第12話 勇者カイン
「アジフライ定食、ふわふわでとても美味しかったです。」
「良かった。」
「お腹一杯です。また来たいです。」
リルはサシャの言葉を聞いてご満悦である。
「海を眺めながら今後の行き先を考えようか?」
「はい。」
海が見える丘でサシャと今後の活動を考える。
「冒険者登録という当初の目的は果たせたから、どこに行こうか。」
「私は特に行きたい場所はないです。リル様に付いて行くだけです。」
うーん。サーシャを探しに行くとして、最有力の候補地はミルト聖王国なんだけど、転生してたら、とっとと聖王国を出国していると思うんだよね。
聖女をしていた時、しょっちゅう『聖女なんか辞めたーい。』って言ってたから。
どうするかなー。
とりあえず、急いでサーシャを探しに行かず、のんびり旅をしながらサシャの心のケアに努めるのが優先かな。
「サシャ、この丘から海の向こうに大きな島が見えると思うんだけど。」
「はい。うっすら見えます。」
「あそこはジャボネ国という名前の国なんだ。」
「へぇー海の向こうにも国があるなんて初めて知りました。」
「とりあえず、あそこに行ってみようか。見分を広げるのも良いよね。」
「はい。すごく興味があります。」
「よし。じゃあ、港に行って船の時間を確認しに行こう。」
「はい。」
リルとサシャは丘を下りる。
途中に帝国の療養施設があるのだが、そのデッキに知ってる魔力をまとっている人物に気付く。
この気配は勇者カインかな。
リルはキョロキョロと辺りを見渡す。
するとテラスでボーっと景色を眺めているカインを見つける。
リルは懐かしくなったのか、カインが座っているテラスに近づいていく。
「あっ、ここは帝国の療養施設だから部外者の立ち入りは禁止だぞ。」
「カイン、久しぶり。」
「お前誰だ?子供に知り合いはいないぞ。」
「あっそっか。この姿じゃわからないか。ちょっと待ってね。〈アクロシー〉」
リルは変身魔法を解除してフェンリルに戻る。
「お前、リルか?」
「そうだよ。カイン。」
「リル。お前、治癒魔法使えたよな。」
「うん。使えるよ。それがどうしたの。」
「俺の左足を治せるやつがいなくてさ。
サーシャなら可能だったが・・・。
あれから10年経つのにこの通りだ。」
魔王討伐で失った左足を治せるものがいなくて俯くカイン。
「なるほど、サーシャの代わりの聖女が聖王国で育ってないんだね。」
「そうなんだ。でもリルならどうにかできるんじゃないか。」
「やってみないとわかんないけど、できる気がする。」
「頼む。リル。」
「あ、うん。物は試しだ。いくよ。〈メガスセラピア〉。」
大規模治癒魔法を掛ける。
すると、カインの左足が光り、徐々に左足の輪郭が現れ、左足の欠損が無くなっていく。
「リル。感謝する。」
カインは感謝の意を述べ、どこかへ行こうとする。
「カイン、待って。10年も使っていなかった左足なんだから、慣れるまでリハビリしなきゃ。」
「いや、そんな悠長なことしてられない。
実は、昨日、到着予定だった第二皇子殿下一行がこの療養地に未だ到着していない。
サンシーに立ち寄ったという報告も挙がってない。
きっと魔の森付近で何かトラブルがあったに違いない。
やっと動けるようになったんだ。
今すぐ確認しに行きたい。」
「治ったばっかじゃん。無理だよ。
それにすでに他の騎士が調査に向かっているんでしょ。」
「そうだが、今回、皇子の護衛に着いた騎士は精鋭揃いなんだ。
そいつらがやられた可能性がある。
もし、戦闘になれば、療養所の騎士で歯が立つとは思えない。」
「なるほどね。
皇子達だけじゃなく、騎士の心配もしているんだね。
じゃあ、僕が確認に行ってあげるよ。」
「えっ。」
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