第27話 お願い、あなたの力を貸して

 四〇〇年前、戦争をたった一人で終結させた英雄。

 このペンダントはご先祖が身につけ、代々トオミネ家に受け継がれてきた。

 相応のお宝だが、研究一色の血筋か、骨肉争いは不思議と起こらない。

 持ちたい者が持てば良いというスタンスで、各家々が持ち回りで所持していた。

「そうよ、あいつはやればできるのよ。足りないのよね。自信ってのが」

 理想を押しつけるわがままの自覚はある。

 あるが自らのヒーロー象をミーローたる形に落とし込むのと同じ。

 原因は分かっている。

 ホムラの根の優しさだ。

 とはいえ情熱は人一倍ある。

 活躍させたい願望と傷つくのも傷つけるのも恐れる優しさが齟齬を起こしている。

『ハンドラー諸君、残り一〇分を切った! 準備を終えた者は指定された場所に集合するように! まだの者は慌てず急がず落ち着いて! 忘れ物がないかチェックも怠るな!』

 レフリーマンの電子音声がセッティングシート内に響く。

 ツバサはホムラの背中を見るが、セッティングは既に終えており、片づけに入っていた。

「そうだ」

 無意識に握りしめたペンダントヘッドにツバサは閃いた。


「嘘だろ嘘だろ嘘だろ、初戦の相手が前大会優勝者だなんて!」

 ホムラはポッドの中で緊張に震えていた。

 なんとか落ち着かせようと背面を深くシートに預けていても震えが止まらない。

 緊張で心音が身体を揺さぶってくる。

 予選は生き残りを賭けたバトルロイヤル。

 本戦は総当たりのトーナメント形式。

 一度も負けなく勝ち続けなければならない。

 抽選の結果、ホムラは第一試合。

 まさかの相手は前大会優勝者――前ニホン代表だ。

 組み合わせ抽選結果が出た時、同情の視線が無形の刃としてホムラに突き刺さった。

 帰りたい。

 けど帰れない。

 相手が誰であろうと夢にまで見た本戦の舞台。

 自身が魂込めて製作したミーローを晴れ舞台で活躍できる。

 できるが、バトルだからこそ破損は避けられない。

 相手のミーローを壊してしまうかもしれない。

 相手を悲しませるかもしれない。

 いくつもの、かもしれないがホムラの脳内でリフレインする。

「けど、けど!」

 胸元で煌めくペンダントを握りしめる。

 ポッドに入る前、ツバサがお守りだと首にかけてきた。

 先祖代々受け継がれる英雄の品。

 人によっては国宝、アーティファクト、聖遺物と呼ぶ至高の一品。

 英雄マニアが高額な取引を持ちかけるほどの代物だ。

 家宝のペンダントをツバサはホムラに託した。

 託されたのならば、その想いは裏切れない。

「それにツバサは!」

 彼女の姿を思い浮かべた時、緊張の震えは嘘のように引く。

 入れ替わりに現れたのは武者震い。

 世界大会が毎年開かれるブームだろうと、興味のない者からすれば、いい歳こいて玩具で遊ぶ姿にしか映らない。

 折角造った玩具を壊すために遊ぶなど矛盾している。

 小さい物を造る小さな人間。

 金と資源の無駄遣い。

 お人形さん遊び。

 この手の声は多い。

 ツバサはホムラの趣味を笑わなかった。

 この部位や動きがかっこいい、塗装がきれいと率直な感想を言ってくれた。

 バトルで負け続けようと、苦笑はするも叱責はしなかった。

 ただ側にいてくれた。

 人付き合いが苦手なホムラを引っ張り回してくれた。

 一番身近な異性であり、心許せる親友であった。

「やれるだけのことを、いけるとこまでとことん行ってやる!」

 壊れたら直せばいい。

 今より最高なミーローを作り上げればいい。

 決意を宿した目尻はつり上がる。

『ではただいまよりミーローファイト世界大会ニホン予選、本戦を開始する!』

 レフリーマンの電子音声がポッド内に響く。

 ただホムラは先の緊張が嘘のように鎮まり、スタートラインに立つランナーのようだ。

 今や今やと試合開始のコールを待ちかまえていた。

「へっ?」

 糸が切れるように暗闇が唐突に襲う。

 集中していた意識は襲来した暗闇に足を払われた。

「え、なにこれ? ちょっと!」

 先の凛々しさは一瞬にして消え、ホムラは情けない声をポッド内で上げてしまう。

 システムや空調の音すら消え、周囲を見渡そうと暗闇に包まれたまま。

「もしかして停電?」

 システムすら落ちているのなら考えられる事態だった。

 よって一旦ポッドから出ようと腰を浮かしかけた時だ。

 正面スクリーンに七色のノイズが走る。

 ノイズは人の影を形作る。

 共鳴するように胸元のペンダントが七色に染まる。

「へ、なにこれ? ペンダントにライト機能あったの初耳なんだけど! 七色に光るとかご先祖様の趣味なの?」

 ホムラの感情は困惑で終わる。

 そのまま糸が切れた人形のように倒れ伏していた。


 ――お願い、あなたの力を貸して。

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