第2話 ヤギュウ・ユキノ

 目の前に現れた光る透明な板……ステータス画面。

 何度も食い入るように画面を見返す。

 文字と数字が並んでいるが、どれもエラーになりほとんど意味を成していない。

 しかし、職業欄とLvの部分だけは正確に読みとれた。


◇名前 unknown


◇職業:NPCタイプD チュートリアルボス Lv.1


HP:F0xAA ERROR

MP:20C % ! ERROR

攻撃:0xBB...ERROR

体力:0x0 ERROR

魔力:== ERROR

耐性: end_F ERROR

俊敏:x(10) ERROR

器用:++ ERROR

幸運:0xAA ERROR


◇スキル


◇魔法


◇称号

・神N%h■加護

・エイドス・コードP03■■■


 正直、何が書かれているのかはさっぱり分からないけれど、見えるってことは間違いなく僕のステータス画面だろう。

 試しに右腕を動かす……動いた。

 体が自由になっている、言葉も自由に喋れる!


 「あ、ありがとう神様!」


 何故解放されたかはわからない。

 職業のNPCタイプD チュートリアルボス? ってのも不明だ。

 けれど、念願の自由をようやく手に入れた。

 だったら、悔いのないように生きよう。

 NPCでもトッププレイヤーさんに負けない冒険者になれるんだぞって証明しよう。この世界に僕という人間が生きた証を残すんだ!


「よーしっ、いますぐ冒険をはじめるぞ!」


 新たな決意を胸に僕は道具屋を飛び出した。




 さて、勇み足で飛び出したのはいいが、冒険者ってどうやってなればいいんだ?

 誰か教えてくれる人がいればいいんだけど……。


(そうだ、ユキノさんなら何でも知っていそうだし聞いてみよう! まだそう遠くへは行ってないはずだ)

 

 ユキノさんを探すために、キョウノグラ―――通称『冒険者はじまりの都』を練り歩く。

 格子状にきっちりと引かれた大路おおじ小路こうじを勘で歩きながら、都の風景を眺める。木造屋が整然と並び、軒先には色とりどりの反物や提灯がぶらさがっていて趣深い。


 冒険者で賑わう雑多な空気に浸っていると、川を跨ぐ太鼓橋たいこばしの上で待ちぼうけているユキノさんをみつけた。

 

「あ、あのっ、ユキノさん。僕、冒険者になりたいんですけど、どうしたらいいですか!」


 勇気を振り絞って、開口一番そう声をかけた。彼女は大きく目をぱちくりと瞬かせ、じっくりと僕の全身を見渡す。


「……君さっきの売り子の人?」

「はいっそうです! 先ほどはお買い上げありがとうございます!」


 ぺこりとお辞儀をすると、彼女はコテンと首を傾げる。


「なんで道具屋にいたの?」


「なんでって……普通に働いていたんですけど」


「……店舗のアルバイトシステムは知ってる。でも、何故わざわざ一番稼げないキョウノグラの道具屋で? てっきりNPCだと思った」


 てっきりもなにも僕はNPCである。

 ……もしかして、ユキノさんは僕をプレイヤーさんだと勘違いしているのかな? 

 それなら誤解を解いてあげないと……


「N……がっ!?」


 その刹那、喉に石を詰め込まれたような感覚に陥った。

 

(な、なにこれ!?)


「けほっ、けほっ」

「……大丈夫?」


 コテンと無表情で首を傾げたユキノさんの長い黒髪がさらさらと揺れた。


「は、はい」


 なんだ……NPCと言おうとすると喉が絞られてしまう。

 ど、どうしよう、これじゃなにも説明できないじゃないか!


「? まあいい。それで、初心者だから色々教えて欲しいのね?」

「……はい、どうすれば冒険者になれますか?」

「とりあえず、職業ジョブ選択さえ終えていれば大丈夫」

「それならもうあるので問題ないです」

「ちなみに、どの職業を選んだか聞いてもいい?」


 ……困ったな。職業にもNPCってついているから口にできない。

 唇を横に結び言い淀んでいると、彼女は力なく首を振った。


「職業を隠す人は多い……言わなくてもいいよ」


 残念そうでもなく、淡々とそう告げた。


「教えてもらう立場でごめんなさい、どうしても説明できなくて」

「初心者を導くのが古参の役目、構わない。色々教える前に、まずは君の名前を知りたい」

「僕は……」


 名前、名前かぁ……。

 特にこれといった呼び名はない。

 いや、そういえば、ひとつだけあったな。

 時々道具屋に訪れるプレイヤーさん達が、僕を呼ぶ時に言っていた名前が。


「僕はモブです! いつもそう呼ばれてます。道具屋のモブモブ・チャープマンでお願いします! 16歳です!」

「私と同い年だね。よろしくモブ。何も装備を持ってなさそうだし、お古で良ければあげる」

「ユキノさんの装備!? いいんですかそんな貴重なものを貰っても!?」


 それってファンなら垂涎ものの、超お宝なんじゃないか!?


「うん、これ」


 そういって彼女が無造作に手を伸ばすと空間に黒い穴があいた。色んなアイテムを収納できる場所、ストレージだ。そこから金の装飾が施されている、信じられないくらい高価そうな刀を差し出してきた。


「いいモブ? 全プレイヤーが目指すべき職業は侍一択。それ以外は認めないから」

「え、えっと」

「刀はいいぞ……」


 ユキノさんの顔に暗い影が差した。

 断ったら斬られかねない勢いだった。恐る恐る受け取ろうとすると、刀は弾かれたように僕の手から転げ落ちる。


「……そうだった、武器強化してるから装備のレベル制限が……くぅ」


 ぷくーとユキノさんの右頬を膨らむ。


「刀は駄目でも、普通の武器ならいける。ちょっと待って、たしか記念にとっておいた初心者時代の装備一式がどこかにあったような」


 ごそごそと手を動かすユキノさんのストレージから、色んなものがこぼれ落ちてくる。籠手や皮鎧に混じって、ポーションやら木の棒とか鍋の蓋が音を立てて地面に散乱した。しかも、禍々しいオーラを放つドラゴンの頭蓋骨もあるし……ユキノさん、整理整頓できないタイプだ。

 

「これで揃った」

「ありがとうございます!」


 渡された装備一式を身に着ける。

 皮鎧は僕の身体に合わせて収縮し、自動でフィットした。

 凄いなぁ、魔法の力だろうか?

 そして、最後にぐりぐりとお腹に曲刀シミターをユキノさんが押し付けてくる。

 

「あげる」

 

 どうやら剣以外は認めるつもりはないらしい。憧れの人が冒険を始めた時の装備だ。受け取らない理由はない。

 

「モブ、じゃフィールドに行こうか?」

「はいっ!」

「けど、ニュー・エリシオンは初心者に難しいから、すぐにバテると思う」

 

 ユキノさんはあまり期待していなさそうな声でそう言った。だけど、僕は初めてのモンスターとの対峙を想像して胸を躍らせた。さあ、初戦闘の時間だ!

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