第42話 ネズミが二匹

「ひ、酷い、酷すぎる」

 あまりに残虐な光景。

 ミカは顔を真っ青にし、胃の奥よりこみ上げるものをどうにか手と気合いで抑え込んでいる。

「これは、まさか地球の、太陽系の映像、なのか……」

 ホムラが今まで習った歴史など、まがい物にすぎなかったと痛感させられる。

 地球で間違いない。

 ニホン語や英語表記の看板や映像メディアが映り込んでいることこそ証拠だ。

(この映像はキ人戦エキの映像だ。僕たちは四〇〇年以前の歴史を教えられていない。戦争であらゆるデータが消失したから、でも違う。捨てたんだ! あらゆる機械やデータを宇宙に捨てることで、戦争の名を変えることで、悪しき戦争を忘れ去ろうとした! そうでなければ、こんな悲惨な地獄から前へ進めなかった!)

 捨てられた機械は、長い年月を経て、別なる惑星にて<大衝突>を引き起こした。

 国なる枠組みを破壊した。

 一方で落ちてこなければVギアは開発されておらず、人々は病に苦しみ続けていた。

 映像は終わる。

 フィナーレをかざるようにして宇宙に放逐される無人船団のニュース映像を最後にモニターの電源は落ちる。

(ご先祖のトオミネ博士は、人類をこの地獄から救い出した。救いだし……命を落とした)

 故に英雄を称えられた。

 身を挺して世界を救った英雄として。

(ご先祖様が英雄と伝わってるのは機械を止めるプログラムを組んだからだ。けど映像を見る限り、機械どころか人間まで暴走している。どういうことなんだ? 僕たちの伝え知る博士は、人の痛みを常に感じ取る心優しい人間のはずだ。誰かが死ねば涙を流す。誰かが傷つけば手当を施す。そんな人間のはずなのに……)

 矛盾が、生まれる。

 四〇〇年前、暴走機械から人類を救った英雄として語り継がれる男。

 もし戦争の元凶であるならば、生き残った世界は子孫すら忌むべき恥部として排斥しているはずだ。

 病気一つで人は人を容易く排斥する。

 であるならば子孫は、ホムラは存在していない。

「ほ、ホムラさん、この映像、まさか……」

 顔色が浮かないミカは、どうにか気力で立っていた。

 ホムラと同じく口の中が酸っぱいはずだ。

 喉が熱を帯びて急激に乾く。

 それでも確かめたいことがあった。

「ええ、間違いなく<大衝突>を起こした機械の出所の惑星……地球のです」

 カチリ、と近くの扉のロックが外れる音がした。

 小さな音だ。

 開錠するありきたりな音のはずだ。

 なのに本能的に扉をくぐるのに怖気を抱かせる。

「いや、知るべき、だろうな」

 直感がホムラに言葉を紡がせ、足を前に動かした。


「こいつは壮観だな」

 扉をくぐり抜けるなり、ホムラは目を見開き、驚嘆とする。

 驚くことばかりだ。

 いや驚きに慣れてしまい、驚くことに飽きてしまった。

「石が、七晶石ゲミンニュウムが、こんなに」

 室内は整然とドラム缶サイズの透明カプセルが並べられている。

 カプセル内は液体で満たされ、七色に輝く鉱石が収納されていた。

 カプセルの奥行きは見渡せぬほど遠く、天井も高い。

「いえ、石、だけじゃないわ」

 ミカが、とあるカプセルを指し示す。

 中にはレベル四の患者、イルクスが納められている。

 まるで美術館の彫像のように動かない。

 一人だけではない。

 カプセルごとに症状を分別されているのか、レベル一からレベル四の患者がカプセルに納められていた。

「こいつは!」

 とあるレベル四のカプセル前でホムラは瞠目する。

 中にいるのはオルカの頭部を持つ怪物。

 イルクスの一種だろうが、目についたのは腹部にあるギアだ。

「<バイデント>の奴らがつけるギアだ」

 Aの字を傾けたようなデザインのギア。

 それも一人だけではない。

 カプセル内にいるレベル四の患者の誰もが同じギアを装着している。

 Vギアと同じように量産されているのなら、一挙に解き放たれた場合を想像して背筋に怖気が走る。

「み、カさ、ん!」

 呼びかけるホムラだが、言葉を飲み込んだ。

 ミカは、いつの間にかコンソールの前に立っている。

 真剣な眼差しでパネルを操作しては、情報を引き出そうとしていた。

「ダメね、ロックがかかってて管理者権限が必要みたい」

「あれは? 仕事で使うハッキングできる端末は?」

「あいにく」

 任務違いにつき、トレイラー内の自室に置いてきたとのこと。

「ネズミが二匹、入り込んでいるみたいね」

 声がした。

 年若い女の声が空間に反響した。

 この声にミカの唇と瞳孔の震えが止まらない。


「リ、リ……?」

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