第16話 うまぁぁいい!?
「ありえないっありえないっ、あまりに常識から逸脱している、紛れもなくモブは天才だぞ!」
僕としては、当たり前に計算をしただけなので、別に驚くようなことじゃない。それでも、カオスにとって僕の演算能力は想像を凌駕していたようだ。
「け、計算が得意っていうお兄ちゃんの唯一のアイデンティティが奪われちゃった!」
「勝てるわけあるか! ……はあ、モブと会ってから自信がジリジリ削られていく幻聴が聞こえてくるよ。というかそんなに計算ができるのに、どうして魔法使いをしてないんだよ、もったいなくないか?」
「……?」
計算が得意なのと、魔法に何の関係性があるのだろうか?
疑問に感じて質問しようとしたが、元気なミーリャの勢いに掻き消されらてしまう。
「結構有名な進学校に入学したお兄ちゃんでもビビるってことは、さてはモブも偏差値ぶっとんでる高校に通ってんだな?」
高校……カスミンさんやユキノさんが通っている場所だっけ?
「いえ、僕は高校にはいってないですよ」
「お、マジかよ。やっぱ頭良いと学校なんか行かなくても人生余裕なのか、ズリィわ!」
白い歯をのぞかせ、快活な笑みをこぼすミーリャ。
一方で、カオスは口を結んでポカンと僕をみていた。
「……そっか、モブもなんだな」
己に聞かせるように呟いた彼は、何を語るでもなく、感情の伺えない視線を僕に注いでくる。僕の歳で学校に行ってないことが、もしかするとリアルでは珍しいことだったのかな?
◇
夜、攻略で腹をすかした冒険者の欲望を満たす『
耳を澄まさなければテーブル向かいの人の声も聞こえないほど、騒がしい中で、僕は誰よりも大きな声で叫んでいた。
「う、うまぁぁいい!?」
口内でほぐれる甘い繊維質な肉。
鼻を抜ける独特な香り。
一口噛むだけで、新鮮な海鮮の旨味がじゅわっと染み出て……じゅるり、ハア、ハア、ハア、上旨すぎる!
「虫みたいな見た目のくせに、どうしてこんなに美味しいんだ!?」
「わっはっは、モブも蟹の魅力を知ってしまったか!」
悔しいけれど、これは認めざるをえない。
この世で最も美味しい食べ物は……間違いなく蟹であると!
こんどギルドのNPCの子にもおすそ分けしなくちゃ。
「食べる手が止まらないです!」
冒険は終えた僕らは祝勝会として、『
「あたしも蟹大好きー、いや悪いねぇ、何もしてないのに参加しちゃってさ」
僕の隣には、幸せそうに蟹にむしゃぶりつくカスミンさんがいた。
キョウノグラに戻ってきたタイミングで、少しだけ遊べるとカスミンさんからメッセージが入ったのだ。普段から冒険を共にしている仲間だと伝えると、ミーリャが呼んじゃいよと言った訳である。
「カスミンも遠慮しないでどんどん食べちゃって、私らのおごりだぜ!」
「おお!? じゃ禁断の二刀流やっちゃうよー」
ミーリャに差し出された蟹を、両手で掴むカスミンさん。
彼女達はあっという間に仲良くなってしまったようだ。ちなみにカオスはカスミンさんに遠慮しているのか終始たじたじである。
談笑を交えつつ、今後の冒険の予定について相談すると、時間があるときは4人でパーティーを組もうという話になった。
ちなみにカスミンさんは出会った当初よりもレベルが上がっているので、現在はカオスと同じ15レベルだ。
「じゅ、重戦士に、剣士、弓士、魔法使い、バランスのとれたいいメンバーだ。レベル上げさえすれば、最初のボス、ギガント・キングピクテス討伐もいけると思う」
カオスがそう言う。
キョウノグラ周辺にはみっつのエリアがあり、それぞれ出現するモンスターの特徴違う。そして、ギガント・キングピクテスは僕らが探索している猿系モンスターが出没するフィールドの最奥にいるボスである。
このボスの討伐して、ようやく駆け出し冒険者を卒業したといえるらしい。その難易度はパティーを組む前提で、推奨レベル25。これまでの敵とは桁違いの強さだ。
「おっけー、と言いたいとこなんだけど、あたし学校と家の用事が忙しくて、あまりログインできないんだよね」
カスミンさんが残念そうに溜息を吐くと、ミーリャも頷く。
「私も空手部の最後の大会を控えてるからさ、あまり時間ないかも。でも、お母さんにお兄ちゃんの社会性を取り戻すように頼まれてるから、なるべくインするぜ!」
「お、お前はいつも一言余計なんだ!」
カオスが恥ずかしそうに眼尻に涙をためて、舌をだして笑うミーリャを睨む。
「くぅ、まあレベル上げは各自時間がある時にやっていばいい……しかし、このままだと装備が心もとないな、今日の成果も蟹に全部使っちゃったし」
換金予定だった魔石は欲望に負けた結果、全部蟹に化けた。
いや、あれだけ美味しいんだから仕方ないよね。
しかし、装備か……。
「そういえば僕、装備は貰い物なので武器屋さんに行ったことないんですよね」
「え、じゃまだ聖剣をみたことないのか?」
「……聖剣?」
なんだそれは。
驚いたカオスが目を見張った。
「キョウノグラにあるNPCが経営する武具屋には、ユニーク武器の剣が一本売られているんだよ」
「ユニーク武器ってなんですか?」
「未だにプレイヤーで所持している人数も極わずかな、最高レアリティの武器さ」
「そんなものが普通に販売されているんですか!?」
「うん、けどまあ事情があって購入できた人はいないんだ。それを面白がったプレイヤーが、アーサー伝説のエクスカリバーを揶揄して、絶対に手に入らないから聖剣だって呼び始めたんだ」
茶色の瞳を輝かせ、ミーリャが頬にえくぼをつくる。
「そうだっ、これから4人で行ってみようぜ! ちょうど私も新しい武器が欲しいと思ってたんだ!」
その提案に僕はテーブルから身を乗り出した。
「是非、行きましょう! 世界に同じ物は二つとないユニーク武器、とても気になります!」
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