合点が行かない顔をする。
ホムラは人間だ。
精密検査でも人間と出ている。
重ねた検査により判明したのは、ただ
「えーっと、チーダマだっけか、そこにいる人間の意識をコピーして、別の肉体に入れたのがお前だって聞いたぜ~?」
ホムラの心に激震が走る。
意識・コピー・別の肉体。
ホムラはホムラのはずだ。
地球での記憶がある。
ミーローの大会に参加中、気づけば、惑星ガデンにいた。
てっきり肉体ごと転送されたと思いこんでいた。
だが、事実は違った。
「なら、僕はいったい」
本物ではない、まがい物だとの指摘に、ホムラは自我意識が崩れていく。
錯乱させるための、追いつめるための虚言だと否定したいが、できない。
否定する根拠が出てこない。
「言っただろう。コピーされた人形だって、もーほーたいだっけか、なんの目的に使うか忘れたけどよ、その身体は、元々こっちの物だっての! それをゴミと一緒に奪われたとかで、ママはご立腹だ!」
「嘘だ!」
「嘘かどうかなんて知るかよ!」
強かな蹴りがホムラの身体を貫いた。
寸前でミカを放り投げる形で突き放した。
蓄積したダメージが、内蔵をきしませる。
激しく横転する中、ミカの無事に安堵してしまう。
「ホムラさん!」
ミカの声が遠くで聞こえた。
瞼がかすむ、意識が遠ざかる。
ミカとは異なる声を聞いた。
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