第19話 再稼働――RE:BOOT
無数の宇宙船が惑星ガデン全域に大衝突したのは、今から二〇〇年前。
何故、四〇〇年前なのか。
『そういや相棒、チーキューサンとかニホンゴとか、機械兵器に書かれた文字読むなり、驚いてたよな』
実況は飽きたのか、ダブルがトレイラーの屋根から降りてきた。
「まあ読んだ記憶はあるけど」
曖昧にしかホムラは返せない。
混乱を招くためミカたち<ヒギエア>スタッフには打ち明けていない。
おしゃべり浮遊物体ダブルが黙ることなく、いずれ口外するだろうと、敢えて口止めはしていなかった。
「ちょっと待って!」
ミカは血相を変えてはタブレットを取り出した。
映し出されるのは、機械兵器の各種データだった。
「試しに読んでみて!」
ホムラ自身、外国語は苦手なため、ニホン語だけに絞って読む。
英語の成績は、自慢ではないが、中の下だとの記憶が走る。
「う、嘘、読めるなんて、どんな翻訳機にかけても解析できたのはチーキューサンだけなのに……」
ミカは愕然として立ち尽くす。
次いでダブルが、あたかも手を添えるように物体の先端を、そっと右肩に乗せては慰めていた。
セクハラかと脳裏に過ぎるホムラだが、無機物に雌雄があるのか、はなはだ疑問だとして彼方に流す。
『もしかしなくても、相棒、実はチーキューから来たってオチ?』
「なら、お前もそうなるはずだが?」
地球の文字を読めてない時点で、ダブルの出自は否定される。
次いでホムラは自問するが、毎度の自答に至れずであった。
『事を類推するに<大衝突>で落ちてきた船はチーキューサンだってことになる。機械遺構の内装を鑑みるに、ここの惑星みたいな人が住んでいて、高度な機械技術を持っていた。けど、そのチーキューってどこにあるの? なんで、たくさんの船を宇宙に出したの? 移民にしては誰一人いないのはおかしいしデータには生活痕なんて一つもなかった。ゴミ捨てにしては仰々しすぎるし、疑問しか沸かないね』
閲覧したデータによれば、<大衝突>にて発見されたのは、高度な機械ばかり。
公式記録上、人間は一人も発見されていない。
「本当に、本当に記憶がないのが歯がゆい」
数えるのすら面倒になってきた。
走馬燈のように走る記憶らしき光景。
だが、真贋を確かめたくとも、確証が得られない。
『まあ世の中、なるようにしか、ならないぜ?』
ダブルの発言は、まさに無神経な他人事。
ホムラが眉根をひくつかせるのは当然であった。
左手の五指を動かし、掴まんとした時、地の底から突き上げたような揺れが走る。
「な、なんだ!」
見れば、不動の沈黙を保っていた機械遺構から、エンジン音のような音が、大地だけでなく大気まで響かせている。
『はぁ! なんか動力炉が再稼働してんの!』
ダブルが音声震わせ絶句する。
揺れの原因は、機械遺構の動力炉が始動したからだとしても、ホムラが艦橋らしき部位を双眼鏡で見ようと、人一人の影すら確認できない。
この揺れは、新たな亀裂を生む予兆ではないと、背筋走る寒気が本能で訴えてくる。
最初の異変は、甲板でリタイヤした
どれもが破損や装着者死亡にて、動くはずがなかった。
だが、見えざる糸に引き上げられるように起き上がる。
機械の右腕が力なく上がる。
本来なら、間接部が損壊して可動すらせぬはずが、可動に遜色はない。
各部に装備された未使用の武装が狙いをつける。
狙う先は、各陣営が築いた野外拠点。
トレイラーや予備戦力が並べられた箇所にめがけ、寸分違わず一斉に火を噴いた。
「くっ!」
『ちょおおおおっ!』
<ヒギエア>側とて例に漏れることはない。
狙いをつけられた瞬間、ホムラはダブルを掴んでいた。
力強く誰よりも先に、飛び出しては叫ぶ。
「
変身した瞬間、巻き起こる雷嵐が、防壁となり迫る攻撃を弾き逸らす。
「ダメだ、乗るな!」
異常事態を察知した<ヒギエア>スタッフが、自衛のため
手の先より雷撃を放ち、乗り込むのを妨害した。
「ホムラさん!」
突然の攻撃に、ミカを筆頭にホムラが倒錯したのかと困惑する。
「乗ると制御を奪われる!」
ホムラは青き指先を、他の陣営に向ける。
見れば、各陣営の
本来なら、
一カ所だけではない。
七カ所にて発砲音と爆発音が立て続けに起こっていた。
『なんだよ、これ、人の頭の中にズカズカ土足で入り込みやがって!』
腹部のダブルが悪態つく。
「ウィルスバグによるハッキングだ! ネットワークリンクを遮断しろ! 四〇〇年前、ネットワークが感染経路となって、あらゆる機械が惑星間規模で暴走したんだ!」
『あー詳しいね! 当事者?』
「当事者じゃない! 授業で習っただけだ!」
ホムラの脳裏に走るのは、教室で授業を受ける光景だった。
四〇〇年前、地球をはじめ、月から忘れ去られた惑星、冥王星まで甚大な被害が出た。
あらゆる惑星に、人工の生活圏を築き上げていようと、暴走が沈静した時、残った生存域は地球のみ。
それほどまでに機械の暴走は恐怖だと、人類史に深く刻み込んだ。
『ああ、もう、遮断しても勝手に広げて入って来やがる! ボクの中にも入ろうとはふてぶてしい!』
ホムラは青き雷光を全身にまとわせれば、大地を駆ける。
文字通り雷光の速さで各陣営にて暴走する
機械故、電撃を浴びせることで電子回路をショートさせて無力化していた。
これで被害の拡散は抑えられる。
『くっ、おおおおおおおおおっ! はっ!』
荒ぶるダブルの声が腹部から轟く。
『ふん、このボクの中に入ろうってなら、入られる覚悟はあるんだろうね!』
勇ましく吠えたダブルのツインアイが怪しく煌めいた。
『ほい、見つけた! やっぱりあの機械遺構か! なんで動力炉が再動したか知らないけど、中枢システムからデータが流入している!』
「なら、そこを叩く!」
コンピュータのウィルスはいわゆるデータを破壊するデータ。
ならばこそ、データを保存するサーバールームが原因であるのは間違いない。
水とて器がなければ保管できず、データもまた器たるサーバーがなければ、データを保存できない。
「ミカさんは負傷者の救護を! 後、機械には触らないで!」
機械なしで救助など、薬なしで患者を治療しろという無茶振りである。
『ふんぬ、問題なしだ!』
膨らませた鼻(?)を鳴らしたかのように、ダブルのツインアイが光る。
<ヒギエア>側の待機状態であった
振動とツインアイの光が連動しているの見抜いたホムラは腹部を睨みつけた。
「なにをしたダブル!」
ホムラは声を尖らせてダブルに詰問する。
『へっへ、それは愚問だぜ、相棒。ちょちょいとあっちの侵入システムを防壁システムとして応用しただけさ』
誰もが絶句するしかなかった。
ものの短時間で解析し、応用するなど並のAIだろうと無理に近い。
「これなら救助に向かえる!」
ミカはタブレットに指を走らせては各部隊に指示を送る。
機械が使用できるならば、救助は迅速に行える。
<ヒギエア>に属する誰もが、医療現場で生き抜いてきた実力者たち。
迅速かつ丁寧な救助活動が繰り広げられる。
その活動を妨げるのは、ひとつの軋み音であった。
亀裂に深く埋まりし機械遺構、全砲塔が震えている。
隙間に詰まった土塊を吐き出しながら、各砲塔が稼働する。
砲口の先は、各ポイントで救助作業を行う<ヒギエア>スタッフであった。
「させるか!」
砲塔の奥底で重い音が響いた瞬間、青き雷鳴宿す拳が砲塔をへし曲げていた。
『くっ~へし折るつもりだったのに、曲がっただけとか、どんだけ頑丈なんだ!』
「四〇〇年前の遺物だからな。けど、これで発射は阻止できた! あと、お前は殴ってないだろう!」
殴りつけた右拳にかすかな痛みと、ムカつきがホムラに走る。
砲塔を根こそぎ破壊するつもりで拳を打ち込むも、砲身を曲げることしかできなかった。
『一心同体だから、殴ったことになるの!』
「あ~はいはい!」
ダブルの力説を適当に流すホムラは、痛みとダブルの発言を振り払うように右手を震う。
足裏つけた機械遺構から振動が走る。
地の奥底より響く重低音。
先以上に、振動の幅は大きくなりつつある。
『あ~これボク知ってるぞ。あ~これかなりヤバい!』
諦観のように呟くダブル。
ホムラもまた否定せず、目尻を引き締め警戒する。
最初の変化は、ホムラが足裏つけた甲板のような平たい部位であった。
艦橋を中心線とするように真っ二つに割れる。
その時既に、ホムラは駆け出し、艦橋の真上に飛び乗っていた。
「待て待て待て!」
『お約束だ!』
落とされぬよう、両手両足で機械遺構にしがみつくホムラは焦り、ダブルは腹から叫ぶ。
深き地中に埋もれていた景色が上昇していく。
乾いた土色の断面から、荒野へと視界が変わる。
理由は、機械遺物そのものが上昇しているから。
真っ二つに割れた部位の先端から、別なる部位が現れる。
まるでつま先のように天に向けられ、大地に埋もれし部位に新たな亀裂が走る。
左右の側面より立方体の部位が展開、前面へと伸びる。
伸びた先、先端のシャッターが開き、巨大な五つの砲身が現れた。
砲身全てがバラバラに動く。
その動きは、まるで指先。
巨大すぎる巨大な手が形となる。
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