第25話 ミーローファイト条約
「第一八回ミーローファイト、ニホン代表決定大会、予選のサバイバルファイトにて一〇〇名が決定しました! この一〇〇名の中から勝ち抜いた一名がニホン代表として世界大会に羽ばたいて行くのです!」
ステージはわき上がっていた。
司会進行の女性がマイクを手に、予選のハイライトをバックスクリーンに映す。
高く舞い上がった者同士が足裏を宙で激突させる。
スパークが迸り拮抗したのも一瞬、片方は迫り負け、墜落していた。
拳と拳が激突する怒濤のラッシュ。
互いに一歩も譲らず、拳が砕けようと殴るのを止めない姿は会場を沸騰させる。
情けなく逃げまどう姿が会場の失笑を買う。
ミサイルの如く飛来する一対の腕に潰されて終わりだとの予測は、振り上げられた脚にて見事に裏切られた。
「ではここで皆様、ミーローとは何か? おさらいと行きましょう!」
バックスクリーンの映像が切り替わる。
人体の骨格を模倣したフレームが映し出され、子供がパーツをつけてフィギュアを組み上げていく。
組み上がったフィギュアは専用のバトルフィールドにて命を与えられたかのように動き出した。
歩くは当然、走る、飛べる、転がる、寝ころぶと生身の人間と変わらぬ動きを披露する。
それだけでは終わらない。
フィールドを駆け抜ける度、足裏から雷光が走る。
突き上げた拳に炎が集う。
子供は、指先一つフィギュアに触れていない。
手には操作する端末すら持っていない。
頭部にヘアバンドのような装飾を身につけていた。
これこそフィギュアのコントローラー。
自分だけのヒーロー<my only hero>、ミーローを組み上げ、脳波で操作する。
イメージするだけで思い通りに動かせる。
雷光や炎の顕現、空を舞う仕組みはフィールドに内蔵されたプロジェクターや小型の反重力装置がバトルの臨場感を高めている。
「誰もが憧れ、夢見たことはないでしょうか? 自分だけの変身、自分だけのヒーロー、幼き頃、絵に描いたことはないでしょうか? ごっこ遊びで自分だけのヒーローを演じたことはないでしょうか? 幼き頃、ヒーローに憧れた子供が、俳優となり変身ヒーローとなって夢を叶えた実例があります。ですがヒーローを演じられなかった者がいる。ヒーローに至れなかった者もいる。大人となり、夢を忘れた者もいます。夢破れ、想い届かなかった者たちが確かにいます。ですが」
その想いを、夢を形にしたフィギュア、それこそがミーローである。
自分だけのヒーローを形だけでなく、思うがままに動かし戦わせることができる。
「ミーローとはMフレームと呼ばれる基本フレームに各種パーツを装着、専用のバトルフィールドにて操作するバトルホビーです」
二〇年前に発売されて以来、人気を博すフィギュアホビー。
拡張性の高さと市販自作問わずパーツを使用できる自由性、脳波コントロールによる操作性の高さ、フィールドに投影される臨場感あるエフェクトと、一気に人気を爆発させる。
当初はニホン国内でのみ販売されていたが、今では毎年世界大会が開催させる規模にまで発展していた。
「Mフレームには超小型モーターとコンデンサが内蔵されており、専用バトルフィールドから給電を受ける形で稼働します。またその強さは製作技術や
破損損耗はバトルホビーの定め。
ヒーローは何度倒れようと再び立ち上がる。
戦えば傷つくのは当たり前、壊れようと壊されようとその手で治して再び立ち上がる。
「続きましてルールのおさらいと行きましょう。レフリーマン、お願いします!」
『任された!』
女性の呼びかけと同時、一人のフィギュアがステージ天井から現れた。
専用の台座に損傷することなく着地する。
相応の高さから降りようと損壊なく降り立つ姿は客席の声をどよめかせる。
カメラ構えたスタッフがフィギュアに近づき、スクリーンに映像を中継する。
白と黒にカラーリングされたボディ、赤と青に塗り分けられた手、サングラス状のバイザーとメカニカルな頭部。彼はミーローファイト公式審判員レフリーマンである。
『ヒーローは千差万別、人の数だけ、作り手の数だけその姿形がある! だが、ヒーローとは己の正義を貫く者! 何よりこのバトルはヒーローとヒーローの真剣バトル! ヒーローを
両腕を後ろにやり、胸を張ったレフリーマンは続ける。
『それでは諸君、ルールを説明しよう! 把握している者は私とご唱和だ!』
レフリーマンは右腕を掲げ、スピーカーより音声を発した。
会場に集う者たちもまた続くように唱和する。
<ミーローファイト条約!>
第一条! ミーローとは自らの手で作り上げたヒーローである!
第二条! バトルにおいて先に相手を戦闘不能とさせた者が勝利!
第三条! 一対一が原則である!
第四条! 対戦相手を意図的に破壊するパーツは禁止とする!
第五条! 激しい損傷が確認された場合、レフリーストップが入る!
第六条! 己のヒーロー道の威信と名誉を汚してはならない!
『ざっとこんな感じだ!』
人間臭く咳払いをするレフリーマン。
中の人はおらず、本体はAI搭載の大型コンピュータであった。
フィギュアの姿は直にフィールドでファイトを取り仕切る端末である。
『これは大会が開催された当初から問題視されていたことだが、ミーローとは自らが組み立て作り上げたヒーローである。第三者の手で組み上げられたヒーローはミーローにあらず! よって大会運営は予選通過者にMフレーム換備のオーダーを課している。自らが作り上げたミーローならばパーツの付け替えなど苦ではないだろう。しかし、時間内に交換作業を終えられなければ失格となる。ペナルティーとして次回公式大会に参加できなくなるから注意するように!』
もちろんのこと、運営側とて、そこまで鬼ではなかった。
『諦めることなく自らの手でミーローを組み上げた者は、次々回の公式大会に参加できる資格を得る!』
基本、ミーローは子供でも組み立てやすい構造をしている。
扱い慣れた者ならば、フレームの手足に拡張パーツを取り付けてサイズを変更させる。
レギュレーションとして特にサイズや素材の規定はない。
※当然のこと、実物の刃物や爆発物などの危険物は使用禁止である。
金属・木材・プラスチック・繊維など自由な発想で使用できる。
だから、制限時間内に組み上げられない原因は、装着するパーツにあったりした。
自作のパーツほど凝りに凝った作りになりやすく、中には取り外しに繊細な注意を必要とすれば、スライド機構にて向きが定められているパーツもある。
作り手ならば把握できようと、そうでない者ならば組み上げるのに苦戦を強いられる。
ミーローはディスプレイする鑑賞フィギュアではない。
確かにかっこよさや美しさを競うコンテストは存在する。
だが根幹はバトルホビー。
フィールド内にて激しく動くからこそ、しっかりパーツを装着できていなければ、装着したパーツが外れるなどザラだ。
自分だけのヒーローである故に課せられた定めであった。
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