事故物件と吸血鬼と生首

深山瀬怜

第1話 身の上

「全く、次から次へと……何なのかしらこの部屋は」


 榛斗に紹介されたのは、入居者が一ヶ月ともたずに出て行ってしまうような事故物件だった。もちろん榛斗も民警なので自分で対処してはいるが、それでも追いつかないらしい。そこに白羽の矢が立ったのが、住む場所を失った蛍だったというわけだ。ここに出る怪異は蛍ならば対処可能だろうという判断らしい。

 最初に部屋に巣食っていた悪霊を追い出した結果、今度は色々な怪異が寄りつくようになってしまった。そういう存在の通り道兼宿のようになってしまっているようだ。いずれそれに関しても対策はしなければと思いながらも、特に害のない怪異ならば無視することにしていた。多すぎていちいち対処するのも面倒なのだ。

 そんな事故物件中の事故物件である蛍の部屋に、突然生首が現れたのだった。


「で、あなたはなんでこんなところに?」

「いや、それがね? 思い出せないんだよぉ」


 蛍は溜息を吐いた。生首から得られた情報は、それが男であること、そしてどうも生前はサラリーマンだったということだけだった。サラリーマンがどうして生首になるのか。首になる、というのは比喩表現であって、実際のところはただの解雇だというのに、本当に首になってしまったということなのか。


「別の思い出せても思い出せなくても私はどっちでもいいのだけど。あなたが望むならさっさと成仏させてあげてもいいわよ」

「待ってくれよぉ……俺まだ成仏したくないんだよぉ……せめてもうちょっと思い出してからにしたくて……」

「でも手がかりがなさ過ぎるもの。あなたの身の上話、さっき頑張って全部聞いてあげたけど、全部その状態になってからの話だったじゃない」


 生首になってから、ふらっとどこかのオフィスビルに入ったら大騒ぎになったとか、ごまかせるかと思って美容院のカットモデル人形に紛れたとか、そういう話ばかりだ。碌な情報がない。今のところは害はなさそうだし、害があるとわかったらすぐに倒せばいいだけだと思っているから一応話を聞いてやっているが、そろそろ血の鞭でしばいてもいいだろうかと思い始めているのだった。

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